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夢と思い出

キンコーンカンコーン

昼休みを告げるチャイムが鳴った。
急いで靴を履いて駆け出す。瞬足を持った他クラスの子に負けたくない。先にサッカーゴールを取るんだ!
無事にゴールを取り、後からくるクラスメイトを待つ。一人、一人とやってくる。ざっと10人集まると、グーとパーで分かれてボールを蹴り出した。僕はスキルがないけど、周りを見るのが得意なのでよくパスが回ってくる。みんなとボールに触れるのがとにかく楽しく、とにかく走り回ったものだ。

大学生になった僕はサイクリングがてら、久々に地元に帰ろうとしていた。
実家に帰るには東小の前を通る必要がある。僕の母校だ。3階の外壁には懐かしい時計がくっつけてある。感傷に浸っていると、あのころの体育教師に会った。ドッジボールで窓を割りゲンコツをくらった記憶が思い出され萎縮していると、「寄ってくか?」と聞かれた。その言葉は優しかったが、疲れた目をしていたのが気になった。お世話になった先生に大学進学の挨拶をしていないことを思い出し、甘えることにした。

校庭に向かうと工事用具で埋め尽くされていた。もちろんサッカーゴールなんてなかった。聞くと去年度をもって南小と合併したらしい。体育教師は後片付けで訪れていたらしい。
「俺もここで育ったんだ。思い出は片付けられないね。まあ、去年で定年だからいくらかかってもいいけどね。終活だ」

夢溢れるあの頃の思い出の象徴がひとつひとつと姿を消す。

*このコラムはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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