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ReSo(レゾ)って何? BLを含み、ブロマンスとは違い、腐とは共存しない

BLに関する用語は偶発的にも意図的にもすごく頻繁に生まれては消えています(この動き自体に内省傾向や試行錯誤を感じるので好き)。

その中で、最近知った「レゾ/ReSo」という新語にかなり感銘を受けたので、この用語が示すものや、そうだよこの言葉が欲しかったんだよと思うに至った背景などについて語ることにしました。長いよ!!!

「ReSo/レゾ」って何?

ReSo/レゾとはBLやカップリングを含み、「性愛ありき」に限らない包括的な関係性を示す、「relationship(人間関係)」と「resolution(解像度)」を組み合わせた造語です。

発起人の方のツイートがこちら、ツイートのリンク先に詳しい定義が書かれています。カンの良い方ならさらっと読んで「二次的な解釈で歪めちゃアカンやつ」って分かってもらえると思う。

このツイートが届いた界隈の反応は概ね「こういうの待ってた!!」と「必要性が分からない/これまでの○○と何が違うわけ?」に二分されています。

「必要な人のもとに届きますように」と書かれている通りで、私はまさにこの概念を端的に表す言葉を待っていた者です。

これまでの用語との違い

現状のボーイズラブ関連用語には、ぶっちゃけ潜在的・構造的な課題があります。私自身「この感情を表す言葉がないな」としっくりこない時に「そういうものだしな」として流すには、ちょっと重くなっていたところでした。

「関係性」の表現を自由にする

これまで解説してきた通り、ボーイズラブっていうのは概ね、女の女による女のための「男性どうしの関係性」を消費する娯楽です。その中でもメインになるのは性的な消費であり、身も蓋もなく言えばどっちが挿れる方でどっちが挿れられる方だと思っているかがものすごく重要になっています。

「何故そんなに重視するのか」についてはかなりパーソナルかつセンシティブな話になるため、一般化はできません。私も基本的にはえっちなのっていいじゃん!って強く思っているクチですが、その反面「棒と穴の向き経由じゃないと関係性を表明しづらい」問題については「どうすればいいのかな」と考えていました。

ヤるヤらないに関わらず、カップリング表記は「A×B」で「お布団の中ではAくんがオトコ役でBくんがオンナ役!」を示します。二次創作イベントもおおむね「何かしらのカップリング」を表明する前提で構成されています(おおむね、ね!)。そのため「どっちかっていえばこのカプかなあ」みたいな判断も現実解として存在しており、「……どっちか選ばなきゃダメなのかなあ」という戸惑いはふんわりと無視されてきました。

「恋愛や性愛を経由せずに関係性を推したい場合がある」というニーズに、レゾはかなりマッチします。

BL・GL・HLを含む

ボーイズラブのメインストリームは性的消費です。私も大好きです。が、性行為のない/性行為ありきではないボーイズラブも大好きです。

ロマンスとセックスだけではない愛情の関係性をレゾとして推す中で、その対象が男の子2人であれば、それは「ボーイズのラブ」になります。つまりレゾとボーイズラブは共存する概念です。

同様の理由で、レゾは「女の子どうし(GL)」や「ヘテロの2人(HL)」「複数人の関係性」も包括します。例えば「男女混合の幼馴染3人が尊い」みたいな概念も端的に表現できます。

「ブロマンス」との違い

レゾはブロマンスと「ケンカする概念」ではありません。そのため「ならレゾって言葉必要?」と感じる方もいる様子です。

この部分を語るには、まずブロマンスって言葉の由来から説明する必要があります。かったるいと思うけど着いてきてくれ

ブロマンスとは「brother」と「romance」を組み合わせた造語です。女性どうしの場合には「ロマンシス」と言います。「性的な関係ではない2人の絆」を指し、「バディ」とかなり近い概念です。

私はブロマンスを「ボーイズラブの範囲内にある、カップリングではない関係性を示す概念」だと考えていたのですが、どうやら「ブロマンスとはボーイズラブ未満の関係性のこと」だとか「いやブロマンスはボーイズラブよりずっとヤバいから」みたいな使われ方をしているんですよね。

ブロマンスを「性行為の成立しない男どうしの関係性って超ヤバくない?」という意味で使うなら、それは古典的ホモソーシャルとほぼイコールになります。南方熊楠が男色談義で語ってた「硬派」ってやつに戻ってしまい、「そういう事が言いたいわけじゃないんだわ」という違和感を解消できません。

私はこれを「ブラザー+ロマンス」という語彙の構造上の欠陥だと考えています。男ふたりの関係性を表現するために生まれた言葉だからこそ「男ふたり以外」の関係性と切り離されてしまいました(すごく惜しいと思ってる)。

また、ブロマンスとロマンシスは「(おそらくシスジェンダーの)同性どうしの関係性」を指すため「そこに該当しない組み合わせ」を表現できません。

同様に「コンビ」「+」という表記もあります。しかし「カップリング」「×」ほどの強力な関係性を示す言葉にはなっていません。私は「あえて言えば……+、かなあ」という妥協的な表明をした経験があります。

「あえて言う、以外の表現はないものか」困っていた私にとって、レゾはかなり「しっくり来る」概念でした。

「スラッシャー」「シッパー」ってのもあるけど?

海外のお姉さんたちはカップリングを「A/B」のスラッシュで表記します。これは日本における「×」とほぼ同じ意味で、スラッシュするお姉さんは「スラッシャー」と呼ばれます。

それと別に「シッパー(shipper)」という言葉もあり、これはスラッシュよりも「性行為以外の関係性」を推すニュアンスを含みます。多分relationship(人間関係)のer(が好きな人)の略だと思います。これだけ見れば、レゾにかなり近いんじゃないかな。

ですが、なぜか「A ship B」にあたる表現は見かけないんですよね(あったら教えてください、私が知らないだけかも)。シッパーのお姉さんたちは「スラッシュではない関係性」をどう語っているんでしょうか。

私は「ReSoのAとB」で「スラッシュではないシップ」の話がしやすくなることを期待しています。

「腐」とは共存しない

レゾは「ジャンル名をもじった腐向け」フレーズとの併用を不可としています。理由は発起人の方の説明に詳しく書いてありますが、たしかに包括的な関係性を推すなら、BLにだけ「腐向け」が付与されるのは適切ではありません。

悪意の有無とは無関係に、「腐」には潜在的な差別のニュアンスが含まれます。それが男性同性愛に対してのものか、女性性そのものに対してなのか、女の性欲に対してなのか、あるいは自分自身に対してなのかは使う人によるでしょう。ただ、女の子ペアや男女ペアの性的消費は「腐ってる」とは言いません。

オメガバース解説でも触れた通り、娯楽は大なり小なり差別の喜びを内包しています。自由で多様だからこそ、その暴力性には自覚的でありたいと考えており、実はしばらく前から私は「腐」を使わないようにしています。

めちゃくちゃよく考えられてる!!

イェーイ着いてきてる〜〜〜?
ホンットこの表記よく考えられているなあと思うんです。上記ツイートのリンク先からは、発起人の方がかなり理詰めで作っていったことが分かります。

特に素晴らしいと思ったのが、(はっきり明言はしないものの、暗に)ホモノーマティヴィティに言及している点です。これはいわゆる「シスヘテ」にあたる私には説明しにくい、でもかなり深刻な課題で、どうすればいいのかまるで検討もついていませんでした(詳しくはググッてください)。

ツイートのリンク先にある定義や説明には、セクシャリティを表明した発起人さんの「より包括的な愛情と関係性を語る言葉を」という願いとか、祈りみたいなものが込められていました。

この言葉じたいが定着するかはまだ分かりませんが、こういう概念が言語化され、それに対するアプローチとして「レゾ」という言葉が提案されたことを、心から「ああ、すごく良いな」と思います。

心の聖域を表す言葉だからこそ

推しというのは、とかく不自由な私たちの、心だけは自由であれる場所です。その推しを語る言葉が多様化するのは本当に良いことだし、言語化の難しい概念にどんどん多様な名前が着いて、いろんな言葉でより自由に遊べるようになれたら嬉しいな、と考えています。なので私は「レゾいのもエロいのも大好き」なオタク。ていうか今は強めの夢女にやっててめちゃくちゃ楽しいです

このコラムの連載完結から4年が経って社会も私の価値観もかなり変わり、書き直したいを超えて正直もう消したい部分もすっごいあるのですが思考の記録は残しておいたほうがいいよね、の思いで追記にしました。

次の追記はまた4年後かな。その時は、今と全然違うこと言ってるかもしれません。


投稿日 2022.10.31
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です

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