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夢食い虫

 最近体が痒くて、見てみるとごく小さな傷が皮膚にできていた。虫にでも噛まれたのだろうか。痒みは収まったものの、なんとなく物事に集中できなくなってきた。
「というわけなんですよ」
 アパートの大家さんが暇そうだったので話してみた。

「夢食い虫だね」
 大家さんはほうきを掃く手を止めて答えてくれた。
「夢食い虫?」
「人の布団に住み込んで人の夢を食べてしまう」
「ダニですか?」
「いや夢食い虫だよ」

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融通の利くカレンダー

 夏休みの終わり、僕はカレンダーに向かって祈っていた。
「夏休みが終わりませんように。九月が来ませんように」
 まだやることがあった。テーマパークにもう一度行きたかったし、渓流釣りもしたかった。あと宿題も終わっていなかった。
 午前中はひたすら祈っていた。昼食はそうめんでデザートにスイカを一切れ食べた。祈っている暇があるなら宿題をやりなさいと母に怒られた。今更始めたってどうにもならないのに。

 

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世界一の健康家

世界一の健康家

 僕は幼い頃から病弱で病院で過ごす時間が長かった。病院の中に小さな学校があった。そこの社会の授業で「今や肩書きを売り買いできる時代になりました」と習った。
 まず僕は「病院一の健康家」と名乗ることにした。名札を胸につけて病院の中を歩き回った。看護師さんが飛んでて来て怒られてしまった。
 僕は少しずつ良くなっていった。「僕は『病院一の健康家』にふさわしいですか?」と聞くと「そうね、もう少しよ」と言っ

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仮面同好会

仮面同好会

 僕はテスト成績が悪い上に部活動に所属していなかったため、ある放課後職員室に呼び出された。担任の田中先生は相変わらずこげ茶色のひらひらした服を着ていて占い師のような格好をしていた。
「どういうことですか? この成績は」
「いやその・・・・・・」
「明日の放課後、北棟の三階に行きなさい。行かなかったら退学です」
 よくわからなかったが退学になるわけには行かなかった。僕は次の日の放課後、北棟の三階で怪

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