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わたしの日常が揺らいだ日[ショート小説]

高校2年の夏休みに出会った漫画は、救いのない道に進んでしまう姉と弟の話で、私は退廃的な世界観にのめり込んだ。周りに追い詰められていく姉と弟の展開に心を締め付けられながら、エアコンが無い自室で1ページずつ味わう私の顎と胸には汗があふれた。

秋の土曜深夜、眠れないことに諦めて布団から出る。昼寝しすぎたようだ。同じ漫画家の初期短編集を古本屋で見つけて買ったが、まだ読んでいない。

短編の1つめは、見た目が似て仲が良かった姉妹がすれ違い、片方が病で死んでしまう話だった。2つ目は薬にのめりこむ少年と、恋心を寄せる同級生の少年が出てくる。

3つめは都会から田舎町に転校した少年の話だった。ひ弱な主人公が地元の悪童の目に留まり、海辺の岩場で喧嘩をふっかけられ殴られてしまう。

顔にすり傷をつくって半べそをかくシーンを見て、「岩だらけの場所で喧嘩したら足を滑らせて頭を打つだろ」と心の中でツッコミを入れた。

子供の喧嘩なんてよくあることだし、それが河原や海辺だったら死ぬ場合だってある。なんでそういうことがニュースにならないんだろう・・・

疑問が頭をよぎったが、そろそろ眠れそうな気配がしたので考えることをやめ、電気を消して布団に潜り込んだ。

翌朝目がさめて居間にいくと、テレビのニュースが映っていた。どこかの田舎の川で小学生の男の子が流されて死んだらしい。川が増水していたわけでもなく、なぜ流されていたのかもわからない。

レポーターは事故だと伝えつつも事件があったような含みをもたせる顔で現場の様子を伝えている。

もしかして子供同士の喧嘩かいたずらで川に落ちて、そのまま死んだんじゃないのか。いままでそういう事件が何度も起こっていて、子供が犯人だと分かったとしても事故として処理されてきたんじゃないのか。

気づいたらテレビの映像が切り替わって、スタジオでアナウンサーが芸能人の結婚の記事を読み上げていた。それきり何日経っても川の事故についてテレビで流れることはなかった。

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