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自転車レーンを守護する人々の連鎖(3): ポートランド、レンヌ、フィラデルフィア、ボストン、ロンドン

立ち並ぶ人々の列によって自動車から保護された自転車レーン。2017年は、こうしたhuman-protected/people-protected bike laneを形成する動きが世界のあちこちに広まった年でもありました。まだお読みでない方は、是非シリーズの(1)から順にご覧下さい。

3回シリーズの最終回となる今回は、前回に続き、様々な都市における人々の取り組みを開始時期順で概観します。筆者の能力上、英語での情報が少ないものについては背景を十分に調べられていませんので、その点ご留意下さい。

ポートランド

米オレゴン最大の街であるポートランド市のページによると、ウィラメット河に面した広い公園では夏季に色々な催しがあるそうで、市は徒歩や自転車で安全に移動できるルートを確保すべく、2015年からBetter Naitoというプロジェクトを実施してきたとのこと。2017年のシーズン中はNaito Parkwayの車道が樹脂ポールで区切られ、約1キロ、10ブロック余りにわたって、物理的に保護された自転車レーンが利用可能になっていました。その最終日が迫った9月28日、民間グループBike Loud PDXの呼びかけで100名を超える人々が集まり、この空間の恒久化を訴えました。

Bike Portlandのこちらの記事によれば、このアクションはサンフランシスコやダブリン、ニューヨークの取り組みに触発されたものだそう。

当日の様子や詳しい経緯などについてはこちらのBike Portlandの記事が参考になります。市の交通当局の発表では、午後のピーク時間帯に(帰宅のため?)Naito Parkwayを北上した人の3分の1が自転車を利用していました。

レンヌ

10月初旬、フランス西部の都市レンヌの街角にも自転車レーンを保護する人々が現れました。移動手段としての自転車の利用を推進するグループRayons d'Actionの呼びかけで約50名が集まり、物理的に分離された自転車空間を形成したそう。

日頃の足として自転車に乗っている人々が、笑いながら、あるいは歓声をあげて満足感を示しながら走り抜けていったとのこと。

次のツイートの画像で参加者が掲げているメッセージを読み取ると、「自転車利用者が危険にさらされている」「Plan Vélo(自転車インフラの整備計画)を尊重せよ」「渋滞、大気汚染・・・解決策? 自転車だよ!」「見せかけの自転車レーンよりましなものをレンヌに」といった言葉が並んでいます。

こちらの動画ツイートには、本物の自転車道(物理的に分離された自転車通行空間)を求める活動、との説明が添えられています。

Rayons d'ActionのGillesさんという方のインタビューもツイッターで見られますが、フランス語のリスニング能力が及ばず内容を記すことができません(どなたか教えて下さい・・・)。

他にも数件の関連ツイートを、リンクの形で並べておきます。インタビュー動画と同じ投稿者@Velotaf_rennesさんの別ツイート@polpac35さんのツイート@cyclehaulさんのツイート。総じて、求められているものは他の都市と同じですね。

フィラデルフィア

11月28日、フィラデルフィアでは約100名が列をなしてスプルース通りの自転車レーンを保護、物理的分離の必要性を訴えました。

このアクションは、自転車を利用していた24歳の女性が交差点でゴミ収集車に轢かれて亡くなったことを受けてのもの。

Philly.comのこちらの記事によると、被害者のEmilyさんは5月に引っ越して来てから自動車での移動をやめ、両親に買ってもらった折り畳みの小径自転車で、いつも自転車レーンを使って職場へ通っていたそうです。同じ日の夜には、自転車利用者や歩行者にとって安全な街路を求めるグループBicycle Coalition of Greater Philadelphia(BCGP)と都市計画の専門家のグループ5th Squareの呼びかけでEmilyさんの追悼集会が開かれました(次の写真とこの記事のヘッダー画像はいずれもBCGPが提供して下さいました)。

同市内では12月15日、やはり自転車レーンのあるパイン通りで自転車利用者が自動車にはねられて負傷、19日には現地で約100名がhuman-protected bike laneを形成しました

Philly.comに掲載されたこの記事には、活動が終了して人の列が消えるやいなや、自転車レーンに駐車するドライバーが現れたことが書かれています。同記事によれば、前月の死亡事故を受けて市長は市内の自転車レーン2路線への樹脂ポール設置をアナウンスしたそうです(総延長200マイルの自転車レーンのうち、既に何らかの物理的分離が施されているのは2.5マイルのみ)。12月1日にはEmilyさんのためのメモリアル・ライドも行われており、23日には事故現場にゴースト・バイクが設置されました

ボストン

12月1日、ボストンではコングレス・ストリート橋に自転車利用者らが集まり、同市で初めてというpeople-protected bike lane活動を展開しました。

Boston Globeの記事によると、このアクションの引き金になったのは、Bonnie Pajicさんが橋に描いた手製の自転車レーンを市が削除したことだそう。元々そこには正式な自転車レーンの境界線が引かれていたものの、かすれて見えなくなっていたとBonnieさんは話しています。消されてしまうまでの彼女のDIYレーンの様子も合わせて引用しておきます。

Bonnieさんが呼びかけのツイートに載せていた横断幕のメッセージは「通りはみんなのもの」。

街路が実際に「みんなのもの」であるためには、何がなされるべきでしょうか。前掲の記事によれば、今回の活動をオーガナイズしたJonathan Fertigさんは(コングレス・ストリート橋について)樹脂ポールやコンクリート製の隔壁といった構造物による分離を望んでいるとのこと。なおマサチューセッツ州の交通局はSeparated Bike Lane Planning & Design Guide(物理的分離タイプの自転車空間の計画と設計に関するガイド)を2015年に発行しています。

ロンドン

12月13日にはロンドン市内でもhuman-protected bike laneの取り組みがありました。路駐車で塞がれていることが多いというペントン通りの自転車レーンを人々が保護。アクティブな移動手段を推進するグループActive Travel Nowが中心となり、15名ほどが集まったとIslington Gazetteの記事が伝えています。

BBCの記事によると、オーガナイザーのSeanさんは「路面へのペイントだけでは防護にならない」と語っています。自転車利用者が多いにもかかわらず安全なルートが存在しないエリアの好例として今回ペントン通りが選ばれたそう。現地でBrian Jonesさんが撮影したYouTube動画もあります。

動画で喋っているのはSeanさん本人です(ツイッターで問い合わせたところ教えて下さいました)。彼が語るメッセージの一部を次に訳しておきます。

物理的に分離された自転車レーンが重要なのは、その存在が、自転車で通勤している自分のような層だけが自転車利用者ではない、ということを意味するからです。今の道路環境で自転車に乗る自信があまりない人、子供連れの人、お年寄り、年齢も能力も異なる老若男女、あらゆる人が対象となっているのがポイントなのです。
(中略)
物理的に分離された自転車レーンを3倍に増やし、自転車や徒歩で安全に移動できる空間を作る、との約束を市長に再び明言してもらいたい。それこそが私たちの求めているものです。

スポーツ寄りの走り方に慣れた人が、もっと幅広い層の自転車利用者のためにアクションを起こす。こういうところに胸を打たれます。物理的に分離された自転車レーン(自転車道)を含むロンドンの自転車環境については、自分が8月に訪問した際の記録をTogetterに残してありますので参考にして下さい。

まとめ

3回に分けて、2017年に発生したhuman/people-protected bike lane運動の世界的な連鎖を追ってきました。最初はあっさりした一覧のようなものを作成するつもりだったのですが、各地の取り組みの背景や亡くなった方のことなどを知るにつれ、現実の重みの一端を感じられる内容にしたいという気持ちが強くなり、やや長くなりました。

いずれの都市においても、ペイントだけの自転車レーンは路駐車で塞がれがちで、子供やお年寄りでも安心して安全に利用できる自転車通行空間としては機能してくれません。そこへ登場した「人の鎖」によるレーンの守護は、物理的分離を体験する機会を自転車で通った人に提供しつつ、正式な整備の推進を市の当局や市長に訴えていくための場にもなっていました。

日本の都市はどうでしょうか? 道路はどうなっていますか? 行政は、報道記者は、自転車関係のライターさんやブロガーさんは、自転車関連グループは、オピニオンリーダー諸氏は、都市交通という条件においてどんな自転車利用者を前提に、どんな解決策を論じ、また実践しているでしょうか? この3回のシリーズを通じて、改めてそんなことを考えて頂けたら幸いです。


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