見出し画像

【ライターの裏側】 インタビューでは「仕事のやりがい」は聞かない

仕事のなかで一番得意なことと聞かれると、迷うことなくインタビューと答える。(ちなみに、その次はホームページ制作のディレクション。その次は、ブランディングや会議アシスタント。書くことは一番苦手)

私が受けるインタビュー案件の多くが、「社員インタビュー」「採用インタビュー」。つまりコーポレートサイトのなかの「社員紹介」や、採用サイトの「先輩の声」の部分。
実際に働いている社員に対してインタビューを行い、会社の雰囲気や仕事の内容、働きやすさ、制度、そして仕事のやりがいについて伺う。そしてカメラマンさんの撮影した写真と共に原稿に仕上げ、公式サイトにアップするというもの。(アップするのは主に制作会社さん)
毎月1社、ないし2社。1日に5人や6人いっぺんにインタビューすることもあるので、少なく見積もっても年間15社前後、人数にすると1年で50人〜70人のインタビューをここ数年続けている。

採用サイトの「社員インタビュー」や「先輩インタビュー」というページは見たことがある人も多いと思う。

Q:なぜこの会社に入社しようと思いましたか?

Q:この仕事のやりがいは?

Q:未来の仲間に一言!

あたりが定番の質問だろうか。
私は、自分のこだわりもあってあまり一問一答式のインタビューは書かないんだけど、採用サイトのインタビューページは一問一答形式が結構多いよね。ライターが入ってない場合も多々あるので、制作会社さんが質問を用意してそれに答えていただくというスタイルをとっているのだと思う。

とくに「仕事のやりがい」は社員インタビューや社員紹介では欠かせない部分で、「やりがい搾取」なんて言葉もあるけれども結局私たちはやりがいがないと仕事を頑張れないし、続けられないし、やりがいがあるからこそ仕事に打ち込もうと思える。やりがいがあれば愛社精神も生まれるし、やりがいがあるので団結力も生まれる。

しかし、私のインタビューでは「仕事のやりがいはなんですか?」という質問はしない。へそ曲がりな性格もあるのだろうけれど、前回書いたnote【ライターの裏側】インタビューが得意な私が、インタビュー前の徹底的な下調べはしない理由でも書いたように、10年やってきた結果、今のスタイルに落ち着いている。

他に聞くことがたくさんあって時間がなくなっちゃうから聞かないのではなく、基本「やりがい」という言葉は口に出さないようにしている。その理由は、「やりがい」を聞くと、みなさんどこかで聞いたことのあるような言葉や、聞こえのいいような言葉を使おうとするから。

「やりがい」って厄介な言葉で、やりがいって働いてすぐに感じられるものではないから、入社して1年ほどの社員さんにはまず難しい質問だと思うのだ。2年、3年と経験を積むとやりがいも見つけられるけれど、同時に不満とか働きにくさみたいなものも見えてくるので、素直に「やりがいはこれです!」と言いにくい。
その結果、「やりがいは?」と聞かれると、「ありがとうといってもらえることです」とか「やっぱりお客さまに喜んでいただけることですね」なんていう、思ってなくても言えるような、インタビューした本人でなくても言えるような、当たり障りのない無難な言葉かつ、どこにでも転がっていそうな言葉を言ってしまう。いわゆる、“置きにいってしまう” のだ。他の質問では「うーん、うーん」と考え込んでいたのに、「やりがい」について聞くとみんな驚くほどスラスラと答えてくれる。「こう言っておけば大丈夫だろう」ってな感じで。
採用サイトや社員紹介のページに顔写真と共に掲載するからって言われたら、やっぱりいいこと言わないとダメって思うよね。だから「やりがいを感じられる仕事です」って言っておけば大丈夫だろうと、安パイの答えを言ってくれる。気持ち、わかるよ。
「ありがとう」と言われることが本当にやりがいだと感じている人もいるし、感謝されることが生きがいにつながっている人もいるので、この内容に関しては全然問題ないのだけれど、何が問題かというと、思ってもいないのに「ありがとうと言ってもらえることです」と言ってしまう人がいるということ。そしてインタビューの現場では、すごくそれが多いなと思う、ということ。

駆け出しの頃やインタビューに慣れていない頃は、「やりがいはなんですか?」と聞いていたこともある。するとやっぱり「ありがとうと言ってもらえることです」と用意されたような答えが返ってきたりして話が終わってしまい、後日文章に書き起こす時に「やりがいは?」という項目に書く文章が少なくなってしまって困ったことがある。
知恵をつけた私は「具体的にどの部分にどうやりがいを感じるんですか?それは達成感ですか?満足感ですか?嬉しい気持ちですか?」みたいにどんどん深掘りするようになったのだけど、「やりがい」を深掘りするとなぜかフリーズしてしまう人が多かった。自分が答えた「仕事のやりがい」の次の一言が出てこない、見つからないのだ。考えあぐねて「・・・わかりません」と言ってしまう人もいた。
なにごとにも必ず理由があり、その理由こそがその人のオリジナリティな部分だと私は思うから、ただ「ありがとうを言ってもらえる」というだけでなく、何をしてありがとうを言ってもらえるからなのか、ありがとうを言ってもらってどんなことが起きるからやりがいにつながっているのか、その部分を聞きたい。けれど、「やりがいは?」なんて聞かれるもんだから、複雑な思いを巡らせながら、結果的に上っ面だけの言葉やなんだか聞いたことのある言葉、万人受けしそうな無難な言葉をチョイスし、その場をやり過ごそうとしてしまう人が多い。少なくとも、私がインタビューしたなかではたくさんいると思った。


そんなこんなで、私はあえて「やりがいは?」なんて聞かないようにしている。本人がやりがいを感じていれば、インタビュー中に熱く語ってくれるだろうし、やりがいが見つかってなければないでいい。「これから見つけます」でもいいし。
形式的な質問で相手を困らせるようなことはせず、できるだけ、ご自身の言葉で話していただけるようにしたいと思っている。

インタビューに行く際は、担当者さんやディレクターさんを通して事前に質問内容を送っている。ちなみにそれは、当日に話す内容をあらかじめ考えてきてもらってスムーズにインタビューを進めたいという意図でなく、インタビュー後やページが公開された後に「あ〜やっぱりあの話すればよかったな」「あ、あれを言いたかったのに違うこと言ってしまった!」と悔やんでほしくないから。そして、その質問項目の横には、「きちんとした言葉を意識して話していただく必要はありません。できるだけご自身の言葉で、ご自身の思いをお話しいただければと思います」と書き添えるようにしている。
インタビューを始める前にも、「専門用語やカチッとした言葉ではなく、私にお仕事のことを教えていただくような感じで、普段の言葉で話してくださいね」というようにしている。
今日初めて会った人と1時間話せというんだから、「インタビューを始めますね」という緊張するようなことは言わず、雑談しましょう!というふうに伝えている。これも肌感覚だけれど、なんとなくこういうスタイルを取りはじめてから、肩肘張らずにインタビュー受けていただけることが増えたようにも思うし、私も話しやすくなった。

これが、私がインタビューで「仕事のやりがい」を聞かない理由。どこかで、誰かの参考になったらいいな。

この記事が参加している募集

ライターの仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?