春の優しさが苦しい

 春という季節が苦手である。どこを見てもキラキラしいてる春という季節が。
門出の季節であり、新生活の始まる季節。春の出会いと別れは、悲しさや不安の中にも希望や期待などの前向きな感情が垣間見える。
 そんな人間のポジティブな感情が光の屈折のように散漫し、反射し合い、キラキラと光を放っている。乱反射するようなキラキラと光る人間のムードに呼応し、祝福するような桜の花吹雪。暖かな気候と草木の柔らかい香り、肌に当たる生ぬるい風が、鬱陶しいほどに優しくて。
 風も吹かない変化のない日常の中で、出会いも別れもなく祝福されることのない私にとっては、暖かく生ぬるい風に吹かれ、桜が散り、ふわりと柔らかな香りが漂う、その情緒が不釣り合いに感ぜられ、置いてけぼりにされているようで不安になる。春という季節は優しくて苦しいのである。


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