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東京サルベージ【第37回◾️いきつけの珈琲】

最近コーヒー屋でぼーっとすることが増えている。
休日や早めに仕事から帰ってきた平日に、妻とでかけていき、何をするともなくぼーっとして帰ってくる。
いきつけのコーヒー屋といえば聞こえはいいが、要は家の近所のスターバックス2件を交互にうろうろしているだけである。スタバはたいてい混んでいるのだが、閉店前の1、2時間前はなんとか席を確保することができる。店員も爽やかで(また夜にほっつき歩いているな)という顔はしない。

お互いに特に会話をするというわけでもなくおのおの読書したりスマホをいじったり、音楽を聞いたりして、時にうたた寝して帰ってくるだけなので、別にスタバでなくてもぜんぜん問題はないし、家でコーヒーを淹れ、くつろぎながら読書なり映画鑑賞なりをすればはるかに経済的なのだが、困ったものでどうにもやめられない。
毎回二人で数百円ずつ使っていてこれが月の収支になるとバカにならないものだから、ファイナンシャルプランナーがいたら真っ先に削れと言われそうなものだ。
第一うちの妻はコーヒーが体質にあわないので飲みすぎると気持ち悪くなるときている。
そんなわけで、ファイナンシャルプランナーの資格を持つ妻に何か方策はないかを聞いてみた。

「マイタンブラーを持参するしかないね」

流石はファイナンシャルプランナーだ。
せめてマイタンブラーを持参し、20円ずつ節約することにしようということになった。(焼石に水の感が否めないが、20円値引きしてくれるのだ)

「それからあんまりなんちゃらフラペチーノみたいなものには手を出さない。」

家計的には、真っ先に削るべきものだが、家にいても寛げないからついつい外に出たくなるのだから仕方がないのだ。

何故家でコーヒーを淹れてもくつろいだ気にならないのか。どこの家庭でもそうなのか。うちだけが特別なのか、理由はわからない。
家にある家具だの、家電など、年末調整の案内やら、マンションの理事会の通知とか、ベランダの洗濯物とか生活的・家庭的なものが目に触るということなのか。(まぁ確かにスタバにはそんなものはない)
それとも、他人が淹れてくれたコーヒーの方が美味しいからなのか。
(そりゃあお店で淹れたコーヒーの方が美味いに決まっている)。

だが、我々はわかっているのだ。
本当の理由は他にあることを。
居住しているマンションの部屋が私たちにとって役割を終えてきているのだ。
もともと、虹の橋へ行ってしまった愛犬との生活のために引っ越した棲み処である。
2人と一匹で長年過ごして来た。
彼女がいれば様子も違うのだろうが、夫婦二人で住むには少し広いし、無言でくつろいでいても静けさだけが際立ってしまう。

「そろそろ引っ越すべき時期なのかもしれない」

そんなわけで引っ越しに向けて準備をすることにした。
いろいろ物入りになるし節約すべきなのだが、スターバックスでぼーっとする時間とそれに要する費用を削ることがどうしてもできない。
白シャツ、黒スキニーに緑のエプロンを装着した店員がいかにもスターバックス的なにこやかな笑顔で出迎えてくれるとなんだかほっとするのだ。

取材、執筆のためにつかわせていただきます。