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#7 腐女子活動の面白さとクリエイティビティ

ご無沙汰しています。ねほりんぱほりんに出演しませんでした、Amatiです。

連載後半だしマジメな話をしよう!と思い、それにあたって参考文献(という名のBL関連書籍)に触れているうちに迷子になっていました。
これが凄くて…

BL作品が社会の価値観にどう関わり、相互に変化していったか。時系列的に、商業BL作品を軸として解説するかなりマジメな書籍です。

何が良いって表紙。とくに表紙のカバー裏がメチャクチャ最高なので枯れ専腐女子はぜひ見てください…
中身も本当に素晴らしかったんです。一時期「もう私書くことなくね?」って思っちゃうくらいに。でも書くよ。
私はどこにでもいる、「ジェンダー以外は取り立てて性的な苦労はないヘテロの腐女子」。娯楽としてのBLの楽しさを語ります。

腐女子活動って?

腐女子ってなんですか→「推しカプが同棲する部屋の天井になりたい人」と書いたのは私ですが、では腐女子活動とは何かといえば
推しカプが同棲する部屋をつくること
の一言に尽きます

推しカプが同棲する部屋をつくる…?

これは例を出したほうがわかりやすいはず。

BL大喜利遊びのひとつに「セックスしないと出られない部屋」という設定があります。
起源はおそらく、相手を殺さないと出られない部屋に閉じ込められるパニックホラー『SAW』になると思うのだけれど

たとえば

  • 目がさめたら知らない部屋に二人きり

  • 部屋にはベッドが一つだけ置いてある

  • 床には「セックスすれば扉が開きます」と書かれたメモが落ちている

こんな環境に推しの二人を入れたらどんな会話が発生して、どんなふうにコトに至るのかということを妄想する、そんな遊びです。(結局ヤるのは既定路線)

その部屋で腐女子がどこにいるのかというと大抵は天井です。
でも「部屋のなかにはいない」というのもアリ。つまり、部屋から出てくる二人の姿を妄想するだけでもオッケーです。

  • 二人とも真っ赤な顔で照れながら出て来る

  • 両者べったり手を繋いだまま出てくる

  • ドアが開いても二回戦に没頭して部屋から出てこない

  • 受がカンカンに怒って、攻めがヘロヘロと謝りながらあとについて出て来る

アナタの推しはどれでしょう?どれも美味しいですね(笑顔)。

その他、推しカプの部屋

この部屋、どんなジャンルのどんな推しカプにでも活用可能なのですが、他にもいろんな設定があります(というか、人の数だけある)

  • 推しが貧乏学生だった頃に同棲していた四畳半のおんぼろアパート(風呂トイレなし)

  • 古い因習が残る忘れられた山村

  • ホグワーツ寮

  • 嵐の中で孤立した山荘(天才キッズ探偵もついてる)

  • 推しのどちらかがタイムループしている世界

  • 中央にベッドがどどんと置いてあるがメモはなく、何をすれば出られるのか分からない部屋

などなど。私が大好きなのは古い因習が残る山村です。もちろんクライマックスは「村焼き」ね。

説明しよう!「村焼き」とは?
創作の定番「村が燃える」という展開のこと。
「幼い主人公が故郷の村を焼かれて天涯孤独になる」「村を焼き、住民を皆殺しにした冷たい瞳の若者」など、お約束シーンとしていくらでも目にする機会がある。
燃え上がる村、阿鼻叫喚の村民たち、その中に唯一人立ち尽くす主人公…みたいな、コントラストの強い絵面が簡単に手に入るので、たいへん便利。
村焼きに至るまでの過程や、登場人物たちの個性などが「燃える村」を背景に最高潮に盛り上がるカットなので、推しを焼ける村に放り込むの私だーいすき!

「社会システムがどんなふうに破綻して、そのとき村を焼くのが誰なのか」を妄想するだけで何時間でも楽しんでいられるので、現実逃避したい時なんか、よく脳内で村焼いてます。

ホグワーツ寮の元ネタはもちろんこれ

海外ではカラマーゾフ家の四兄弟もホグワーツ寮組分けの餌食になっているとか…

腐女子活動の何が面白いの?

腐女子の思考って「同じ画に入っていればカップル」「目が合えば実質キス」「会話していれば結婚」ぐらいには余裕の飛躍をするので、一人で妄想していればそれだけで楽しいのですが、せっかくなのでもう少しアクティブに行ってみようと思います。

「わかりみ」の共有

Twitterやpixivなどで妄想を吐き出しているうちに、なんとなく同じようなことを考えている人と親しくなっていきます。
他人の妄想を覗くのも、自分の妄想を吐き出すのと同じくらいに楽しい。
「わかる、わかるよ!!!」とお互い盛り上がっているうちに、会ったこともないのに無二の親友のような気がしてきます。実際会えばその瞬間に意気投合。腐女子のオフ会、超楽しいです。

なお、昨今あらためて言われる警告のなかに「インターネットを通して知らない人と知り合うのは怖い、危険」というものがありますが、
こんな妄想を吐き出している私に危害をあたえるために、こんな妄言を繰り返す人なんていなかろうよ
という逆説的な安心感があり、ネットで知り合った腐女子と仲良くなるのに怖さを感じたことはあまりありません(あまり、ね)。

ものを作る喜び

萌えが大脳新皮質から溢れて作品になると、そこから本が生まれます。いわゆる同人誌、薄い本です。

この「作る」という行為が、非常に楽しい。
全部自分で考えて、全部自分で決めて、自分の思ったものを時間とお金をかけて完成させる喜びには、ちょっと他にない中毒性があります。

詳細は次回「腐女子の実務能力を紹介するぜ」で書こうと思うのですが、作品を完成させるには、かなり幅広い実務スキルが必要です。

能力を活かす機会に恵まれない、権限も報酬も制限され、細分化されたルーチンワークでしか業務に関われない…そんな、企業組織にフラストレーションを溜めた有能な腐女子が、思い切り羽ばたいてうっぷんを晴らしています。

「人と」ものを作る喜び

創作活動には結構な実務負荷がかかります。そして、その負荷と喜びをさらに倍増させるのが同士の存在。「人とものを作る」というマゾい行為が「合同製作」です。

同人誌には、一人で作る「個人誌」と何人かで作る「合同誌・アンソロジー」があります。
すごいのは、アンソロジーの主催(発案者)。同好の士を取りまとめ、原稿を集めて一冊の本を作る人です。
主催者も参加者も「好き」という気持ちだけがモチベーション。この愛とリビドーを、暴走も枯渇もしないようにコントロールしながらスケジュールに合わせてプロジェクトを進める手腕には尊敬しかありません。

ホント、今まで何人の腐女子に「この人と仕事したい」「この人に上司になってほしい」と思ったことでしょう。そして現実の上司や上役に…「アナタこの程度の知識と能力でよく偉そうにできるよね」と…ごにょごにょ…

提供者と消費者が分かれていない

腐女子活動として最も目立つのは、作成した同人誌の頒布。つまり「コミケ」に代表される「同人イベント」でしょう。
ただし、これは昨今流行りのCtoC市場の様相とは少し離れています。

BtoCでもCtoCでも、多くのコンテンツが「提供する者」と「消費する者」に別れており、二者の関係がコンテンツの隆盛や凋落に深く関わります。消費者側には「にわか、老害」とか、提供者側には「媚びた、劣化した、わかってない」など、双方の(身勝手な)言い分があるためです。
そのてん腐女子活動では、発信者と受信者の境界が曖昧です。いるのは「同好の士」のみ、悪い意味での神様たる「お客様」の居場所はありません。

腐女子は「妄想せずにはいられないし、その妄想を語らずにはいられない」もの。そして、他の人の妄想ももっともっと引き出したい、なんなら本にして出してほしいと思っている者たちの集まりなのです。

お客様になれるのは石油王だけでしょう。というか、もし石油王が現れたら
石油王をこの沼に引きずり落として、こういう内容の超シコい映画を撮ってもらう
のを狙って推しの全力プレゼンをするでしょう。

新参さんいらっしゃい

少なからぬ娯楽で、「これを履修しなければ俺達の仲間として認めんぞ」みたいに昔の人が威張っているうちに若い人に嫌がられてオワコン化…みたいな栄枯盛衰があるものですが、腐女子活動においては、それは無いように思います。
何せ新しい妄想のタネは無限に生まれ続けています。そして、古いものも決して腐らずに残り続けています。

また、「これを知らずに語るな」みたいなものも、とくにありません。だって、#5 いにしえのBL、男色とはチョトチガウで紹介したとおり、時代に先んじて、BL作品の感性はアップデートされ続けていますから。
内省傾向も自浄作用として働くので、ことBLに関しては「昔のほうが良かった」と本気で思っている人はいないんじゃないかなあ…(あの作品は超良かった、はもちろんあります)
私も老腐の域に近づきつつありますが…今のほうが良いと思うなあ。

センパイ腐女子はいつでも沼の底から「おいでよ…たのしいよ…こっちにおいで…」と手招きしています。
なあにジャンルが違っても良いのです、この沼は楽しいのです。

我々の財布が狙われている(財布開けて待ってる)

さて2017年は、錚々たる作品のアニメ化や再アニメ化が発表されて我々アラサー・アラフォー世代の(金持ってる)層が完全に狙い撃ちされているのを感じます。

これとか

これとかこれとか!

極めつけ!

狙われすぎでしょう(嬉しい)
お財布持って待ってますので、いいコンテンツを作ってください。
(あ、でも銀英伝アニメはフジリュー絵が良かったなあ…)

とても嬉しいのですが、BL市場の高まりを「有能な女性消費者を見つけた」という論点だけで語るのは、ちょっと物足りないところ。
腐女子の真のポテンシャルはもっと別のところにあるし、20年後はもっと違うニュアンスで社会に浸透しているように思うのです。

というわけで次回は「腐女子の実務能力について」。ちょっとマジメなビジネス論も語りたいと思います。

<<【BL解説コラム箸休め】オメガバースってなあに?
>>#8 腐女子の実務能力を紹介するぜ


投稿日 2018.01.18
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


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