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空気が読めない人へ送る、仲間外れにされない裏ワザ【普通に生きるコツ】


“不文律”を守らないとどうなるか~留学生A君の災難~

 まずは小噺から。筆者の学生時代の友人だった留学生A君の話です。
 A君はあるとき近所のスーパーで綺麗な花束が売っているのを見つけました。A君には付き合って1年になる日本人の彼女、B子がいました。A君は花束を買い、B子にプレゼントしました。すると何ということでしょう、これまでずっと仲の良かったB子が突如豹変し烈火の如く怒り狂いフラれてしまったそうです。なぜB子は急に怒ったのか、何故フラれてしまったのかA君には原因がまったく分かりません。僕が両人の共通の友人のよしみで話を聞いて確認してみました。すると驚愕の事実が判明。A君がスーパーで買った花束はなんと、お墓参り用の仏花だったのです!


仏花(ぶっか:墓参りや仏壇に供えるための花)

 A君にしてみれば近所で綺麗な花束が売ってたから愛する彼女にプレゼントにちょうどいいと思っただけなのに、B子ひいては日本の常識では非常に失礼極まりない行為だったのです。A君の日本語力不足で仏花とプレゼント用の花束の区別ができなかったこと、そして日本の風習や文化への知識不足が予想外の災難を招いてしまいました。
 筆者は日本生まれの日本育ちでA君よりも多くの日本の風習や文化を体得していますが、彼の災難が他人事には思えません。というもの筆者自身空気を読むのが苦手なタイプで、彼のように集団の常識や暗黙の了解が分からず、それらから外れたことをそれと知らずやらかして何度も痛い目を見てきました。仏花をプレゼントするかのような失礼を目上の人相手にやらかしそうになったこともあります。たとえ同じ国の人同士でも、世の中や集団には必ず、守らなければいけない暗黙の了解という“不文律”があり、それを破ると強烈なペナルティが課されるのです。

最悪のペナルティは仲間外れ

 ペナルティの中で最も人生が狂うレベルで重たいのが仲間外れです。社会的な動物である人間にとって仲間外れにされてしまうことは致命的です。本来集団から得られたはずのリソースやサポートを受けられなくなるからです。これはなにも公式・制度化されたサポートだけでなく、非公式のサポートも含みます(大学生が先輩から過去のテストを教えてもらうなど、自分はこれに大失敗しました)。
 酷いときにはサポートが得られないどころか逆に危害を加えられる恐れもあります。家の敷地に大量のゴミを捨てられる。挨拶をしても“いない者”として無視される。水源のため池の水を勝手に抜かれる。家の中にヘビを入れられる。これらは実際にあったとされる村八分(むらはちぶ)の被害の例です。

 現代の都市部でここまで酷いものは珍しいケースかもしれませんが、仲間外れのペナルティ自体は決して山奥の因習村だけの出来事ではありません。学校で“クラスの和を乱す生徒”と認定されて爪弾きにされる、会社の飲み会に行かなかったせいで上司から目を付けられる、奇抜な服装で外出すると通りすがりの人たちから奇異の目で見られる。みんな根っこは同じ、不文律を守らない者に仲間外れというペナルティを課そうとしているのです。

“スパイ”になって不文律に適応せよ

 多くの人はこの不文律を半ば経験則的に自然に身に着けて上手く処世できていることと思います(そうでないと世の中が爪弾き者ばかりになって成り立ちませんし)。「職場の飲み会なんて行きたくない!」と内心思っていても(思っている人もいますよね?)、行かなかったときのデメリットを自覚して心のどこかで折り合いをつけ、渋々参加しているのだろうと思います。
 しかし残念ながら私のような空気を読むのが下手で不文律に適応できないタイプの人が世の中には一定数いるようです。不文律そのものが分からない(前述のA君のケースだと、日本文化への知識不足)。不文律を経験則から身に着けるための術が弱い(A君のケースだと日本語力不足)。不文律が分かっていても反発して従わない(例:職場の飲み会を時間と金の無駄に感じて参加しない)。あくまで個人的な体感ですが、主にこのような原因があるように思えます。
 不文律に適応できなければ、前述の仏花をプレゼントしてしまったケースようなやらかしを何度も繰り返し、最終的にはどこのコミュニティからも干されてまともな社会生活が送れなくなってしまいます。こういうタイプが仲間外れに合わず集団の中で上手くやっていくには一体どうしたらよいのでしょうか?
 その答えはズバリ、「スパイになったつもりで集団の文化を観察、模倣する」です。

 文化人類学では「参与観察」という研究方法があります。これは学者自身が研究対象の民族や部族等のコミュニティに一定期間一緒にすごしながら彼らの文化を観察するというものです。それと同じことを自分の所属する学校や会社などの集団にやればいいのです。

 「自分はさる機関の調査員で、この集団を潜入調査しに来たのだ。彼らは自分とは違う集団の人間だからやることなすこと皆不合理で理解不能なのは当たり前なのだ。そして彼らに馴染むため、自分も彼らと同じように振舞わなければならない。服装、儀礼や儀式、集団内のヒエラルキー、独特の用語、謎の慣習、求められる技能、全てを完璧に身に着け、模倣して、集団に溶け込むのだ。仲間外れに遭ったらミッション失敗」一昔前の缶コーヒーのCMさながらにこう自分に言い聞かせるのです。そうすれば集団の不文律を積極的に観察・模倣することに集中することができます。
 もし観察の結果新しい発見をしたら「この[集団名]の人々は、[発見したこと]をする」とハウツー化しましょう。例えば職場の飲み会についてだったら「この会社の人々は、職場の飲み会に参加する」という具合に。慣れたら更に踏み込んで「この会社には、職場の飲み会に参加するという儀式がある」「飲み会に参加することで集団の紐帯を確認する」など自分なりの発見や解釈を加えてもよいでしょう。

 ここで1つ注意点。不文律の合理的理由や成立の背景を調べようとしてはいけません。どうせ集団内の誰も知らないのでしょうから。伝統や風習というものは得てしてそういうものなのです。「何故日本では食事を残さず食べないと失礼なのですか?」もし外国の人からこう聞かれたら、どう答えますか?道徳論に拠らずに合理的で根拠ある回答ができる読者はおそらくいないのではないのかと思います。背景や合理性を知ることは理解の一助にはなりますが、それよりも不文律を多く発見すること、及び模倣して集団に馴染むことを最優先してください。

さいごに:不文律って、やっぱりおかしいです

 このスパイになりきるライフハックには2つ弱点があります。1つ目はこの方法を使っても完璧に集団に馴染むことはほぼ不可能ということです。なんせ他の人が息をするように無意識に自然にこなしていることを、いちいち意識して息を吸って吐いてるかのように気張ってやっているのですから、どこかに不自然さが残ってしまいます。誰もがジェームズ・ボンドのような何もかもスマートにそつなくこなせるエリートスパイになれるわけではないのです。ですがご安心を。多少変わりものと周りから思われても集団の一員として受け入れて貰えてるのでしたら及第点です。平凡なスパイとして今後もこのレベルを維持していきましょう。

 2つ目は観察と模倣に精神的リソースが消費されて疲れるのです。こればかりはどうしようもありません。こうでもしないと仲間外れにされてミッション失敗になるのですから。どうしてこんな難儀なことをしなくてはいけないのかとウンザリする日がいつか来ます。でもこれを頑張っているおかげで集団に仲間の一人と認められてなんとか会社や学校にしがみつくことができるのです。前述したように仲間外れにされるとあらゆるリソースやサポートの供給が絶たれてもっと難儀をすることになります。
 聞いた話によると文明から遠く離れた狩猟生活を送る部族の人でも、集団内に最低一人は伝統的な文化や儀式を馬鹿馬鹿しいと冷めた目で見ている人がいるそうです。やっぱり世の中や集団の不文律ってどこかおかしいものなんです。みんながみんな耐えがたきを耐え、忍び難きを忍んで、何とかコミュニティを回して生きている。案外世の中ってそういうものなのかもしれませんね。


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