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イギリス倹約和食術

中学校からの同級生が日本でお仕事を一緒にしていた方が、最近ロンドンに引っ越してきたという。

ちょうど、イベントのため日本ぽい衣装を探している、ということで、同級生から相談のメッセージがやってきた。
じゃあ、うちにある浴衣をお貸しがてら、まずは一度お会いしましょうと我が家にご招待した。

「もともと和食好きなんですが、自分で作れるものには限りがあるし、外食は高いし。で、食べるものが単調になって体重がずいぶん落ちちゃったんです」

まだうら若く健康的に日焼けしたその女性は、ひじきの煮物や高野豆腐、和風スペアリブなど私がふるまった和食をパクパクと気持ちいいくらいしっかり食べてくださった。

日本を離れて3か月目ということは、まだまだ「日本円でいえばXX円だ」とポンドの値札を換算しているだろう。
ただでさえ物価高が続くイギリスで、プラス、ますますの円安だから、すべてが高く思えるのはよくわかる。

旅行者じゃなく居住者なんだから、1ポンドは100円という金銭感覚も必要かもしれない、という話は以前にも書いた。

生活が苦しくなろうとも、でも、世界に挑戦してみたい。
そんな彼女の新生活の話は、自分がイギリスに来た頃のことを思い起こさせた。
せっかくだったら自分が見つけたコツみたいなものを分けてさしあげたい。
日本からイギリスに挑みがんばっている姿に、なんだか老婆心がくすぐられた。

「じゃあ、今度、いっしょにあなたのおうちの近所のスーパーやお店にいって、そこで手軽に買えるものでどんな和食が作れるのか、紹介しましょうか」

かつて、一番近い日本食スーパーが車で6時間というアメリカ中西部のどまんなかで生き延びた私。
メキシコ料理のお米や豆、ツナ缶なんかで「なんちゃってサバイバル和食」をいっぱい作ってきた。

それから20年以上が過ぎ。
いまや、和食は世界的大ブーム。

しかもロンドンはアメリカのド田舎と違い、日本人コミュニティもアジア人コミュニティもある。

とはいえ、潤沢な和食レストランでの食事や日系スーパーでの買い物も、お金が許せばこそ。
味噌も醤油も日本酒も。
日本からの輸入物はコロナ以降、大幅に値上がりした。

高めの日系スーパーではなく、あくまでリーズナブルに、普通のスーパーで手に入るものをメインに活用しながら、彼女の予算のなかで和食が恋しい気持ちを満たせるもの。

自分のサバイバル和食の経験と、ロンドンでの食材アクセスの学びとを合わせてシェアできれば、とオファーしたのだ。

そんな情報が、もしもイギリスにいる和食恋しのだれかに役立てば、ということでここにも書き留めておきたい。

まずは大衆スーパーで何が買えるかをチェックする

和食ブームの昨今では、普通のイギリスのスーパーマーケットチェーンでもかなりいろんな和食材が手に入る。
そして同じものを中華系あるいは日本食スーパーで買うよりも、若干安いことが多い。
それってナショナル麻布スーパーや成城石井よりも、同じチーズが東急ストアだと安いようなもの。

ここでいう普通のスーパーとは、イギリスのメインチェーンであるTescoやSainsbury's、Morrison'sやWaitroseのこと。
ドイツ系の激安スーパーAldiやLidlは店舗によって品揃えがまちまちなので含んでいない。

酒は白ワイン、みりんは「+砂糖」

和食をふるまってとガイジンたちに頼まれて料理すると、いつも思う。
結局のところ、みんな「醤油+酒+みりん」味だなーと。
煮物だって、照り焼きだって、牛丼だって、親子丼だって、天つゆだってめんつゆだって、結局これだ。

となると、どうやってお手頃にこの基本調味材料をそろえるかが、まず最初のカギになる。

まずは料理酒。
日本酒はイギリスの大衆スーパーで売っている。
でも沢の鶴の一合が5ポンド、四合瓶で13ポンドする。

だったら割り切って、私は安い甘めで酸味のない白ワインを使うことを勧める。
原料がお米かブドウかの違いはあれ、醸造酒だ。
火を通してしまえばそんなに違うわけでもない。
ワインだったら、スーパーの一番安いPBもので3ポンドからある。

そして、みりんはワインに砂糖を足して代用すればいい。

ちなみに私はスペインの友達の家で煮豚を作るとき、白ワインを飲んでしまったので、キッチンにあったリオハの赤で作った。
まったく問題なくおいしい煮豚に仕上がった。

米酢も、白ワインビネガーで代用ができる。

でも醤油だけは妥協しない

どこのスーパーにいってもワールドフードの棚があって、インド料理やタイ料理、中華料理やメキシカンなどの食材が売られている。
そして、そこにはぜったいに和食の食材も扱われている。
日本食ブームばんざい!

醤油も中華系からキッコーマンまで各種いろいろ売られている。でも、ここはぜったいに妥協してはならない。
安い中華系のお醤油は味が全く違うから。
たまり醤油のように甘かったり、奇妙な臭いがあったりする。

ちなみにキッコーマンの500gで4ポンド程度する。
日本の値段と比べちゃいけません。だって、日本でヨーロッパのチーズやワインを買うときはちょっと高くても許すでしょ。
同じことです。

このワールドフードコーナーには、たいてい味噌もみりんもお豆腐も、そして昨今のスシブームのおかげですし酢やすし米、海苔なんかも売っている。

だから、きっちり材料を買いそろえたいというのなら、みりんもすし酢も問題なく手に入る。

ただ、みりんが150mlで3ポンドといった価格なので、バランスを考え、不可欠かどうか、代用できるかできないか、妥協できるかできないか自分の懐具合と合わせて判断すればいい。

日本で、輸入物のカマンベールを買おうか、雪印の北海道カマンベールにするかと同じこと。

作った結果、自分の舌では違いはわからなかった。ので、私は白ワインと砂糖で十分だ。

お米はというと

イギリスで売られている短粒種のお米はイタリア産のコシヒカリが多い。日本食スーパーにいかずとも、大衆スーパーで普通に買える。
値段はこれも大衆スーパーのほうが通常は安い。

私はお米の味に執着があるという話を以前書いた。

なので、基本的には年一回の帰省のときに米を持ってきて、韓国スーパーや自然食品店で買う玄米とバランスを取って配合して食べている。

ただ、コロナで国境が閉じ、帰省できなかったとき。
自宅にストックしている米が底を尽きたことがあった。
物資不足で、イギリス中のスーパーから、トイレットペーパーはもとより、パスタや缶詰、ありとあらゆるものが消えたとき。
だから、スーパーのPBで売られているイタリアンリゾット用米スパニッシュパエリア用米なんかも代用した。

私はパンやパスタ「だけ」では生きていけないのだ。

スーパーの冷凍食品コーナーチェックを忘れずに

たいていのスーパーでは冷凍野菜のコーナーにエダマメビーンズ(エダマメ)、そしてブロードビーンズ(そら豆)が売られている。
これが案外便利で使い勝手が良い。

さらに、最近のビーガンブームで、アブラアゲ(油揚げ)も冷凍で売られていることが多い。

2枚入って定価1ポンド。
スーパーのメンバーカードで60ペンスになる。

味噌汁の具。
手作りでおでんに入れる餅入り巾着を作るときに入れたりもできる。

そばもうどんも売っている

Yutakaというブランドがイギリスでいろんな和食関連食材を出している。
昔はWhole Foodsのようなお高めナチュラル系スーパーでしか扱いがなかったが、和食ブームにのって普通のスーパーでも扱いがどんどん増えている。

おかげで、うどんもそばも簡単に手に入る。
昔はフランスそば粉クレープ用の粉を買って、そばがきなんかを作っていたけれど、それももはや昔。

WagamamaやWawabiといった和食系ファストフードの人気に押されて、焼うどんブームなので、韓国ラベルではあるけれど、真空パックのゆでうどんだって売っている。

野菜はなにがつかえるか

野菜の取り揃えは、いろんな人種が住むロンドンでは、その地域によって大きく違う。
アフリカ系が多いとキャッサバなどのイモ類が充実しているし、アジア人の多い地域だとオクラや唐辛子、ベビーコーンなんかが置かれている。

ちなみにイギリスで「Asian」というとインド、パキスタン、バングラディッシュ人のことを指す。
中華系や日本人はあえていうなら「Oriental」。

ぜったいある野菜で使い勝手がいいのは、ショウガ。
そもそもイギリス人はショウガが大好き。キャロットジュースや紅茶にショウガをいれる、あるいはショウガ入りビスケットなどはよくあるレシピだ。クリスマスのジンジャーブレッドボーイはいい例だ。

それから長ネギ。
リークと呼ばれ、イギリス人はこれとポテトを煮込んだスープが大好きだ。日本の長ネギよりも甘みが強く、鍋物には最高。

他に日本でいう万能ネギも売っている。こちらのほうが辛みがある。

どちらも刻んでおいて冷凍もできる。

大根はイギリス英語ではムーリと呼ばれる。ムーリはヒンディー語だ。
インド人は大根をサブジという煮物にするので、インド系がいるエリアなら大根を野菜売り場で見つけるのは難しくない。

ちなみに大根をラディッシュと呼ぶのはアメリカ英語。
イギリスでラディッシュというと、
赤くて小さなハツカダイコンになる。

キノココーナーにはたいていシイタケマッシュルームとして椎茸が売られている。
なかったとしてもポートベロマシュルームが代用になる。

シメジやエノキが混じったエキゾチックマッシュルームミックスなんかも売っていることが多い。

そして、炒め物用に袋詰めされた野菜のコーナーにはモヤシが置かれている。

また、ピーマンの近くにはシシトウがあることが多いので要チェック。

水っぽく太いキューカンバーの近くを探してみると、ピクルス用としてミニキュウリが見つかるかもしれない。
ミニキュウリのほうが私たち日本人の舌には合うはずだ。

キャベツは、つい見た目からホワイトキャベッジを買ってしまいがちだが、味が日本のキャベツに近いのは少し細長いスイートハートキャベッジ(ポインテドキャベッジともいう)、あるいはサボイキャベッジ(ちりめんキャベツ)。
これらの方がホワイトキャベッジよりも、お好み焼きやロールキャベツに向いている。

ナスは米ナスなので、みそ田楽には向いているけれど、漬物や揚げびたしなんかにはちょっと違う感がある。
小さいサイズのナスも売っているのだが、やっぱり日本のものとは味が違う。
むしろイタリア料理のナスのパルミジャーノを作るというテもある。

肉売り場では

鶏肉は、日本ではめったにお目にかからない丸鶏がいちばんお得。
大きさが大中小とあって、一番小さい鶏なら3-4ポンドで買える。
そのまま鍋でサムゲタン風にネギやショウガとお米とコトコト煮てもいいし、ローストチキンもいい。

でも、私はたいてい骨付きのモモ肉を買い、まとめて骨を外し骨スープに、肉は個々に冷凍して常備している。
手羽は手羽先と手羽元に分かれて売られているので、時々手羽元も買う。

イギリスでは鶏のひき肉という習慣がない。
なので、タケノコご飯などでは、代わりにターキー(七面鳥)のひき肉を購入する。

いっぽう、ソーセージ大好きのイギリスでは、豚のひき肉はとても一般的。必ず売られている。
餃子もいいし、肉団子や麻婆豆腐、ロールキャベツの中身にもできる。

ごちそう感をだしたいなら、スペアリブを。醤油味でもよし、ケチャップ味でもよし。イギリスのキッチンにはぜったいオーブンがあるので、オーブンシートを敷いて放り込めばよい。

薄切り豚はベーコンしかないイギリス。豚バラの三枚肉を凍らせて、溶けかかったところを薄切りして炒め物やお好み焼きに使っている。
とんかつ用のロース肉は、生姜焼きにしてもおいしい。

牛はスーパーのお肉は当たり外れが高い!
シチュー用に見える肉もなかなか煮込まないと硬かったりするので、ステーキなど絶対外したくないときには奮発して個人商店の肉屋へ行くほうがいい。
私が買うのはもっぱらひき肉だけれど、たいていは一人暮らしなので冷凍の牛ひき肉を買っておく。パラパラになっていて少量使いができるから。

ラム。薄切りがないのが残念だけれど、ときどき焼き肉ダレを作り、漬けこんで焼いたりする。この時は野菜売り場で買ったモヤシとキャベツをたっぷりそえて、なんちゃってジンギスカンだ。

鶏や豚のコーナーには、このほかハツやレバーも売っている。焼き鳥(豚)屋さんごっこをするときには活用できる。

魚はあいにく…

コロナ以降、魚売り場はどんどんと縮小傾向だ。
海に囲まれている島国だというのに、白身魚をフィッシュアンドチップスにするくらいしか伝統的に習慣がないイギリスでは、魚は高いおかずだし、食べる人も限られているので、スーパーではあまり選択肢がない。

そんななかお手軽に魚味を食べたい方にお勧めなのが、真空パックされた燻製のサバ。缶詰よりも手軽で和食にしやすい。

熱湯をかけて脂を落とし、ほぐして白米にのせ、ネギを散らし、醤油をちょっと垂らす(もともとの塩味が強いので)だけでおいしいサバ丼。
さらにフライパンで焼けば、焼き魚の恋しさをカバーできる。
パスタの具にしてもいい。イギリス人はホースラディッシュと混ぜパテを作ってトーストにのせて食べるが、それもなかなかおつなもの。

日本だったらサバは缶詰。
もちろんサバ缶も売っている。イワシ缶もある。ただ、たいていが既にトマト味やらハーブ味になっているのだ。なので、和食風にするのならパックのものがお勧めだ。

鮭もよく売られているが、もっと見るのは白身魚。フィッシュアンドチップスやフィッシュフィンガーといった白身魚のフライはキッズメニューの定番でもある。でも、たいていのイギリス家庭は冷凍食品をオーブンで温めるだけなので、白身魚を調理する人は少ないのだろう。

もし魚屋(フィッシュモンガーという)が商店街にあるようなら、試しに入ってみることをお勧めする。
イワシ、ニシンとサバはブライトンなど近港で採れるからかそんなに高くない。梅干しやショウガと一緒に煮れば骨ごとおいしく食べられる。サバはオーブンで塩焼きがいい。
鯛とスズキは大きくなかったらまあまあお手頃。これも塩焼きか、鯛はそのまま鯛めしもいける。
ヒラメの仲間は種類がいっぱい(ターボット、ブリル、レモンソール、プレイス)あるが、煮物にしたり、揚げ焼きにするとおいしい。
イカもよく見るし、エビも種類が結構ある。運が良ければムール貝のほかにマテ貝やアサリがみつかるだろう。

果物は

果物はおそらく日本と比較して一番お得感が強いモノ。
東京オフィスの時イギリス人の上司が、裏のミニストップでカップに入ったフルーツミックスをお昼に買ってきては「高い、高い」と文句を言っていたのを思い出す。
シーズンのいちごは絶品だし、リンゴはいったいいくつ種類があるんだろいうくらい。私のお勧めは洋ナシ。買ったときのちょっと青臭いのもおいしいし、放っておいたあとのトロンと甘みの増したところもいける。
そうそう、柿も人気でよく売られている。

最後のしめに

おそらく一番イギリスで悲しいことは、おいしいケーキ屋がないことだ。
日本だったら、町中のお菓子屋さんだってもっとおいしいだろうというくらい、そこらへんのカフェや洋菓子屋で売っているケーキが「工場っぽい」のだ。
そんな中で絶対に外さないのはティラミス。
また、どこのスーパーでも扱っているGUシリーズもはずさない。私のお勧めはチョコレートフォンダン。オーブンで焼くと中はどろり、そとはほくほくで食べられる。

時々どうしてもプッチンプリン的なジャンクデザートが食べたくなるのだが、そんなとき買うのがこの小さなプリンが4つくっついたもの。
これで1ポンド15ペンス。

そうそう、日本語では「プリン」というので、イギリス英語でプディングときくとプリンを思い浮かべるかもしれない。
でも、イギリス英語ではプディングとは食後のデザートの総称として使われる。
「なにかプディングたべる?」
とウエイトレスさんに訊かれたら、それは、デザートの注文をしますかということだ。

そして、それが名前にまでついているくらい、「ザ・イギリス」のデザートといえば、スティッキー・トフィー・プディング、だろう。

身震いするほど甘いデーツのソース。
でも、オーブンで熱々にしたところに、クロテッドクリームまたはアイスクリームを載せたものといったら。

あれ、気づいたら和食テーマから外れてしまった。

ということで、スーパーお買い物編はこれにて終了。

いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。