見出し画像

【ライターの裏側】インタビューが得意な私が、インタビュー前の徹底的な下調べはしない理由

ライター10年目を目前に自分の実績を振り返ってみると、とにかくインタビューの仕事が多い。
インタビューライターを目指して活動していたわけでもないのだけれど、私は現場を回す能力に長けているので、相手に対してぶっつけ本番で色々とお話を聞くインタビューの仕事ではずいぶん重宝していただけている。クライアントさんがそう言ってた。
あと、パンフレットとかホームページとかの仕事って、同日にカメラマンさんの写真撮影も行われることが多くてディレクターさんはカメラマンさんにつきっきりになるから、放っといても一通り全部仕事を終えられる私はディレクターさんにとって使いやすいのだろうとも思う。

そんなインタビュー経験の多い私だが、インタビューの際によく言われる「下調べは徹底的に」というポイントは、一切やらない。
面倒じゃん。
とうのは嘘ですが、とにかく取材前に相手の情報を徹底的に調べることは一切しないと決めている。
その理由の一つとして、先入観が入ってしまう、ということが挙げられる。

チーズタルトのPABLOで有名な株式会社ドロキアオラシイタで広報をしていた頃、雑誌の取材をたくさん受けた。取材にきてくれたライターさんはみんな商品のことをよく調べてきてくれて、ライターさんの方から「この商品はこうなんですよね!」と先に情報を出してきてくれることがほとんどだった。
私がいた頃は、看板商品の焼き加減が選べるチーズタルトは「レア」と「ミディアム」という商品展開で、とくに「レア」は焼きたてアツアツの状態では半熟のようなトロッとした食感になりとても人気だった。焼きたてはとろけ出るような食感で、時間が経ってもフワッとトロッとした、スプーンが必要なくらいの柔らかさのチーズタルトだったが、やっぱり原材料の大半がクリームチーズである以上、冷蔵庫でキンキンに冷やしたり冬場に寒い気温で長時間持ち歩くとそれなりに固まり、とろけ出るような状態ではなくなる。会社としては「とろけ出る」ではなく「トロッとした食感」という表現がが正しかったのだが、ライターさんが前情報で色々調べた結果、
「このチーズタルトは切ったらとろけ出るんですよね」
という解釈になることがときどきあった。
以前もお客様に「とろけ出てくる」というニュアンスに伝わってしまったようで、「とろけ出ないじゃないか!!!」とトンデモなくブチギレの電話がかかってきたこともあった。なぜかクレーム対応は広報の私だったんだけど。
これに関しては、社内でも会社側のアピールの仕方で誤解を生んでしまうよね、となってその後いろいろと表現方法を工夫したのだけど、このようにこちら側と向こう側のニュアンスの違いがある場合も往々にしてある。
ニュアンスの違いを修正することはライターの専門だけど、説明する側は表現に関して素人かもしれない。そんな素人さんが、ライターの誤解を上手に解いて正しいニュアンスを伝えられるとは限らないし、ライターにうまく指摘できず間違った情報が掲載されてしまうと私が経験したようにお客様からお叱りの電話をいただくようなことになってしまうかもしれない。
それに、ライターもピンからキリまでいる。こちらがどれだけ説明しても「とろけ出ないのですか?」「切ったら出てくるんですよね?」と話が全く伝わらず、某関西人気情報誌に「切ったら断面がとろけ出てくる!」というデカデカとした見出して掲載されてヒヤッとするようなこともあるのだ。
こうした経験から、私はインタビューには先入観が入ることのないように下調べをほとんどしないようにしている。相手様の事業内容にさらっと目を通す程度にして、会社の歴史や事業の特徴、商品の強みに関しては、時間と手間はかかるが、インタビュー中に相手の言葉で伝えてもらうようにしている。

なかには「うちの会社のことを調べてきてないのか!」と怒る人もいるので、インタビューの際はあえて下調べをしていないこと、インタビュー対象者の方のご自身の言葉で話してほしいことを伝え、知らないことは「すみません、わからないのでその〇〇から教えてください」とお願いする。
知ってることであっても、ときには「すんませんアホやからわかりませんねん」という顔をして聞く。

ライターがインタビュー対象者の職種や業界に精通しているのならいいけれど、ほとんどの場合、ライターはその職種・業界のド素人。下調べをどれだけ徹底的にしたところで、所詮付け焼き刃に過ぎず、イカした言葉が浮かぶはずがないのだから、それならこれから話を伺うプロたちの言葉をうまいこと引き出す方が、よっぽどリアルで芯を突いた文章が書けるのではないか? と、自分なりにやってきた結果編み出した方法である。あと、インタビューを読む方もその職種・業界の素人さんであることが多いので、なおさら余計な知識はいらないよね。(学術書や専門誌の取材なら話は別ですけどね)

だから、私はインタビュー前の下調べはしない。
その時間を、インタビューが少しでも楽しい時間になるように小ネタを考える時間に当てたりしている。どんな相手でもいいように、真面目な話し方とアホな話し方の両方の練習をしたりもしている。

最近は、インタビューを終えた方に「あー最初緊張したけど楽しくてあっという間だった」と言ってもらえることが増えてきてとても嬉しい。

この記事が参加している募集

ライターの仕事

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?