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坊さん、棒を落とす。

義実家の法事に参加してきた。

法事というものには人生で何度か参加しているので、なんとなくどういったものかは知っている。
しかし今までは自分の親族で、しかもまだ未熟な子ども扱いだった為、大人になり、しかも気遣いながら参加するのは初めてだった。

そういう気持ちがあるのと、未だに義実家へ行く時は気合いが入ってしまうということもあって、朝早く新幹線に乗る時、私は少しピリピリしていた。

ピリピリしてるなあ〜と実感したのは最寄りの駅での出来事で、夫に「新幹線乗る前は時間無いと思うから、朝ごはん買うなら今ココで買っといたほうが良い」と言われた時に、絶対に新幹線ホームで買える自信があったので少しイラッとしてしまった。

電車が来るまでは3分しか無かったのだ。
私は焦ると結構パニックになるタイプで、それがイライラに直結した。

「絶対に着いてから時間があるのに」とぶつぶつ言いながら、私が咄嗟に手にしたものはカステラだった。
かなり焦っていたので、本当に5秒くらいで選んだと思う。
私は常々思うのだが、ゾンビが襲来してきたらパニックになって一瞬でやられるタイプである。

新幹線に乗り込み冷静になった時『私は咄嗟に何か食べ物を選ぶ時はカステラを選ぶのだなあ』と気付き、思わぬ瞬間に新しい自分を見つけてしまう結果となった。

新幹線を降りてからはようやく気持ちを取り戻し、通常レベルの『少しだけ短気』まで落ち着いた。

義実家と合流し墓を磨いた後、いよいよ今日のメインイベントでもある法事が始まった。
義母には事前に「このお寺はお年寄りのお坊さんと若いお坊さんがいるけど、お年寄りのお坊さんはお経の後の話がめちゃくちゃ長い」と聞いていたのだが、お年寄りの方だった。
義母からのお告げがあったお陰で法事が長引きそうだと悟り、お経が始まる前に一度トイレへ行くことができた。今思えば英断である。

さて冒頭で「法事には何度か参加したことがある」と話したが、今回行った法事は木ノ実家とは違う宗教だった為、初めて聞くお経だった。

事前にお経が書かれた本を渡されるので、お坊さんのお経に合わせて目で追っていくのだが、やはり抑揚があったり若干聞き取りづらい関係で、少し気を抜くだけでどこまで読んだのか分からなくなってしまう。
こりゃあ一度分からなくなったら終わりだぞ?と思い一生懸命読んでいたのだが、後半ふと隣に座っている夫を見ると、ページもめくらずにボーッと遠くを見つめていて、意地でも追い続けようと必死になっている自分に対してなのか、完全に諦めてしまっている夫の姿に対してなのか、なんだか妙におかしくなった。

お経の後はお焼香が始まる。
お焼香というのは簡単にいうと箱に入った砂のようなものを摘んで額に合わせる、というのを数回行い合掌する儀式のようなものなのだが、この『数回』というのがミソで、どうも宗派によって回数が異なったりするらしい。
これは葬式あるあるでもあるのだが、お焼香を何回すればいいのか絶対に分からなくなるので、私は1人目の義祖母からしっかり見守り、予習をしていた。

義祖母は2回、額に合わせていた。
その後に続いて義父が2回、額に合わせた。
エビデンス的にも間柄的にも、「はいはい2回するのが正解ね?」と思っていたのだが、これに続いた義母が3回行ったことにより、その後の人が全員3回額に合わせ始めた。

私はこの時思い出したのだが、焼香というのは正解不正解かは関わらずひとつ前の人を真似してしまう為、伝言ゲームのようにやり方が伝わってしまうのだ。
私は結局、額に砂を3回合わせた。
後から家の中で「誰だ?3回やり始めた人は」という話になっていたが、バラすのも粋では無いと思い、にこにこしてその場をやり過ごすことにした。

かく言う私も法事が終わりもう一度お坊さんを連れてお墓参りをしているとき、1人だけ灰色のコートを着ていることに気が付いて慌てふためいたので人のことを言える口では無い。
皆黒に合わせて来ているのに、何故この法事終盤というタイミングまで気が付かないのか。こういうところが私なのだ。膝を叩いて悔やんだ。

時系列がズレてしまったので戻すが、焼香が終わるとお坊さんの長い長い話が始まった。
義母が先に言っていた通り、それはもう長かった。

私の知っているお坊さんの説法というものは、昔話のような物だったり教訓を話すようなイメージだが、今日のお坊さんは説法、というより雑談に近く、なんとお経より長かった。
お坊さんは立ち話のような形で私たちに話しかけていたのだが、話の途中、大事そうに持っていた長い棒を落としていて「ええんか?それ落として」と思ったのだけを記憶している。
後の話はほぼ何も覚えていない。

お坊さんはとにかく話が長く、法事が終わった後のお墓参り中もずーっと話をしていた。
お坊さんはお墓の前で「皆さん、人間の髪の毛って何本あるか分かりますか?」と聞いてきた。
私たちが首を傾げていると「お米一升分です」と言ってその話は終わった。
クイズを出すには余りにも不親切な回答である。

ちなみにお米一升分は五万粒らしい。
私たちが「ということは、5万本ということかあ」と話していると、医療関係の親戚が「いや、髪の毛は10万本だ」と教えてくれた。もう何もかも滅茶苦茶である。

お坊さんの話が長すぎて、小さくて可愛らしい義祖母が寒そうに震えていたのがとても切なかった。
私の今回の法事イベントにおいて印象的だった出来事は『坊さんが落とした棒』と『震える義祖母』だったということになってしまう。

無事に終わったと言って良いのか分からないが、とにかく大きめな義実家イベントからは帰ってくることが出来た。

最後にもうひとつ、義母曰くお坊さんの話は3割前回と同じだったらしい。

ということは、次回も多分同じ話をする。

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