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【試し読み3】わずか3カ月であいつがカムバック!!(『うつには祖母がよく効きます』より)

こちらのエッセイは、こうの みさと著『うつには祖母がよく効きます』に収録されています。

わずか3カ月であいつがカムバック!!


 私は埼玉県にある公立中学校の国語教員となったものの、典型的なダメ教員でした。

 配属されたのは、1学年3クラスずつの、県下では比較的小規模な中学校。

 だから楽だということはなく、教員の数が限られているので、初年度から1年生の学級担任。前年にいじめ問題が勃発したという未経験の部活の主顧問(激重)、複数学年(1年生と受験生)の授業担当、主任をいくつかかけ持ちなどなど、要領の悪い私にとっては、かなりかなりキャパオーバーな仕事の量でした。

 夢だった教員の世界。ですが、子どもの頃に苦手だった「中学校」という環境は、大人になってからも身体が受けつけませんでした。

 当時書き綴ったメモです。

・頭の中が常にパニックか、ボーッとしている状態で、何からしたらいいのかがわからない。みんなが気を張っている時に限ってボーッとしてしまう
朝礼の時に聞いていなくて、となりの人のメモを見て写すありさま。聞いているつもりなのに、いつの間にか他のことを考えてしまって、気がついたら朝礼が終わっている。


・文字から得た情報が想像できず、処理できない
体育館での生徒の整列のやり方などが文書で指示されることが多かったのですが、他の先生は、はじめてみた文章でも理解して、その場で並ばせられるのに、私にはまったくイメージができなかった。

・その場その場で片づけができない
生徒に「片づけなさい」と言わなくちゃいけない立場なのに、自分の机の上は雪崩の起きた雪山のよう。教員の仕事は情報量が多く、どこから手をつけたらいいのかがわかりませんでした。


・計画が立てられない

・今、何をすればいいのかがわからない
臨機応変な対応はものすごく苦手です。

・子どもをいつ叱ればいいのかわからない
学年主任などから、「こうの先生、子どもを叱らなきゃ!」とよく注意を受けていたのですが、みんな良い子、あるいはみんな悪い子に見えてしまって、どの子にどんな声かけをするのが「教師として」適切なのかわからず、結局、的外れな声かけばかりしていました。

・授業に何を持っていけばいいのかがわからない
これは致命的。自分で構成を組み立てた授業なのに、毎回忘れ物をしました。生徒に「忘れ物をしない」と指導しなくてはいけないのに、子どもたちから呆れられていました。

・集中できない

・思っていたこととはちがう、別の作業をしてしまう

・自分で情報量をたくさんにしておいて、そのままパニックになる

・先輩、同僚の先生方の冗談がわからない

・覚えているうちにやらないと、大事なことまでどんどん忘れてしまう
子どもとの、大切な約束さえも。

 仕事をすればするほどボロが出て、先生方からも、子どもたちからも、信用を失くしていく。それが、肌感覚でわかりました。でも、何より苦しかったのは、目の前の子どもの人生を棒に振ってしまうという恐怖でした。

 努力はしているつもりでした。始発の電車で学校へ行き、終電で帰る生活をしていた時期もあります。でも、やってもやっても、うまくいかない。

 働きはじめて3ヶ月が経つ頃、急にベッドから起き上がれなくなりました。「まずいな」とは思ったのですが、その都度、遅刻や欠勤の連絡を入れつつ、自分をだましだまし出勤を続けます。しかし、7月に入った頃、もうまったく家から出ることができなくなってしまいます。奇しくも、中学1年生の時に不登校になったのと同じ、1年目の7月のことでした。校長先生や教頭先生から促され、近所の心療内科を受診すると「うつ状態」という診断書をいただいてしまいます。 

 またその後、知能検査や問診の結果、発達障害だと診断されました。これはショックというより、「私が思ったように働けなかったのは、努力不足ではなく、そういう特性を持っていたからだったんだ」と謎が解け、とても安心したのを覚えています。


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