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若手がチャレンジさせられる理由と年寄りがチャレンジしない理由をゲーム理論で説明する

はじめに

世の中では一般的に若い人ほど積極的に挑戦しよう!とけしかけられることが多いかと思います。

でも、この文化はよくよく考えたら不思議です。

なぜなら、別に人間が何かに挑戦するのに年齢なんて関係のない要素のはずだからです

しかし、一般常識的には年齢が関係あるようです

なぜ、若い人ほどチャレンジを促され、逆に、年寄りほどチャレンジしないのか?

今回はゲーム理論の切り口でこの謎を紐解いてみようかと思います。


利得表を作る

早速ですが、「若者/年寄り」が「チャレンジをする/しない」の選択を取った時の利得をまずは考えてみることにしましょう。

まずは前提をしきましょう。

若者と年寄りの二人は同じ会社の社員です。
若者は20代後半で、年寄りは50代後半の定年が間近に控えた社員を想定します。


誰かがチャレンジをすることで2~3年後にイノベーションが起きます。
その後、会社が儲かり、全社員にとってメリットがあります。

逆に誰もチャレンジをしなかった場合、およそ、10年後くらいに会社は競合に負けます。
会社は倒産したりボーナスカットなどを行います。


なお、チャレンジにはリスクがつきものであり、チャレンジの失敗リスクはチャレンジをしたものが取ります

また、チャレンジ後にイノベーションが起きた後に、会社にどれだけ属しているかで便益も変わってきます


上記の前提を基にした利得表を以下に示します


利得表説明

上記で示した利得表の説明を行います


パターン1 若者「チャレンジする」×年寄り「チャレンジする」

まずは、両者共にチャレンジした場合の、両者の便益はどうなるかを見てみましょう

まず、会社の全員が一丸となってチャレンジをするので、大きなイノベーションが起きます

そして会社が儲かりチャレンジの対価が全員に還元されます

社員一丸となってチャレンジをすることでチャレンジをしたことによるメリットが会社全体に及びます

よって、会社に長く在籍する若手社員が最も得となる+1800を手に入れます

年寄勢も在籍期間が短い分を差し引いて、+200を手に入れます


パターン2 若者「チャレンジする」×年寄り「チャレンジしない」

そうはいっても、どちらかがさぼるパターンだってあり得るでしょう

まずは、若者がチャレンジをして、年寄がチャレンジしないパターンを考えてみます

まず、会社の誰かがチャレンジをするので、イノベーションが起きます

そのイノベーションは会社全体に還元されます

チャレンジをするものはリスクを取るので、還元される分から労力を差し引いた利得を得ます

対して、チャレンジしなかった側は、何もせずに利益を享受できます

その点を踏まえた利得は表の通り、若者+500、年寄+500となります

一点補足を加えると、社員全員で一丸となった場合の利得と片方だけは大きなイノベーションが起きて全体としての利得は+2000なのに対して、片方だけがチャレンジする今回の場合はイノベーションの大きさが小さいと考えて全体利得は+1000とします


さて、フライングですが、ゲーム理論的には、このパターンの選択肢が取られてしまうという話を後ほどしていきます
年を取るとチャレンジが求められないのに対し、若ければチャレンジを求められるということが見事に説明され、ゲーム理論すげーと思ってもらえる気がしています


パターン3 若者「チャレンジしない」×年寄り「チャレンジする」

さあ、フライングしまくりましたが、逆のパターンだってあるはずです

若者がさぼって、年寄りが頑張るパターンです

この場合はどうなるかというと、さぼった側はリスクを取らずに甘い汁だけを吸えるので、若者の利得は+1050です

対して、年寄りは、何もしなければ定年退職を迎えて安全に退職できるのにも関わらず、チャレンジすることによってわざわざリスクを冒してしまいます

会社の在籍期間も短いのでリスクを差し引いて、年寄りの利得は-50であると考えられます

さて、こちらも会社全体の利得としては+1000としました

読んでいて思った人もいるかもしれませんが、逆立ちしても起こりえなさそうなパターンですね……

さあ、どんどん行きましょう


パターン4 若者「チャレンジしない」×年寄り「チャレンジしない」

さて、最後のパターンです

どちらもやる気のないパターンもあるでしょう

なんだか、今の日本社会を表しているような選択肢ですね

さて、このパターンのそれぞれの利得を見てみましょう

といっても簡単です

若者は会社がイノベーションを起こさないので、会社がつぶれるなど長期的に見てマイナスになります
利得で表せば、-1000でしょう

対して、年寄りはイノベーションによる利得はありませんが、同じようにチャレンジによるリスクもありません
会社自体も数年は持つという見立てがあるために、逃げ切り成功で、利得としてはプラスもマイナスもなしの0です

さて、すべてのパターンの利得がそろいました

それではお待ちかね

どのパターンが最終的に選ばれるのか
そして、その選択肢が選ばれるのが必然の結果であることを見ていきましょう


それぞれのプレイヤーとなって考えてみよう

さて、ゲーム理論の本髄です

利得表を読み解くためにはそれぞれのプレイヤーの気持ちになって考えてみることが大事です

そして、ゲーム理論の本質的な要素としては、相手の手を読んで自分の手を決めるというのが最も本質的なところとなります

そうするためにはまず一度どちらかの立場に立ってゲームをしなければなりません

まずは若者の立場でこのチャレンジゲームを行ってみましょう


若者としてプレイする

まず、プレイヤーは、「チャレンジをする」か「チャレンジをしない」かを選ぶことができます

どちらかを選ばなければならないのならば、自分が最も得をする選択肢を選びたいでしょう

利得表を見返します

「チャレンジをする」場合
Aであれば+1800
Bであれば+500
が手に入ります

対して、「チャレンジをしない」場合
Cであれば+1050
が手に入りますが、
Dであれば-1000
となってしまいます

この選択肢で最高なのはA、最悪なのはDであるはずです

なるほど

では、Aのパターンになるために、チャレンジをしてみましょう!


でも、ほんとにAのパターンになるでしょうか?


別の言い方をしましょう

Aのパターンになるためには年寄がチャレンジをしなければいけません

年寄りは果たして本当にチャレンジをしてくれるでしょうか?



答えは、Noです


なぜならば、年寄りプレイヤーの立場で見たときに、若者がチャレンジをすることが確定したならば、年寄りはチャレンジをしないのが最適な選択肢となるからです


若者が「チャレンジする」と宣言した後に年寄りがなにを選択するかを考えてみる

若者がチャレンジすることを宣言した瞬間、年寄りの選択肢からはCとDが消えます

年寄りはAとBのどちらかの選択肢を取る必要があります

さて、年寄りの立場で見た利得を考えてみましょう

年寄りにとってのAの選択肢は+200ですが、Bの選択肢は+500です

では、あなたが年寄りならばどちらを選ぶでしょうか?

明らかにBでしょう

ゲーム理論においては、自分が最も儲かる選択肢を取るのが原則だからです

さて、この選択肢を取られたら、若者としてはたまったものではありません
Aであれば、+1800だったところが、+500まで下がってしまうので、下がりすぎにもほどがあります

しかし、ゲーム理論の非情なところはここにあります
ゲーム理論では感情などは無視します
年寄りの立場で見れば、Bが最適なのですから、Bが絶対に選ばれます

自分の取った選択肢で相手がどれだけ損しようとかまいません
かわいそうなどという概念などないのです

ていうわけなので、ここで重要なことをいったん整理しましょう

以下のことが必然的に決まることがわかりました


若者が「チャレンジをする」と決めた瞬間に、年寄りは「チャレンジをしない」というのが自動的に決まる


若者の立場に戻ってみましょう

えーーーって感じですよね


マジかよ、、、、なんかむかつくって感じですね、、、

じゃあ次に、上記を踏まえて若者が「くそ!むかつくから!チャレンジなんてしてやらねえぜ!」って選択肢を取ってみたとします


若者が「チャレンジしない」を宣言した場合に何が起こるかを見てみる

では、若者がチャレンジしない!と宣言した場合を考えてみましょう

その場合、年寄りは、CかDの選択肢を選ぶことになります

もうおわかりだと思いますが、この場合に年寄りが選ぶ選択肢は、Dとなります

一番悲惨な選択肢のDが選択されました

ひええええええ


つまりこういうことです

若者が「チャレンジをしない」と決めたら、年寄りは「チャレンジをしない」というのが自動的に決まる


若者は「チャレンジする」か「チャレンジしない」か、どちらを選択するべきか

さて、若者の立場で、もう一度、チャレンジをするか、しないかを再考してみましょう

上記の結果を整理すると以下の選択肢が自動で決まります
「若者がチャレンジをする」⇒B:利得+500
「若者がチャレンジをしない」⇒D:利得-1000

つまり、「若者はチャレンジをする」ことの方が利得が大きいので、若者は「チャレンジをすること」が必然的に決まります

そして、若者は「チャレンジをする」ことが決まるので、年寄りは「チャレンジをしない」ことが決まりました

つまり、このゲームにおいては、Bのパターンになることが必然的に決まるのです

なんということでしょう


年寄りプレイヤーから考えても結果は同じ

これは年寄りの立場から考えても、同じことが言えます

例えば、年寄りが「チャレンジをする」と宣言してみたとしましょう
若者としてはAかCの選択肢であれば、Aを選択します
年寄りが「チャレンジをする」と宣言すれば、Aが必然的に決まります
逆に、年寄りが「チャレンジをしない」と宣言してみましょう
すると、若者はBかDの選択肢であれば、Bを選択します
つまり、年寄りが「チャレンジをしない」と宣言すれば、Bが必然的に決まります
Aの利得+200とBの利得+500を考えれば、Bの方が年寄りにとっては都合がいいので、年寄りは「チャレンジをしない」というのが最適解となります
当然若者は「チャレンジをする」ことになります

なんということでしょう(2度目)


若者がチャレンジをして、年寄りがチャレンジをしないのは必然の結果なのである

さて、いかがでしたでしょうか?

ゲーム理論で以上のような前提を考えた場合、若者がチャレンジをして、年寄りがチャレンジをしないというのは必然的な結果となるのがわかったでしょうか

これが、若者よ!チャレンジをせえ!と言われるメッセージの正体なのです

本来チャレンジに年齢もくそもないはずですが、年寄りのチャレンジが声高に推進されないのはこのような背景があるのでしょう

ひっでぇ社会ですな


社会全体で考えた場合の最高の選択肢は間違いなくAの「全員でチャレンジをする」

さて、最後にきれいごとを述べて終わりましょう

ゲーム理論はあくまで個々人のプレイヤーの最適解を求めに行ったものでした
そのような場合に、Bパターンとなるのは必然です
しかし、社会全体の最適解を考えた場合、どの選択肢が最もいけているかというと、間違いなくAであることがわかるでしょう

比べてみれば、全体の利得が

A: +2000
B: +1000
C: +1000
D: -1000

であることからも明らかです

つまり、人間は年齢に関係なく全員チャレンジせよ!というのが最も正しいメッセージであることがわかります

全員チャレンジ♪ チャレンジ♪


おわりに

いかがでしたでしょうか

若手がチャレンジさせられて、年寄りがチャレンジしない理由はゲーム理論で説明がつくのです

そして、若者だけチャレンジせよというヘンテコな主張にモヤモヤを感じていた人の霧も晴れたのではないでしょうか?

結局若者よチャレンジせよという主張は若者のためのメッセージではなく、自分たちのためのメッセージであることがお分かりいただけたと思います

と言っても、このゲームにおいて若者には自由に選べる選択肢はないのですが

ほんと、ひっでぇ社会ですわな~


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