発車メロディ
私は電車の発車メロディが好きだ。
発車メロディは路線によって個性があったり、その駅に所縁のあるメロディが流れるので面白い。
発車メロディは、その電車を使っていた時の自分やその時見ていた風景を彷彿とさせる。
高校に入学して初めて電車通学をするようになった時、なぜかちょっと大人に近づいたような気がした。
舞浜駅のメロディはとってもワクワクする。早くパークに入りたくなっちゃう。
山手線の東京駅のメロディは都会の音がする。田舎育ちの私はここで東京に来たことを実感する。逆に帰省する前に聞くと、これから別世界に連れていかれそうな気になる。
満員電車での通学は本当に憂鬱だった。寝ぼけながら発車メロディに急かされて急ぎ足になる。絶対入れないだろっていう狭いスペースに当たり前のように乗り込む人たちに驚いた。寝坊した時に私もそれをやってみたら、ドアにおでこが張り付いた。次の駅に到着した時、待っている人と思いっきり目が合ってしまって恥ずかしかった。音楽を聴いても気を紛らわすことなんてできなかった。いつかの日に見た、手を上にあげて親指で真ん中を抑えて文庫本を読んでいたサラリーマンが忘れられない。彼は満員電車のプロである。満員電車に乗る度に人間の限界を感じる。生き地獄とはこのことだと思う。
深夜練の日は上りの終電に乗ってスタジオに向かった。憂鬱だった。1分でも多く睡眠時間を確保したくて一生懸命寝ようとした。
福岡に旅行に行った時に聞き慣れないメロディを聞いて、ついに福岡に来たんだ!とそこで実感が湧いた。
帰宅ラッシュに被らない帰りの電車は嫌いじゃない。窓から見える夕日が美しい。だんだん空が暗くなって月が明るくなる時間帯は良い。
私が普段使ってる路線は、上りの電車よりも下りの電車の発車メロディの方が好きだ。下りの方が柔らかくて心地良い響きのものが多くて、「今日もお疲れ様」とみんなを労ってくれてるように感じる。これは本当にそういう意味で選曲してそうなんだよなぁ。そうだとしたら優しいね。
実際に山手線を使っている時は良い気分じゃない方が多いかもしれない。
終電が近いといつ吐いてもおかしくないようなサラリーマンがいるし、華金の電車の中は酒臭くてこっちまで酔いそうになる。バイト帰りは足が棒になっていて早く座りたくなるけど、そういう時に限って混んでるし一駅が長く感じる。深夜練明けの渋谷では、アルコールが抜けてない外国人が電車の中で怒鳴ったり騒いだりしていた。こんな朝の迎え方があるのかと唖然とした。
それなのに帰省したり今みたいに電車に乗らなくなると、あの駅のあのメロディを聞きたくなってしまう。
なんでだろうね。不思議だね。
実際に乗ってる時は、やらなきゃいけないことがあったり疲れてたりするからメロディが鬱陶しい。でもその日常から少し離れると、田舎者の私に戻るせいか、憧れに変わる。
同じメロディでもバックグラウンドや状況によって感じ方がガラッと変わってしまうから面白い。発車メロディは地獄にも希望にもなるのだ。きっとこれが、私が発車メロディを好きな理由なんだと思う。
発車メロディだけでいろんなことが浮かんできてこんなことをつらつら書いてることにびっくりした。実は鉄道ヲタクの素質があるのかもしれない、、
私がもしこの地を離れることになったとしたら、何回かはYouTubeで検索して発車メロディを聞きにいくと思う。久しぶりに聞いたら「うわ〜これ懐かしい、、」とか言いながら鼻歌を歌ってる気がする。きっとその頃には、あの憂鬱な瞬間を忘れて懐かしさを感じるようになり、再び憧れを強く抱くようになるのだろう。
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