はなれる瞬間

ちゃぶ台をはさんで
夫と向き合いお酒を呑んでいたら
ふわあっと夫が遠くなって
座椅子やコップや音楽も遠くなって
自分がここに居るのかどうかもわからなくなった
なんだろう
どうして
ほんとうかな
今までどうやって暮らしてきたっけ
結婚してからの十五年間を思い出そうとしたけれど
あまり思い出せない
働いたり
泣いたり
眠ったり
していたはずなのに
なんでここに居るんだろう
ほんとうにここに居るんだろうか
もしかしてこれは夢かなにかなんだろうか
私は生きているのだろうか
夫も生きているのだろうか
一緒に暮らしていても
生きることは別々で
夫の人生を代わりに生きてあげることはできない
私の人生は自分で生きることしかできない
なんだろう
へんだなあ
ほんとうかな
平行世界とかいうやつがあるのなら
夫と私はどういう生き方をしているのだろう
出会ってすらいないかも
産まれてすらいないかも
ええとどういうことなのだろう
「残りのポテトサラダ食べていい?」
「あ、私もちょっと食べたい。」
まだ少しだけふわあっとしながら
私は座椅子に戻ることができた

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