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英語教師であった夏目漱石は「I love you.」を"月がきれいですね"と訳したという。

さわやかな風が吹く夏の夜、散歩に出ていた漱石は一人の女性とすれ違った。その女性は近所で見ない顔だった。漱石はその女性に一目惚れした。
「こんばんは」
不意に声をかけられた漱石は動揺した。もしかして、目を奪われていたのがバレたのか。焦った素振りも悟られないように振る舞いたい。同じくこんばんはと返せばいいのだろうがと一瞬のうちに考える。なにより話すときにどこを見ればいいのだろうか。目のやり場がなく上を見上げた。夜空には月が浮かんでいた。
「月がきれいですね」
「そうですね。ふふ。」
またあの愛しい女性と会えるといいな、と思っていた漱石。授業中、「I love you.」という文を説明するとき、こんなことを思い出しつい、"月がきれいですね"と訳したのかもしれない。

僕の母方の祖母には夏目漱石の英語の授業を受けた友人がいたらしい。なので祖母からは漱石にまつわる多くの話を小さい頃から聞かされてきた。この話もされた記憶がある。嘘か誠かは知りようもないのだが。

まさに漱石が散歩していたであろう気候の夜、ベランダに出て夜空を眺めグラスを揺らす。
「乾杯!」
白ワインに星が煌めいていた。

*このコラムはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
(画像はみんなのフォトギャラリーよりお借りしました。素敵な画像ですね☺️)

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