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まさかアマゾンで噛まれるなんて、誰も思っていなかった。

今年に入ってから数ヶ月経ったある日のことである。
1年間の功績を労うということで、会社全体での慰労会が行われた。

入社して2年くらいだったら大きな飲み会に楽しさを見出せなかったが、
今回は居酒屋ではなく会場を貸し切るということだし、
何より社会人歴が多くなるにつれて知っている社員も増える。
コロナ禍以降初めての催しだったので、私はその飲み会に参加することに決めた。

最初、どれくらいの人が来るかあまり知らなかったのだが、慰労会は意外と規模が大きくなって、私の職場の人は7割くらい参加をしていた。
同じ事務所で働く人も多く来ていたので、私が飲み会中に棲み着く島は既に決まっていて、それも安心材料だった。

ところで今回、私はひとつ目標があった。
普段仕事の話しかできない他の事務所のK姐さん(勝手に今愛称をつけた)と、雑談をすることだった。
そういえば事務所と付けることで怪しい雰囲気が倍増してしまったが、「○○課」みたいな違う部署だと思って貰えれば良いだろう。
K姐さんは個人的にとても好きな先輩なのだが、いつも忙しそうなのであまり話をする機会が無い。
この機会に話しかけようと心に決めていたのである。

話すチャンスは飲み会中に二度。
メインで行われるイベント【ビンゴ大会】の前後どちらかで話しかけなければ、時間はすぐに終わってしまう。
私は密かにソワソワしつつ、その時を待った。

飲み会は丸くて大きなテーブルの島が幾つかあって、皆最初は暗黙で事務所ごとに座っていった。
乾杯してからビンゴが始まるまでの時間は30分あるらしい。それまでにバイキング形式のご飯は絶対に確保した方がいいので、K姐さんには必然的にビンゴの後に話しかけることになった。

まずは空腹を満たさなければいけない。
私たちのテーブルは仕事の内容的にも男性が多いことがあり、皆思うことは一緒だった。

”とりあえず腹を満たす。”

行列の中、自分の分だけ取るのは非効率だと感じた私たちは、みんなで取れるだけ取ってシェアする作戦を取った。

これは大変不思議な話なのだが、バイキングとは皿にどれだけ盛ってもみんなで食べる量には見えない。
それなのに、いざ机に置いて食べ始めると、「おいおいこんなに食べれるわけないだろ…」という量の食べ物が目の前にあるのだ。
案の定私たちは「ちょっとやりすぎたかな・・?」という量の食べ物を取って会話もそこそこに食べ物を食らう集団となった。
パンやソーセージなどのジャンクなメニューが助長して、
周りのテーブルはお上品にキャッキャ食べていたのに
私たちだけ海賊団のような写真が残る羽目になった。

しかし料理は美味しかった。
それと、後輩に「量は幾らでも食べれるけど、味に飽きて食べるのを辞めちゃうんですよね〜」という、ギャル曽根と全く同じ胃袋を持った人がいた為、最後まで美味しくいただきました。

さて、メインイベントのビンゴ大会であるが、
結果的に私は景品を貰うことは出来なかった。
しかし大変盛り上がったし、身近な人がビンゴになっていたので楽しかった。

いつも仕事を真面目に取り組んでるのになかなか上手くいかない後輩がいるのだけれど、その子がビンゴになっていて「マジで徳って積まれるんだな」と密かに思った。
因みに私はこういうときに全く当たらないタイプである。

さて、ようやくビンゴ大会が終わったので、私は作戦を決行しようと
K姐さんが居るテーブルを振り返った。

K姐さんは、とんでもなくベロベロに酔っ払っていた。
遠目から見てもわかるくらいに首まで赤い。
なんなら、普段K姐さんと仲良い人たちも近くに居なかった。

私は首を元の角度に戻した。
今じゃない。今日じゃ無い。
振り返っただけで酔っていることが分かる彼女の顔色を見て、
今日は仲良くなれないと察した私は、デザートでも食べようと再びバイキング戦に身を乗り出した。

先程も少し述べたように、
この飲み会はお店ではなく会場を貸し切っているので、
食べ物が並ぶテーブルは隣の部屋にあった。
さて、デザートをフラフラと求めに行った私が果物に手を取ろうとしたときである。
人の気配など気にもしていなかった、部屋の隅から怒鳴り声が聞こえた。

「ふざけんな!!!」


ヒィ〜!!!!
私はさながらトムとジェリーのように飛び上がり、
一目散にみんながいる会場へ走り戻った。
果物は取れなかった。
その叫び声の元には2つの影があって、いつ取っ組み合いの喧嘩が始まってもおかしくない怒鳴り声だったのだ。

目撃者は数人いたようで、皆同じようにしてテーブルに戻っていた。
私は状況が分からなかったのと、怖すぎてあまり周りに言えなかったのだが
噂というのは恐ろしく、その怒鳴り声の原因は回り回って私の耳にも届いた。

どうやら、先程のビンゴ大会でAさんが当てたAmazonのギフトカードを、Bさんがふざけて噛んだところAさんが怒って喧嘩に。Aさんはそのまま帰ってしまったらしい。

私の中のさまぁ〜ずが心の中で叫んだ。
『大人なのにヨォッ!!』
この歳になって、どちらにも感情が揺さぶられない喧嘩に久々に遭遇した。
先ほどまでの楽しかった食事や盛り上がったビンゴ大会は、一瞬にしてAさんとBさんの喧嘩で記憶が塗り替えられてしまった。
多分、私だけでなく他のみんなもそうだった。

帰り道、私が先輩に
「取っ組み合いになってもおかしく無い勢いでした」
と言ったら先輩が
「じゃあ何も言い返さなかったBさんが大人だったんだね」
と返してきたが、少なくても大人では無いなと思った。

来年もこの会が催されるならば、今度はK姐がベロベロになる前に話しかけに行こう。

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