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【試し読み4】「療養」という名の「訓練」をしていた(『うつには祖母がよく効きます』より)

こちらのエッセイは、こうの みさと著『うつには祖母がよく効きます』に収録されています。

「療養」という名の「訓練」をしていた


 社会人になってから、何度かうつを再発させてしまっていますが、教員時代に復職を目指して療養に励んでいた時と今では心のあり方がまるで違います。

 教員時代は、人一倍努力して手に入れた貴重な仕事だったために、「教員に戻るための努力は精一杯しよう」という考え方でした。健康的な生活を心がけ、穏便に療養し、「自分はこれだけ元気になりました。また雇ってください」というアピールをする。  

 客観的に見て「健康になった」とわかる状態になるように自分を持っていこうと考えていました。

 でも、今回は違いました。一言で言うと「どうにでもなれ」状態。今回、医師に「一旦、休みましょう」と促された時、ほっとしたと同時に、脳裏には「病気の苦しさを誰よりもわかっているのに、また再発させてしまった」「数年単位で、また人生を棒に振る期間がはじまってしまう」という恐怖が押し寄せました。

 本やネット、SNS で情報収集をし続けた私は、ある一定の情報量を超えたところで暫定(ざんてい)的な結論に至ります。

 それは、「この病気とは、人生をかけて長く付き合っていかなくちゃいけない。闘うより、むしろ受け入れなくてはいけない」。

 え。完治はしないの、再発のリスク、こんなに高かったの。一時的に治っても、健康だった時の気力やエネルギーは戻ってこないの。ウソでしょ~~~。絶望。うつで調子が悪いのに、そこに追い討ちをかけるかのような、絶望。の後に、「もういい。もう、どうにでもなってしまえ」という感じになりました。

 今までは、ひどいうつ状態に陥ると、治った時のことを考えて行動していました。治ったら、また会社勤めをしなくてはいけないから、朝起きられるように訓練。健康的な食事を心がけて、体力をつけるために散歩をする。電車に乗る訓練をして、図書館で事務作業の訓練をして、人と会って話す訓練をして。訓練の日々です(うう、涙ぐましいよね……)。

 でも、この時ばかりは「バカバカ! 治らないんだったら、意味ないじゃん。むしろ、受け入れろだ? そんな都合のいい話があるか! いいもん。あたしゃ、自分の好きなように生きてやる。アパートを出たって、実家には帰りたくない。金髪にして、ピアスだってガンガンあけてみたい。自己表現だってしてみたい」急にグレたというか、自暴自棄になっていました。

 心の所在無さをうめるかのように、気になったこと、興味の持てそうなことには片っぱしから頭をつっこんでいきます。 

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『うつには祖母がよく効きます』

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