見出し画像

『みんな大好き 牛丼の吉野家 編②』

   今はどうなっているのかわかりませんが、当時のバイトはできる仕事内容によってレベル分けされていました。
『カウンター』
『肉盛』
『店長代理』
というように、大きくは3段階。
『カウンター』はそのまま、カウンター内など=ホール側の業務。新人はここに含まれました。肉盛は厨房業務。店長代理は店舗内のほぼすべての業務が出来て、指示する事が出来るという人。それを基本にシフトも組まれていた。例えば4人体制の時間は、店長か『店長代理』が必ず1人はいるうえで、『肉盛り』1人以上、他2人となる。この場合、『カウンター』2人でも、『肉盛り』が3人でも問題は無い。『店長代理』は、秋本さん、高野さんの他に2人がそのポジションにいた。なので基本の3交代制の中、店長含み5人のうち誰かが、必ず店にいる状態となる。まだ入って2か月目のころに、村上店長と秋本さん、高野さんの3人と俺というシビれる4人体制の時があって、緊張しまくりの日だったの覚えてます。ただ、その日を無事に卒なくこなしたので、以降結構“あて”にされるようにもなったきっかけにもなりました。
 ちなみに、昇給試験みたいなものもあって、それによって時給も上がった。確か1分間とかだったと思うが、限られた時間内に基本通りの牛丼並盛りを◯杯作る、といった感じ。もちろん、それを受ける事を店長が、許可するくらい、普段から業務ができているということが受験の条件だった。なので『カウンター』の仕事がしっかりできるようになると、厨房内の仕事も、時間があるときに少しづつ教えてもらえるようになった。ピーク時間ではない暇な時間、この時間を『アイドル』と呼んでいて、そのアイドルタイムに、そういった新しい業務を教えてくれた。ちなみにこの『アイドル』は英語の「idle」=仕事がない、動いていない、遊んでいる、などという意味からきてて、車のアイドリングとかもとは同じらしい。タレントのアイドルとは違って、後ろが強いイントネーションの発音となる。
 3か月過ぎた頃、学校も夏季休暇となり、その頃には塾講師も辞めていたので、がっつりとほぼ毎日のように吉野家バイトに入っていた。基本は早番の朝から夕方までだったが、シフトが埋まらないところがあると、村上店長はまっ先に俺のところへ相談に来るようになってきた。その状況に慣れてくると、夏休みの後半は、深夜のシフトとなることも増えてきた。深夜はバイト代が割増しで1.25倍となるので、こちらとしても美味しい条件だった。村上店長と2人体制の時は、寝過ごされないかドキドキだったが、俺と一緒の時は、寝てても呼び出しのインターホンを鳴らせば、大概すぐに起きて下りてきてくれたので、噂のようなトラブルは無かった。そんな感じで、『肉盛り』の仕事を少しづつ教えてもらってはいたが、まだ『カウンター』ポジションの頃のこと。事件は起きた。
 その少し前くらいから、レベルはペーペーだが仕事ぶりは認められていたこともあって、多店舗からのヘルプ要請があると、そちらに派遣されることが何度かあった。チェーン店あるあるかな、提供しているものが一緒なので、それぞれのものの場所などさえ把握できれば、どの店に行っても対応ができるという考え。西大島店は、在籍バイトが他店より多かったようで、近くの店舗からのヘルプ要請によく人を貸していた。それに行ってこいという事だった。よく行ったのは、同じ区内のの菊川店とか、門前仲町店。
『派遣行かせられるのは、なんかあると、後でこちらが文句言われたり、トラブルのもとになるからね、仕事ぶりしっかりしてる奴じゃないと、行かせられないから』なんてノセられると簡単にいい気になって、ホイホイと『いってきまーす』と受け入れでたな。行った先の店舗の仕事ぶりは、本部を通して店長に話が回っていたのかな?店長同士で直接話すこともあるのだろうか?まあ、その後も派遣されていたので、特に問題は無かったのだろう。
 そんなある日、深夜のシフトで店に行くと、予定表にいなかった、ほぼ同期のメンツが来ていた。今夜は2人体制のはず。こちらも手慣れたものだったから、「っあ、これは俺今夜はどこかの店だな」とっピンときた。すると予想通り、村上店長から「ムサシくん、悪いんだけどこれから新橋店に行ってもらえる?」とお伺い口調の優しい命令。「新橋店⁉」初めて行く店舗、しかもヘルプにいくには、そこそこ離れている場所。あぁそんなとこまで行くこともあるんだ?と思いつつも、まぁこちらも断る理由(余地)もないので、いつものように二つ返事で了承。すぐに新橋駅東口にある店舗に向かった。
 自店で準備して出発、23時前に新橋店に着く、JR新橋SL広場とは反対側の東口。ロータリーから大きな通りに抜ける路地に店はあった。小さなビルの1,2階が店舗になっていて全部で20数席くらいだったかな、席数は西大島店より少なかったが、大都会のビジネス街「回転数が半端ない、忙しい店舗」と言い含められてたので、緊張感は半端なかった。同じビルの屋上(6階の上くらいだったと思う)にプレハブの控え室があって、そこで着替えて1階に降りる。店長代理の人の他にもう一人いて、深夜3人体制のようだった。聞くと、そのもう一人の方も、他店からのヘルプのようで歴は1年くらいやっている先輩だった。「っあ、これは通常のカウンター業務をやれれば問題ないな」そう思いながら、店舗内の配置などのレクチャーを受ける。
 基本的には、俺がカウンター、新橋店の人が厨房、別のヘルプさんがその間に入って、というポジショニングでの営業。さすがの都会店舗、深夜でも多いわけではなかったが、お客さんが切れることはなかった。
 時間過ぎてくると、店舗も状況やほかのメンツの雰囲気が少しわかってきた。自店舗が一人しかいない状況なのは、ほかの店舗メンツが飲み会をやっているらしく、1人だけ犠牲で仕事をしているとのこと。さすが365日24時間営業、店閉めるわけにはいかないし、それをすべて他店舗の人に任せるわけにもいかず、というわけ。1人だけ残されるのもかわいそうだな。と思ったが、働いているうちに少しわかった気もした。この新橋店の人、なかなか曲者だった。任された責任感なのか?普段からなのか?初めてのメンツになめられないためなのか?その周りからの扱いと現状にふてくされているのか?結構キツめな命令口調での対応。口の悪い人はうちにもいるけど、と思いつつも、秋元さんのように堂に入ってなくて、ちょっと〝痛い〟感じだった。そしてもう一人のヘルプさんはというと、ちょっと気の弱そうなタイプで、  その新橋店の人にボロクソに言われながら作業していた。俺にも口調は悪いが、完全にターゲットはもう一人のほうに向けられたようだった。なかなかのエグい仕事環境になったなと思いつつも、やるべき仕事は常にあったので、それをこなして時間は過ぎていった。
 早朝4時ころ厨房のほうから「もうお前いいは、カウンター行ってろ」と新橋店さんの怒鳴り声が響いた。カウンターにいたお客さんもびっくりして顔を上げるくらい。目が合ったので、すみません的な苦笑いでごまかして、とりあえず厨房のほうに行ってみると。入れ替わるように別ヘルプさんが、こちらに来て、すれ違いざまに「僕カウンター入りますんで」と言ってカウンターに入っていった。この人そんな扱い受けているのに、特に表情変わることもなく飄々としていた。う~ん、慣れている感じ・・・なんだかなぁ。
 「ムサシさん、肉盛れる?」と新橋店さん「一応教えてもらってはいますので、丼盛るのはやったことありますが」と答えると「じゃあ、このあとはその辺やって」と。まだ業務レベルは「カウンター」、他の店舗にヘルプに行ってもカウンター業務以外はやったことないので、多店舗の厨房はほぼ初めて。いいのか?と思いつつも「あいつダメだから」と投げやり態度なので、とりあえず言われるがままポジションチェンジした。朝5時頃、ピーク前になって準備もある程度終えると、この後の段取りもままならないまま「ちょっと休憩させてくれ」と新橋店さんが出て行った。
 しばらくすると、少しずつ来店客が増えてきて席が埋まる。まだ2階店舗は開けていなかった。とりあえず多店舗の2人で店を回す。早く降りてこないかなぁ。と思いつつも、まだ回せる状況だったし、控室に繋がる内線的なものがあるのかも教えてもらっていない。そろそろジャー中の米が減ってきていたので炊飯器のスイッチ入れておく。炊飯器の米は先の状況見越して、あらかじめ決められた分量(2升炊きだったと思う)をセットして、タイミングで炊き始めるのが通常。もう一つあった炊飯器は新橋店さんが上に行く前にスイッチ入れて行っていたので、炊き上がるのを待つだけ。30-40ほどして新橋店さんが寝起き顔で下りてきた。満席状況に少し慌てながら「米、大丈夫?」と聞いてきたので「もう一つもスイッチ入れておきました」と、
6時からもう一人来るらしく、来たら2階オープンするので、そうしたら2階のカウンターに入ってくれ、と指示受ける。
 しばらくすると、炊飯器のほうから炊き上がりのにおいに混じって焦げたような臭い。「あーーーっ」という新橋店さんの声、続けて「おいおいおいおい」とこちらに向けた声が。「何?」炊飯器は自動の炊き上がりで保温・蒸らしになるので、基本的に焦げることはないはず。何かやらかした記憶はない。
 そのタイミングで6時出勤の方が出勤。すぐさま状況把握して、
「ジャーに米どのくらい残ってる?」と聞いてきた。
「残り4分の1です」と返すと、
「こっちの炊飯器のスイッチはいつ入れたの」と。だいぶ仕事できる人の状況把握。
「30分くらい前です」
「そっかぁ・・・」と困り顔で、茫然としている新橋店さんと話を始めた。
「なんでレバー上げてないの?」
「いや、あの休憩入っていて」
「教えてないの?」
「教えていきました」
そんな感じで、話していたと思ったら、
「言いましたよね『炊飯上がってもレバー上がらないから手動で保温にしてください』って」と俺に。
???何の話?と
あまりに突然の言い分なので、あっけにとられていると、
「とりあえずいったん店閉めるから、紙に書いてドアに貼ってカギ閉めちゃって」と6時出勤さんが新橋店さんに指示。新橋店さん、俺らにイキってた感じとは全く逆の様相で対応しいた。あぁやっぱりね。
 そんなわけで6時~俺がスイッチ入れたもう一台のほうが炊き上がるまで20分ほど、年中無休店を一旦閉める事態に。しかも大繁盛店の朝のピークタイム。かなりの来店客を帰すハメに。こりゃ大問題だな。と、そしてなんか俺のせいっぽくなってんじゃん。
 焦げた米の処理と次の炊飯の準備の中、6時出勤さんの検証が始まるが、こちらの言い分を言わせない勢いで、新橋店さんが自分の言い分を言い続け、しまいには「問題、本部に上げるからね、西大島店の店長にも、ちゃんと報告しろよ」とまくしたてる。一応「確かに、その時間その場所を任されましたが、その話は俺は聞いてません」と応えたが、そのそばから「俺は言った、大変なことになったからって、ごまかすなよ」と言葉被せてくる始末。なぜか言った言わないの水掛け論になってしまったまま、うやむやのま店を再開。その後予定時間まで仕事。帰り際6時出勤さんが困り顔で「僕も見ていた状況じゃないので、とりあえず、今回の件状況そのまま、二人の言い分もそのまま本部には上げます」と言われた。
 もやもやした気分のまま西大島店に戻ると、村上店長いたので、事の顛末を報告。「っえ?ムサシ君『カウンター』での応援要請で行ってるのに何それ?『肉盛り』やらされたの?」とちょっと怒り気味ですぐに新橋店に確認の電話してくれた。先方と話を確認して「では、そもそもこちらに非はありませんよね?」的な話をして電話を終えた。
 話としては、村上店長の言っていた通り俺は『カウンター』としてのヘルプで、もう一人が『肉盛り』レベルでのヘルプ要請だったと確認。さらに状況的に炊飯器の不具合はもう一人に教えていただけであろうと思われる。いずれにせよ問題は要請レベル以上の作業をさせた店の人の問題なので、俺に問題はない。という形で話はついたとのこと。「ムサシ君悪くないから気にしないでいいよ」と言ってくれて、少し気分楽になって家に帰れました。
 同じ日の夕方からバイトに入っていたので、店に入ると入れ替わりで上がりの秋元さんのが「コンちゃん新橋店30分閉めたんだって~」と笑いながら肩組んできた「やばいね、年中無休のの吉野家閉めるとか大問題だよ」と高野さんまでのっかってきた。気にして落ち込んでるんじゃないかと気使って
くれているようだった。ありがたい。
「吉野家を30分閉店させた男」として、当時のバイトのほか、後から入ってくる後輩バイトにも伝えられ、しばらくの間、いじられネタとして使われた。いい雰囲気のバイト先だったな。
 10か月ほど吉野家のバイトは続けた。そうして貯めたお金で学校近くの埼玉上福岡にアパート借りて、念願のひとり暮らしを始めることになる。引っ越ししてここのバイトは上がることになりましが、ラスト近くなったころ、村上店長から「近くの店舗紹介するから、吉野家続けなよ」と、高野さんは「とりあえず就活のころにオレンジの封筒来るよ」と含み笑い。「もう内定だな」と秋元さん。就活時期になると吉野家への就職『内定通知』が届くよとの冗談・・・・・・と思っていました。その後、引っ越し先では吉野家続けませんでしたが、2年後、オレンジでもなく内定とも書いてはいませんでしたが『株式会社 吉野家ディー・アンド・シー』より会社概要と面接の案内は届きました。

吉野家編はここまで

次回は
『季節労働⁉老舗百貨店で学生服販売』編を
お楽しみに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?