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その塔に注がれた人々の熱と思いを伝えたい。

再読の部屋 No.10 幸田露伴作「五重塔」 発表1891年(明治24)

幸田露伴の「五重塔」について記したのは、2021年2月23日。読後に感じた清々しさを、次のように書きました。

ある寺が五重塔の建立計画を発表すると、二人の男が請け負うことを願い出た。一人は、卓越した技量を持ちながら、鈍重とされる性格から仕事に恵まれなかった大工。いま一人は、その親方で、実績も人望も文句のない男。
様々ないきさつを経て前者が建立をまかされる。トラブルに遭遇しながらも、美しく頑丈な五重塔が完成する。

壮年期の対照的な男が、それぞれの価値観をぶつけ合い、それに起因するトラブルにも苦しみながら、五重塔の完成により調和する、そんな「プロジェクト五重塔」として読むことができました。

2021年2月23日投稿「応援しています。プロジェクト五重塔!「五重塔」 by 幸田露伴」

これを読み直したとき、感じたはずの「清々しさ」の輪郭がぼやけていて伝わってこない。なぜ?

最初に読んだ時、本作には「異なる価値観を提示し、これを対立させ、最後に、調和させる」という流れを感じました。しかし、初読で筋を追うことに苦労したこともあり、感じとれた内容は薄い。よって、再読では、もう少し深く物語に潜ってみたい。

そのためのヒントと考えたのは、この作品が「ある寺の五重塔の誕生の物語」であるということです。一人の天才の努力と活躍で終わる単純な物語ではない。大嵐にも釘一本揺るがず、板一枚はがれなかった五重塔の建立に、登場人物たちは関わり、何かを経験し、喜怒哀楽を感じた。それらが描かれているはずです。

そう思い込み、読み直してみると、登場人物一人一人への関心が高まり、それぞれが演じた役割が頭に入ってくる気がしました。読了後、人々の熱量と思いに満ちた五重塔というイメージを持つとともに、その威容を前よりも大きなスケールで感じました。

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ここで、2021年2月23日投稿記事から「五重塔」の登場人物についての記載を再掲させていただきます。これをきっかけに「五重塔」に興味を持っていただけたら、とても嬉しい!

主人公
技量はあるが、こだわりが強く、また、それを曲げない頑固さがある。加えて気遣いがないことから、仕事に恵まれていない。
気の進まない仕事を続けていたが、突然、五重塔の建立に駆り立てられる。

親方
技量はもちろん、男気があり、リーダーとして数々の建設プロジェクトを成功させた実績の持ち主。
「一つの仕事を二人でやるのは嫌」という主人公の頑固さに腹を立てるが、自身の男としての美意識から、主人公に仕事を譲る。

感王寺の上人様
主人公が作った五重塔の模型を見て、主人公の技量に興味を示す。
主人公とその親方に、「いずれが建立するかは二人で決めよ」と命じる。

家族ほか
主人公の妻 五重塔建立に譲歩してくれた親方に、夫が非礼な態度を取ったことから、彼を厳しく責める。
親方の妻  五重塔建立に譲歩する親方の悔しさを推し量り、主人公に激しい怒りを覚える。
親方の弟子 親方の妻の怒りに触発され、主人公に対しある行動を起こす。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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