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持続可能なパーム油なんてない?『グリーン・ライ エコの嘘』

「旅」がしたいですね。私も同じ気持ちです。
今日3月28日公開、2009年、映画『プラスチック・プラネット』を監督し、オーストリアでリリース後、世界80か国以上で上映され、プラスチック・フリーのライフスタイルを促進した監督自身が専門家と2人で世界一周しながら「エコの嘘」の実態を調べていくドキュメンタリー最新作。個人的な鑑賞後感を入れた記事形式で紹介します。

「環境に優しい」「サステナブル」といった言葉が氾濫する2020年の日本で公開されるに相応しい作品が、オーストリアからやってきた。本作はそんな「環境に優しい」商品のヤバい現実を暴く作品で「その商品がいかに環境に優しいか」をお勉強する作品ではない。そのため環境意識が高い人もそうでない人も、一度同じ目線に立って、問題の原点を探る旅に出ることが出来る。映画には沢山の疑い深い有識者が登場する(ただ一人、監督を除いて—)。一般消費者の視点を貫くブーテ監督と、野心溢れるジャーナリストのカトリン。優しい男と厳しい女の対比、対立も見どころだ。

日本版のタイトルとなっている「エコの嘘」とは、一体どういうことだろうか。作品を観た上で筆者の解は、比喩的に用いられる「企業のリップサービス」という言葉である。実名で企業名が登場する、誰もが知っている多国籍企業の活動と、世界の熱帯雨林火災、海岸汚染、大気汚染、プランテーション開発などの環境破壊の現場が決して「嘘」ではないことが証明する。そして、企業活動を真っ向から批判し、ブーテ監督を説くジャーナリストのカトリンの言葉は強い。
「その手の商品は森林を犠牲にしている」(スーパーにて)「あなたが食べてるチョコを作るために出た煙なのよ」(インドネシアにて)そして「持続可能なパーム油なんてない」と言い切る。これを明らかにするため、スーパーを出てインドネシアへ、ブラジル、ドイツ、米国へと訪ねていく。広告宣伝がどんな美辞麗句で語ろうとなぜか虚しく響くのは、商品の裏に潜む語られない実情を語るドキュメンタリーが受け皿となっているからだろう。

映画の中でもっとも印象的に扱われるのが、パーム油だ。スーパーでの買い出しでカートに放りこまれるカップスープ、ピザ、ドレッシング。有識者との対話の際にさりげなく登場するチョコレートで「持続可能なパーム油なんてない」と説くカトリンは、こうした食品からパーム油を口にする危険性を説くものの、あまりにも日常的な風景で、監督(に大多数が共感するだろう観客も)にはどうしても普段の買い物と森林破壊とが結びつかない。しかし、2人がパーム油生産量世界一のインドネシアで、パーム油農園を拡大するために不法に焼き尽くされた熱帯雨林の跡地を訪問し、絶句する場面で、いよいよ日常と世界との接点が見えてくる。観客はそこでパーム油の生産消費が環境・社会問題であることを知るだろう。

映画サイトの参考情報には、国際的環境保全団体WWFジャパンや環境NGOなど6団体の連合からなるプランテーション・ウォッチの情報で、パーム油が我々にいかに身近で、加工食品などから無意識に摂取していることが解るファクトが揃っている。また本作品にも登場するRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証、企業に向けた「持続可能な調達」の情報は、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)のパーム油調達ガイドが公開されている。

映画の宣伝文には「買うだけでオランウータン、海、そして熱帯雨林まで救える」という表現や「この映画を観たらスーパーで気軽に買い物できなくなるかもしれない」というコピーがある。「嘘」ではないと思うが、やや誇張されたものと感じる。
楽観的な筆者は歳の割に環境意識が高いことを自覚しつつ、原材料に「植物油脂」(パーム油と推定される)記載の入ったチョコボールを日常的に口にする。本作を観た日は反省しながら映画館を後にしたが、監督と同じく、そのチョコボールが荒れ果てた大地とすぐに結びつかない人も意識と行動は変えられる、という希望をもってこの原稿を書き上げた。嘘はついていないと主張する企業、騙されるもんかと主張する消費者の闘いは続く。企業と消費者の終わりなき闘いで、両者のパワーバランスも変化し続けている。

映画『グリーン・ライ エコの嘘』
配給:ユナイテッドピープル
製作国:オーストリア 製作年:2018年 上映時間:97分 
公式サイト:http://unitedpeople.jp/greenlie/
3月28日(土)シアターイメージフォーラムほか全国順次ロードショー

Anna/An Ko