創作小説『鳥の骨格標本に左右される猫は、猫を超越しうるか?』④

鳩の羽を使った報復

翌朝さっそくドローンの試運転に取り掛かる。ドローンの映像が直接見えるゴーグルをつけ、ベランダでホバリングさせ、恐る恐る上昇させていった。空が目玉を持ったとでもいうべきか。ベランダの自分がだんだん遠く小さくなり、さらに上昇させるとアパートすらが街のたった一点になって、やがて消えた。

ゴーグルはマイ千里眼。リモコンを握る手に、汗と共に何ともいえない万能感。僕は猫を超えたのかもしれない。灰色の街を眺めていると、超猫になれた気がした。

空の散歩をしばらく堪能したあと高度を徐々に下げ、ドローンを一旦ベランダに戻して空中停止させて上から眺めてみた。四つのプロペラの高速回転によって、マシンの中心部が円形に切り取られているように見える。なんとも空虚な中心だ。このドローンをザビエルと名付けよう。

さて次は、これをどう使うか計画を練らねば。ザビエルをアパート正面に浮遊させ、ズームを駆使する。外にいるエゾリスのおばさんは小さな体でゴミ捨て場を掃除しながら、ルールを守らず回収されなかった他の住人のゴミを睨みつけている。301号室では眼鏡を掛けたタンチョウがネットの戦争ゲームに熱狂中だ。402号室のミカドキジは、鏡に向かってリズミカルなダンスを見せつけていた。

403号室を覗く。パンダ夫人と仔パンダは床でゴロゴロしながらひたすら笹を食っている。仔パンダは笹を食ってはイスからテーブルへ登り、二段階落下を堪能していた。

その鈍い衝撃が真上から聞こえ、僕の堪忍袋に空気が確実に注入されていく。パンダ親子に出て行ってもらうために有効な手段は何だろうか。できれば犯罪行為じゃないほうがいい。もし仮に問い詰められたとしても、ささっと言い訳できる程度のもので、パンダ親子が出て行ってくれる事象。

思考を巡らせながらザビエルのカメラで周囲を見渡していると、近くの公園のベンチで嘴で毛繕いしている鳩のサラリーマンを見つけた。すまし顔で昼間からサボりやがって。

突然閃き、鳩のリーマンをザビエルで追いかけまわす。鳩は瞬発力と機動性には優れているがドローンを撃退できるほどの力はない。空中で鳩を無限に追えることに喜びを感じた。しつこく追っていると、鳩は文句を言いながら公園から飛び去っていった。

ザビエルの腕(アーム)でその鳩から落ちた羽を1枚拾い上げる。ザビエルをアパートに戻して、鳩の羽をパンダ夫人の部屋のベランダの端にそっと落とした。

あくる日も、ザビエルで目についた他の鳩を追い回して、拾った羽をパンダ家のベランダへ落とした。その次の日も、翌々日も。

そして十日が経過し、パンダ夫人のベランダの隅に十数枚の鳩の羽が溜まった。それをザビエルのカメラで動画に収め、部屋の中でだらしなく寝転んでいるパンダ親子の様子も映す。

ザビエルを部屋に帰還させ、パソコンで動画を見ながら微笑んだ。

最近、この地域では鳩の失踪事件が二羽連続で起きている。この動画をネットで流せばパンダ夫人は疑われ、周囲からの悪評でこのアパートから引っ越しせざるを得なくなるだろう。

ミサイルのボタンを押すような背徳感を自嘲しつつ、動画アップロードをクリックした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?