見出し画像

ヴィム・ホフ・メソッドとは? 呼吸法、効果、心身への影響や危険性についても

 ヴィム・ホフ(Wim Hof  ,  アイスマン)の呼吸法、ヴィム・ホフ・メソッドについてです。


ヴィム・ホフ(アイスマン)とは?

ヴィム・ホフは驚異的な耐寒能力で有名なオランダ人です。
普通の人間なら全く耐えられないような冷たさの水の中を泳いだり、氷漬けになったり、海パン一丁みたいな格好で雪山を登ったりしてもへっちゃらな人です。

ヨーグルトR-1のCMにも出演したことがあります。雪山でヨガをやっていました。


noteでも他のクリエイターさんによる記事が見つかります。noteで検索してみて下さい。ハッシュタグもあります。

私はチベット密教のツンモについて調べていた時に、たまたま知りました。



関連note:【神秘のヨガ?】ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法とツンモ瞑想の違い


ヴィム・ホフの呼吸法

ヴィム・ホフは冷たいシャワーを浴びるなどの寒冷訓練が含まれるヴィム・ホフ・メソッド(Wim Hof Method)を提唱しました。
この中に独特な呼吸法があります。この呼吸法のやり方はネットでも出回っていて、YouTubeにもあります。

ヴィム・ホフの呼吸法

1.大きめの吸ったり吐いたりを30~40回繰り返す。

2.吐いた後に息を止める。

3.苦しくなったら息を吸って、(ここでも息止めするという説明も)吐く。これまでが1セット。

4.これを3~5セット。


関連note:【 保存版 】ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法のやり方。 ヨガや瞑想にも活用できる?


 まぁ、この呼吸法は意図的な過呼吸(過換気の呼吸)法だとも言われることがあります。
大きな呼吸を繰り返すと、二酸化炭素が排出され、血液がアルカリ性に傾きます(呼吸性アルカローシス)。

ヴィム・ホフの呼吸法で、他の呼吸法とは顕著に違ったものがあるとするならば、その一つは呼吸性アルカローシスだろうと思われます。

似たものにスタニスラフ・グロフのホロトロピック・ブレスワークがあります。

これには息止めが伴わないようですが、深呼吸を繰り返します。やはり呼吸性アルカローシスになると思われます。

 またよく似たものがヨガの呼吸法にもあります。
これを激しいやり方でマニアックに長時間やったのが、数々の凄惨な事件を引き起こしたオウム真理教です。

オウムではどうだったか知りませんが、クンダリニー(クンダリーニ)の覚醒などの神秘的な体験を求めて激しいやり方のヨガの呼吸法を行い、脳の血管や心臓の機能に障害が生じたり、眼圧上昇で失明したりというのが実際にあったというのを聞いたことがあります。

ヴィム・ホフの呼吸法の効果 ―― 呼吸性アルカローシス

ヴィム・ホフの呼吸法で酸素が細胞の隅々にまで行き渡るという説明を見かけます。

ヴィム・ホフ他著『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』(サンマーク出版)には以下の記述も見られます。

“本書に紹介した「呼吸エクササイズ」のあと、「意識が広がった」ように感じる人は多い。これは、おそらく脳細胞に格納されたミトコンドリアによって、脳の下垂体や松果体から化学物質が放出されるためだろう。……

……私たちは、ヴィム・ホフ・メソッドの「呼吸エクササイズ」を通して、非常時よりずっと多くの酸素が松果体に取り込まれるため、身体がより多くのメラトニンを生産するという仮説に至った。これによって「呼吸エクササイズ」が、時差ボケや睡眠障害、抑うつなどに非常にこうかがある理由を説明できる。” ヴィム・ホフ、コエン・デ=ヨング 著 小川彩子 訳『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』サンマーク出版、2018、pp.71-72

楽天ROOM:【本】瞑想・ヨガ・気功・呼吸法・密教・思想など


ヴィム・ホフに対する研究はいろいろとなされているので、こういったことが実際に解明されているのかもしれません。


でも私はなんとなくエセ科学臭を感じてしまうのですが。

この呼吸法の目標は、おそらくは、体内すみずみにまで酸素を届けて健康になるというものよりかはむしろ、呼吸性アルカローシス息止め(クンバカ)よって特有の神経生理の状態を生じさせることだと思うのですが。
健康や免疫機能に良い効果があるにしてもです。

 体内の酸素はすぐに飽和状態になるだろうし、血液がアルカリ性に傾くと、  呼吸数は抑制され、人体の大部分の血管は収縮し、脳血流も減少します。
人体はそのような仕組みになっています。

そのために息を止めていられる時間が長くなるのです。
脳を含めて身体の隅々にまで酸素が行き渡るからではなくて、呼吸性アルカローシスになるから息止めの時間が長くなるのです。

さらに息止め(クンバカ)によって、脳の活動、特に新皮質の活動が抑制されるのではないでしょうか。
 どちらかというと意識がボーッとする方向に向かうのではないでしょうか。

(「意識がボーッとする」と言っても、意識レベルの明確な低下というよりも、思考力、思考の正確性の低下。ひょっとすると瞑想には向いた状態なこともあるかもしれません。)

アドレナリン他、体内で分泌される生理活性物質の値にも変化があるだろうと思われます。

また血液がアルカリ性に傾くと、血中のカルシウムイオンのバランスが崩れるとされます。これによって神経が興奮しやすくなると言われます。
ひょっとすると幻覚作用のある成分も分泌されるかもしれません。

これらが総合して、幻覚を見たり、手脚末端に痺れ感が生じたり、筋肉がけいれんしたりすることがあります。

ちなみに、こういった呼吸法は潜水にも利用されたりするようです。海女さんの磯笛もこれに関係しています。

しかしこれには危険もあります。酸素が足りていないにも関わらずに、足りていると勘違いするわけですから、限界を超えた息止めで、潜水中にフッと意識を失い、そのまま溺れてしまうという事故もあります(ハイパーベンチレーションによるブラックアウト)。


ヴィム・ホフの呼吸法とは違い、ホロトロピック・ブレスワークにおいては、特有の意識状態を経験することが明確に目標になっています。
このブレスワークによって、神秘体験をしたり、幻覚成分の摂取の作用と同じような体験をしたり、過去のトラウマを思い出したり、深層心理が顕れてきたりといったことがあるようです。

長時間このブレスワークを行うと、潜在意識に突っ込み、前後不覚になり暴れることもあるので、かたわらでサポートする人が必要とされているようです。

オウム真理教でも似た呼吸法が行われていました。信者が呼吸法をして結跏趺坐を組みながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている動画を見たことがありますが、あれは筋肉のけいれんだと思われます。

非ふるえ熱産生が関わる?

人体は寒さを感じるとふるえます。これは筋肉を動かして熱を生み出そうとするものです。
一方でふるえをともなわずに、熱を生み出す仕組みがあります。これは「非ふるえ熱産生」と呼ばれています。

この非ふるえ熱産生には褐色脂肪細胞(やベージュ脂肪細胞)とかミトコンドリアが関わっています。この褐色脂肪細胞やミトコンドリアについてはダイエットにも関係する話題です。
ちなみにショウガなど熱産生を促す成分を含むものがあるようです。

昔の研究では褐色脂肪細胞が強く注目されていましたが、近年では新しい知見があるようです。
非ふるえ熱産生には筋肉も重要だということです。筋肉にも熱産生に関わるタンパク質(ミトコンドリア脱共役タンパク質、UCP)が発見されたからです。

参考:日経Gooday “筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学


まぁとにかく、ヴィム・ホフ・メソッドにはこの非ふるえ熱産生が関わっているのではないでしょうか。
非ふるえ熱産生の機能には寒冷刺激、運動の習慣、食品に含まれるいくつかの成分、自律神経、アドレナリンといった生理活性物質などが関わるとされています。


↑↑この動画では、肋間筋に言及されています。(2:00~)

自律神経系、感覚系にとって重要な水道周囲灰白質の活動昂進についても触れられています。(3:50~)
内因性オピオイド、エンドカンナビノイドにも言及されています。(4:17~)

↑↑この動画では、前頭前野を通じて水道周囲灰白質(PAG)の活動を活性化できるとする言及があります。(3:30~)

私は以前は、ヴィム・ホフという人は健康目的などで非ふるえ熱産生のメソッドを提唱している人なのかなと思っていましたが、動画後半を見ると結構スピリチュアルな思想もある人のようですね。瞑想もかなりの実践を積んでいるようですし。

クンバカ(息止め)があるのだから「低酸素」状態へ?宗教的体験、神秘体験との関係?

ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法で、大きめの呼吸をしてからクンバカするのと、それから吸ったあとにクンバカするのでは、脳・神経生理への影響にどのような違いがあるのでしょうか?

私はこれには詳しくないですが。
息を吸った後のクンバカだと、酸素が消費され、相対的に二酸化炭素の割合が高くなります。

酸素が消費されるばかりで不足する異常事態と判断した人体は、低酸素に特に脆弱な脳を守るために、酸素を送ろうと脳への血流を増やそうとして、心臓の拍動を高め血圧を上昇させ、「頭に血がのぼる」といったことが生じるかもしれません。

しかしどちらにしろ、クンバカによって酸素の供給が断たれている以上は、「酸素不足」の方向に向かうのではないでしょうか?


では「低酸素」状態では、どのような脳・神経生理が生じるのでしょうか?
脳は酸素不足に脆弱なのだから、脳全域の活動が弱まるのでしょうか?必ずしもそうではないとする知見があるようです。

最新の研究論文にあたって論じるという能力がポンコツな私にはないので、古い(といっても2004年発行ですが)書物から引用します。

神の神経学―脳に宗教の起源を求めて』(村本 治 著 新生出版 2004)という本です。

“脳が低酸素状態に置かれると、一部の神経から興奮性の化学物質が放出され、脳の電気興奮性が高まることが知られている。実際、脳が低酸素状態に置かれると、てんかんに似た痙攣が起こることが観察される。”『神の神経学―脳に宗教の起源を求めて』p.119

“その際、側頭葉の内側の部分にある、低酸素状態に耐性があることが知られている海馬を含む、大脳辺縁系がより強く興奮し、その結果、側頭葉てんかんと非常に似た体験が引き起こされるのかもしれない。”同上書 p.119

“ その他、内因性の麻薬物質、エンドルフィンが放出され、それが大脳辺縁系を刺激するという説 ...(など)... が出されている。”同上書 p.120

脳の低酸素状態で興奮する部位があるとする知見が示されています。

側頭葉てんかんに触れられていますが、それはそれと宗教的体験神秘体験には関係があるのではという知見があるからです。

“ 側頭葉は様々な理由から、てんかんが頻繁に起こる脳の部位である。......側頭葉は筋肉運動の制御には直接関与していないので、側頭葉てんかんには原則として筋肉痙攣は伴わないが、視覚、聴覚、臭覚、記憶、情動に関係した様々な症状があらわれる。”同上 p.101

情動に関係した症状として――

“...... 突然気分が高揚し、言葉に尽くせない喜びから恍惚状態に至る発作もある。更に自分自身が自分の身体から抜け出した体験…..、自分自身を外側から見ている体験、現実から夢の世界に入った感覚など、様々な精神的経験が、側頭葉てんかん患者によって報告されている。”同上 p.102

“ てんかん患者における宗教的体験も、現代医学の発達に伴い数多く記載されている。…… 病跡学的研究から多くの宗教創始者、宗教指導者、シャーマン、預言者などがてんかん患者であったという見解が出され、それが医学的にも受け入れられた説となっている。”同上書 p.104

てんかん患者とされる有名な宗教家にはキリスト教の使徒パウロやイスラム教の創始者ムハンマドなど含まれるようです。

ひょっとするとエジプトのアメンホテプ4世アクエンアテン、イクナートン)もそういった傾向があって、宗教的体験をしてアテン一神教を創始したのかもしれませんね。

最後にちょっと小話。体外離脱体験(OBE)にも使える?

ヴィム・ホフの呼吸法にしろ、ホロトロピック・ブレスワークにしろ、似たようなヨガの呼吸法にしろ、呼吸性アルカローシスによって人体を特有の神経生理の状態にするんだろうと思われます。

そのような脳・神経生理によって生じる意識状態では、潜在意識、無意識といったものが表にあらわれやすいのかもしれません。

ひょっとしてこれは、例えば体外離脱体験体脱、Out of body experience、OBE)にも利用できるかもしれません。
私はOBEにも、その近縁であるだろう明晰夢にも今は関心が無いのですが、興味ある人は試してみるのもよいかもしれません。

ヴィム・ホフの呼吸法やホロトロピック・ブレスワークのような呼吸をしてから、OBEのためによく実践されるリラックス法をするのです。

呼吸性アルカローシスになると、手脚末端、唇がピリピリしてきます。脳血流も減少しボーッとしてきます。この状態はOBEに適した意識、心身の状態を生じさせるのに良いのではないでしょうか。

瞑想の書にも明晰夢のパートの中にOBEに関して少し言及がありますが、そのやり方を詳しくは説明してはおらず、実践的な内容は含まれません。
私自身がOBEに詳しくなく体験的理解にかなり乏しいので、周辺知識的な考察が少しある程度です。

ただし実践は自己責任でお願いします。OBEのリスクについても私は詳しくないです。


このような呼吸法は特殊な意識ー脳・神経生理の状態を生じさせるのでしょう。

ホロトロピック・ブレスワークは、トランスパーソナルなセラピーで利用されることがあるようです。

似たようなヨガの呼吸法がオウム真理教でも行われていたのは述べました。
こういった呼吸法が組み込まれた修行で神秘体験をして、妄信するようになった信者も多いといわれています。