今という瞬間に集中して -ライオンのおやつ-
ライオンの家では毎週日曜日の午後3時にお茶会が開かれます。ゲストからの「もう一度食べたい思い出のおやつ」を毎週ひとつ忠実に再現するのです。
小川糸さんの『ライオンのおやつ』を読みました。
ここで言うゲストとはすなわちホスピスの入居者。
ライオンの家は瀬戸内にあるホスピスのこと。
主人公の雫は若くして余命宣告を受け、ライオンの家にやって来ます。
余命宣告。ホスピス。
その言葉を見れば悲しい物語のように思えるけれど実際は「死」への恐怖をすこし和らげてくれる、そんな小説でした。
それにしても、朝のお粥が楽しみで長生きしてしまうっていうのは、私にもわかる気がした。
(p69)
ライオンの家の朝ごはんは日替わりのお粥。お粥を食べるその描写に、読みながらお腹がぽかぽかしてきます。
「明日は何のお粥だろう」と楽しみに出来ること。
それは、ささやかな希望。
楽しみがあるのと無いのとでは日常の張りが違うもの。毎日小さな楽しみを見付けられたら、それだけで日常はぐんと豊かになる。
「せっかく生きているんだからさ、おいしいものを笑顔で食べなきゃ」
(p100)
たとえ悲しいことがあった日も。食欲が出ない日も。
だからこそ食べる、という選択肢があって良い。
目の前のご飯を美味しく食べる。目で見て楽しみ、ふんわり香りを嗅いで楽しみ、舌で味わって楽しむ。おざなりな「いただきます」にならないように。
どうしても適当な食事になってしまうことはあるけれど、それでも食べる時だけは目の前の食事に真摯に向き合いたい。
だって、食べることに楽しみを見出したらそれだけで1日3回もわくわく出来ちゃうんだよ。それってお得じゃない?
「よく眠り、よく笑い、心と体を温かくすることが、幸せに生きることに直結します。」
(p37)
雫の場合は日常を見直すきっかけが余命宣告だった。
こういう作品に出会うたび、日常の些細な幸せに目を向けられていない自分に気が付いてハッとしてしまうけれど、何度だって日常を見直す機会があっても良いと思うんですよね。またこういう機会に出会えたと思えれば、それで良いのかなって。
よく眠り、よく笑い、心と体を温かくする。
シンプルだけど大切なこと。
気が付くきっかけが貰えたのなら、今この瞬間に集中して目の前のあらゆる事象に愛を注ぎたい。大事にしていきたい。
時には取捨選択をしながら。
もう一度食べたい思い出のおやつ、ってなんだろう。
わたしはお母さんが作るカルーアプリンかなあ。
ひとつひとつ型に入れて焼くんじゃなくて、大きな型でどーんと焼いちゃうの。固くないプリンだからスプーンで掬って取り分けると見た目はいまいちになっちゃうんだけど、出来立て熱々のカルーアプリンの美味しさの前ではそんなの全然気にならない。
プリンはね、冷たいものより温かい方が好きなのよ。
オーブンを開けた時のほんわかした香り、なめらかな舌触り、ちょっとのほろ苦さと幸せな甘さ。ああ、もういますぐ食べたい。
皆さんも「もう一度食べたい思い出のおやつ」ぜひ考えてみてくださいね。
小川糸さんのエッセイについてはこちらの記事をどうぞ。
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