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「勝負飯」

ジンクスみたいなものだが
「本番前は、いつもこれ」と
本番前に食べるものを
定めている人は少なくない。

私もその一人である。
・・・いわゆる「勝負飯」。

学生の頃は
本番の前日や
本番当日の昼には、
「若鶏の唐揚げ」
を食べていた。

唐揚げは子供の頃からの好物だが、
やはり一番強烈な思い出は
国立音大の学生だった頃。

西武拝島線「玉川上水駅」、
その裏手にあった
「万世」という中華料理屋。

この店のメニューは
どれも貧乏学生が
腹一杯になるほどの
大盛サイズだったが、
特に「唐揚げ定食」は
皿から溢れるほどの
山のような量で有名だった。
(実際、山盛りだった)

これだけあると
見ただけでテンションは上がり
「食事は格闘技だ!」などと
無駄に闘志を燃やすことになる。

その記憶が後々まで
「本番前は
 唐揚げで気合いれるで!」
となったのであろう。


・・だが、
世の全ての唐揚げが
美味しいという訳ではない。

店によって、
あるいは経過時間によっても
唐揚げの味は変わるし、
なにより食感が大きく変わる。

一度、本番前に
パッサパサに乾いてしまった
唐揚げを口にして
そのあまりの不味さに
歌まで萎えてしまったことがあり、
以来、唐揚げは
「勝負飯」の座から
一段、格落ちすることになった。

※ ※ ※ ※ ※


外国に留学すると
コンクールやオーディション、
コンサートやオペラの巡業などで
見知らぬ国や
見知らぬ土地を旅することがある。

できるならその土地の名物を
食べたいとは思うのだが、
本番前にそうした
見知らぬ料理を食べるのは
結構リスキーである。

となると、
いきおい食べ慣れたもの、
どこでも注文できて
味もそこまで大差ないものを、
安全のために求めるようになる。

ということで
イタリアでの勝負飯は
ごくシンプルな
「ペンネ・アラビアータ」だった。

どの街の食堂にも必ずある
「ペンネ・アラビアータ」だが、
どのメーカーのペンネを使っているのか、
トマトソースはどれくらい
濃く煮詰めているかなど
それぞれの店で個性があり、
安心の一皿ではあるが
その差を味わうのが楽しい。

また、
ガツンと活力を入れたい時は
ペペロンチーノ増量で
激辛にしたり、
逆に体力が落ちている時は
チーズで甘みを増したり、
自分で調整できるところも
気に入っていた。

ただし、これは
あくまでイタリアでの話。

間違ってもフランスで
ペンネ・アラビアータを
注文してはならない。

もし注文したら、
あなたは
イタリアとフランスの
「食文化の違い」を
身をもって体験することになる。

※ ※ ※ ※ ※


今の私の勝負飯となると
何だろうか・・・?

ここ一番パワーを注入したい時は
唇が火傷するほどの
アツアツの「中華丼」が定番だが、
これは勝負飯ではなく
稽古前の気合飯という感じがする。

とんかつや焼肉定食も好物だけど、
これだと食べ過ぎて
本番前に眠くなりそうだ・・・

・・うーむ、案外、
駅前の立ち喰い蕎麦屋で食べる
「かきあげうどん」かも知れないな。

こういうちょっとした一杯って、
実はイタリアにもフランスにも、
スペイン、ドイツにもないんだよね!

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