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「シャッター商店街をシリコンバレーへ」地方移住した経営者の挑戦

今回お話を伺ったのは、JR和歌山駅前にある“みその商店街”の活性化に取り組んでいる株式会社IKOTAS 代表の前川 怜輝(まえがわ さとき)さん。
2020年9月に京都から和歌山に移住し、シェアハウスや飲食店、コワーキングスペースなど幅広く事業を展開しています。
そんな前川さんに現在力を入れている取り組みや今後の展望について、詳しくお話を伺いました。

和歌山移住のキッカケは、無人島での出会い

──今までのご経歴を教えてください。

私は滋賀県長浜市出身で、大学進学をきっかけに京都に出て、7年ほど京都に住みました。大学時代はイベント制作などを行う学生団体の代表を務め、数多くのイベントを開催してきました。さらに大学4年生の時には仲間と一緒に京都市内で飲食店を始めるなど、さまざまなことにチャレンジしましたね。

飲食店の集客に苦労した経験がきっかけで、たまたまご縁があった広告代理店に勤めることになり、そこで3年ほどマーケティングの勉強をしました。広告代理店に勤務していた時は副業が認められていたので個人でブログを始めてみたり、イベントなどにも積極的に携わったりしていました。

現在は和歌山県に移住し、3年ほどが経過したところです。

──3年前に移住されたんですね!それでは、前川さんが“みその商店街”の活性化活動に携わるようになったきっかけを教えてください。

当時は京都に住んでいたのですが、無人島専門の旅行会社の知り合いから話をもらい、和歌山県の無人島でイベントをする機会がありました。1泊2日のキャンプイベントを企画し、それがきっかけで定期的に和歌山県に行くようになりました。

そのイベントには県外からも多くの人が参加してくれたのですが、その噂を聞きつけた地元の人たちもイベントの開催に力を貸してくれました。その時に知り合ったのが、“みその商店街”の理事長さんでした。2018年5月のことでしたね。

それからしばらくして、理事長さんから「シャッター商店街化してしまった“みその商店街”でも何かできないかな」という相談を受けたのです。そのお話をいただいたのが2020年7月頃だったのですが、コロナ禍ということもあり、都市部に住んでいることにあまり意味を感じなくなっていた時期でした。そのようなタイミングと重なったこともあり、自分がやりたいことを思いっきりぶつけてみたいと考え、直感で和歌山県への移住を決めました。

“みその商店街”の理事長さんとお話しして、2ヶ月後にはもう和歌山県に移住していましたね。今振り返ってみても、思い切った決断をしたなと思っています。

和歌山県の無人島でのキャンプイベント

飲食店やコワーキングスペース…さまざまな取り組みをしている株式会社IKOTAS

──株式会社IKOTASの事業内容を教えてください。

現在、株式会社IKOTASでは広告業や地域活性化活動、そして商店街の中で飲食店やコワーキングスペース、シェアハウスなどを運営しています。

──さまざまなことをやっているんですね!ちなみに、どのような飲食店を経営されているんですか?

お店の名前は「Cafe&Bar またたび」で、猫の居ない猫カフェ®️をテーマにしているお店です。本物の猫はいないのですが、ホットケーキの形が猫の形になっていたり、猫の雑貨をたくさん置いていたりして、猫を感じられるような空間にしていますね。「Cafe&Bar またたび」は私が和歌山県に移住してから半年ほどしてからオープンしました。

──慣れない土地での飲食店経営は難しくありませんでしたか?

お店がある“みその商店街”は以前に比べて閉まっている店舗も多く、ウォークインのお客さんをあまり見込めませんでした。さらに開業直後はコロナ禍真っ只中ということもあり、集客はかなり苦戦したことを覚えています。

しかし、そのような状況でも2年間続けられていますし、最近ではメディアにも取り上げていただく機会も増えてきたので、この立地を考えれば飲食店としてよくやれている方なのかなと感じています。

お客様としては地元の方もいらっしゃいますし、カフェ巡りをしている若い人も来店してくれます。時には県外からもお客様が来るなど、かなり幅広いお客様に足を運んでいただいていますね。

Cafe&Bar またたび

──次に、最近オープンされたコワーキングスペースについても教えてください。

2023年3月にコワーキングスペース「BE-EN(ビーエン)」を開業しました。
移住した当初からコワーキングスペースの必要性は感じていたのですが、開業するからには事業として続けていく必要があり、イニシャルコストやランニングコストなどのメドが立つまでに少し時間がかかってしまいましたね。

「BE-EN」には地元の方で資格勉強のために利用している方もいますし、企業のサテライトオフィスとして活用してくれている方もいます。最近では海外のノマドワーカーの方が滞在期間中に継続して利用してくれるなど、本当に幅広い方に利用していただいています。

──使い方は本当に人それぞれなんですね!今後、コワーキングスペースはどのように活用していく予定ですか?

このコワーキングスペースを、まちづくりのプレイヤーの基地のような場所にできれば面白いかなと思っています。このコワーキングスペースはライブイベントなども開催できますし、やりたいことが実現できる場所として自分たちでDIYで作った場所です。さまざまな方に積極的に活用してもらうことで、何かのきっかけが生まれるような場所になってくれれば嬉しいですね。

コワーキングスペース「BE-EN(ビーエン)」

商店街と二人三脚で作り上げるマルシェイベント

──現在、力を入れて取り組まれていることは何ですか?

2ヶ月に1回、“みその商店街”全体を使ったマルシェイベントを開催しています。
株式会社IKOTASは企画運営に携わっていて、イベントのコンテンツはすべて私たちが準備しています。また商店街の方々にも協力してもらい、二人三脚でイベントを運営しています。

イベント当日はキッチンカーやハンドメイド雑貨さんに出店してもらったり、ステージを設置して企画をやったり、地域の事業者さんとコラボしてコンテンツを作っています。

“みその商店街”は半径50mに収まるような小さな商店街なのですが、和歌山駅から徒歩3分というアクセスの良さを活かして集客をしています。その2日間だけは商店街がかなり賑やかになりますね。多い時で1日3000人が集まるイベントになっており、和歌山市内だけでなく、近隣の市町村からも多くの方に来ていただいています。

──3000人はすごいですね…!商店街の方々との関係性は最初からうまくいっていたのですか?

最初からうまくいっていたわけではありません。“みその商店街”の理事長さんからお話をいただいたとはいえ、商店街の方たちからすると、僕たちは完全によそ者なので、最初はかなり警戒されていたと思います。

実際にコロナ禍でいきなり若者がゾロゾロと商店街の店舗の3階にあるシェアハウスに住み始めたわけですから、商店街の方々が怖いと思っていたのも当然だと思いますね(笑)

 ”みその商店街”でのマルシェイベントの様子

──最初はそのようなイメージを持たれていたんですね…。前川さんが商店街の方々と信頼関係の構築をする上で、意識したポイントはありますか?

年代も違いますし、育ってきた環境も違うのでどうしても認識のズレが出てきてしまう部分があるとは思いますが、直接会ってコミュニケーションをとるというのは意識的にやっていました。直接顔を見て話すことで、お互いの認識がすり合わせられますし、徐々に信頼関係が築けてきたのではないかと考えています。

また、店舗を構えて結果を出すことで、商店街の方々から認めてもらえるのではないかとも考えました。そういう意味では「Cafe&Bar またたび」を開業し、自力で集客をしながら2年続けていることは、商店街の方々との信頼関係を構築するきっかけになったと考えています。

大切にしているのは「やりたいことをやる」気持ち

──前川さんの大切にしている考えはありますか??

自分の軸でもあり、会社の軸でもあるのですが「やりたいことをやる」というのをモットーにしています。自分が本当にやりたいという気持ちを大切にして、次のアクションを起こすようにしています。

また地元に根差した事業をやるのであれば、5年以上は時間がかかると覚悟してやっている部分もあります。短期的な目線ではなく、長期的な目線で視野を広く持って考えるように心がけていますね。

──さまざまなことを実現してきたと思いますが、その中で前川さんが最もやりがいを感じた瞬間を教えてください。

マルシェイベントを定期的に開催させてもらえるようになって、少しずつ商店街の雰囲気が変わり出したことです。地元のメディアが取材をしてくれるようになったこともあり、街を歩いていると「テレビ見たよ」と声をかけてくれる人も増えました。心なしか商店街を歩いている人の表情が明るくなってきたと感じていますね。

イノベーションが生まれるシリコンバレーのような場所に

──今後の展望を教えてください。

一言でいうと、“みその商店街”をシリコンバレーみたいな場所にしたいと考えています。
シリコンバレーと聞くとIT企業がたくさんあって、栄えている都市だと思われる方が多いかもしれないですが、実際は人口密度も低くて、かなりの田舎なんですよね。和歌山市はシリコンバレーよりも人口密度が高いですし、人が少ないというのは言い訳にならないと感じています。

若者がチャレンジできて、それを受け入れてもらえるような場所にしたいですし、次世代の若者に投資してくれるような人たちを集めてイノベーションが生まれる場所にしていきたいと考えています。和歌山市は地価も安いですし、チャレンジのハードルが低いと思うので、この土地をどんどん有効活用していきたいです。

──シリコンバレーを目指すって素敵ですね!その他に今後やってみたいことはありますか?

現在は和歌山県にいますが、将来的には私の地元である滋賀県の長浜市でもまちづくりに携わりたいと考えています。どんな場所であっても、自分のやりたいことにチャレンジできるんだという姿勢をこれからも示し続けたいです。

──貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました!

(取材・文/小町ヒロキ)

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