待てど暮せど出て来ない珈琲

 注文から20分。運ばれてこない珈琲。
 周りの席を見渡すと、次々とドリンクが提供されていく。アイスコーヒーならもっと早く提供されていたのか。自分がブレンドコーヒーを頼んだ事を後悔している。
 長居するつもりはなかった。近くで待ち合わせがあったから入店した喫茶店。2月初旬の寒空の下、屋外で時間を潰すはしんどい、それに見に行きたいお店も無く、やる事がなかったので待ち合わせまでの小一時間、時間を潰すために入った喫茶店である。寒風で冷えた体を温めようと熱いブレンドコーヒーを注文したがこれが良くなかった。
 30分が経過しても尚、お冷しか運ばれて来ていないこの状況に、喫茶店に入ったことすら後悔し始めている。
 普通の人間なら注文をキャンセルするのだろうか。いつ運ばれてくるのか、ちゃんと注文が通っているのか不安になり、そわそわしてくる。
 そんな事を考えていると、テーブルに空のマグカップと銀色の容器に入ったミルク、スティックシュガーが運ばれてきた。安堵の笑みがこぼれそうになる。注文はしっかり通っていたようだ。間も無くだ。間も無く運ばれてくるだろう。
 そう思っていたのだが、目の前を素通りしていく数名のスタッフ。別の席に提供されていくドリンク。この頃には待ち合わせまで残り15分という時間まで迫っていた。待ち合わせの時間が迫っているというのに、まだ待たなければいけないのか。怒りというよりは恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。
 ゆっくりとコーヒーを啜り、優雅に読書でもしようと思っていたのだが、これでは提供されてすぐに会計を済まさなければいけない。想像しただけで滑稽だ。提供されたばかりのコーヒーを数十秒で飲み干し、すぐに会計を済ませる。周りの目を考えてしまうととてもそんな事はしたくない。提供されたばかりのコーヒーを急いで飲み、急いで店を飛び出していく人は誰がどう見たって異常に映るに違いない。
 ようやくブレンドコーヒーが運ばれて来たのは注文から50分ほど経過した頃だった。ポッドに入ったコーヒーを目の前のマグカップに注ぎ入れながら丁寧に、説明までしてくれるスタッフ。苛立たしい。
 説明するスタッフの声は宙に浮き、注がれるコーヒーを一点に短距離走のスタートを待つかのように見つめる。
 注ぎ終わるのを合図に一呼吸置いてから、コーヒーを一気に啜った。

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