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ただひたすらに描いていたい。

新年あけましておめでとうございます!
そしてご無沙汰しておりました、こたです。
本年もどうぞよろしくお願い致します。

 卒業制作を無事に完成させることが出来ました!制作の様子を見てくださった皆さま、ありがとうございました。温かいお声かけも凄く励みになりました。
 制作を終えた達成感のまま、大好物のホタテを食べてきました。ホタテのために生きていると言っても過言ではありません。いつもの何倍も美味しく感じました。
 提出も無事に完了し、ほっとひと安心です。あれだけ卒制卒制言っていて提出が間に合わず留年!みたいなことになったら笑い話にもならないですからね...。
 大学4年間は本当にあっという間でしたが、良い友達と先生に出会うことが出来、そして好きな制作をすることが出来て本当に楽しかったです。多摩美に入って良かったです。

 卒業制作を描き終え、時間が出来たのでnoteを書いています。
 僕の卒業制作は説明して見てもらうような作品ではないので、ただ純粋に絵を見て楽しんで頂けたら嬉しいな〜と思っているのですが、制作の中で考えていたことや完成した絵の紹介をここに書いてみます。もし良かったら読んで頂けたら嬉しいです。

卒業制作のはじまり

 卒業制作を始めるにあたってテーマを決める以前に僕がまず思ったことは「卒業後でも出来そうなことは絶対にやりたくない」ということでした。
 これから先の人生で沢山の時間を使って一つのことに集中出来る機会ってあるのかな、あったとしてもその時に今と同じ熱量で制作に取り組めるのかな、と考えました。
 卒業制作はせっかく自由な時間と自由な課題が与えられているので、自分の人生において心に深く刻まれるような体験をしたい、存分に熱量を注ぎ込める仕事をしたい、そして自分の代表作と言える作品を作りたい、と思いました。
 その答えが、シンプルにペンだけを使ってただひたすらに「空想都市」を紙に描いていく、ということでした。
 僕の作品を普段から見てくださっている方はご存知かと思いますが、僕は幼い頃から空想都市を描き続けています。読んで字のごとく「実際には存在しない架空の都市」のことです。昔から続けているこの趣味を卒業制作にしたいなと思いました。

 卒業制作は大学4年間の集大成という意味で重要な制作というのはもちろんですが、単純に沢山の時間をかけられる制作というのが僕の中では一番のポイントでした。
 これなら過去最大の空想都市を描ける。このチャンスは逃せないなと思いました。学業と並行して3年生から4年生にかけて制作していた「ユメノシティ」という絵本も空想都市がテーマであり、ペン画で制作しました。このこともあり「あ、やっぱりペン画っていいな。空想都市を描くのって楽しいな。」という気持ちが高まり、卒業制作のテーマが「空想都市」で決定しました。

 テーマが決まったので、じゃあどんな都市を描こうか考えました。とにかく今までで一番でっかい都市にする、これは確定しています。
 ユメノシティでは未来都市や宇宙都市、海中都市や植物都市など色々な都市を描きました。そこから選んでもいいな。街がだんだん生き物か何かに変化していく絵はどうかな。ちょっと小難しく何かメッセージ性のある都市の絵を描いてみようかな。あれこれ考えました。
 その結果「何も考えずに描こう」という気持ちになりました。今までの大学の課題や絵本の仕事は何かしらテーマが必ず設けられていて、ある程度はその枠組みの中で制作を行ってきました。でも卒業制作は全くしばりがないので、よくよく考えたら自分でしばりを設ける必要もないなと。完全フリースタイルで描こう。コンセプトもなし、完成図や完成サイズも全く決めずに描こう。良い作品を完成させる、というよりも「絵を描く」という行為そのものを楽しむことにしました。

 卒業制作は「イラストレーション」という授業を選択することにしました。僕はグラフィックデザイン学科というところに在籍していて、ポスターや写真、パッケージデザインやwebデザイン、アニメーションや映像など様々な制作をしている人がいます。その中のひとつにイラストレーションがあります。
 僕がやろうとしていることはイラストレーションというよりはどちらかと言うと絵画に近いです。イラストレーションは何かの目的や意味があったり、何かを説明するための絵というニュアンスなので、内容が重要になってきます。
 なので、いくらテーマが自由の卒業制作だとしても、ただの自己満足で何のコンセプトもなく「今までで一番大きな絵が描きたいです!」と言ってイラストレーションとして取り組むのは果たして大丈夫なのだろうか...と思いました。
 少しドキドキしながら、先生にやりたいことを話しました。先生は即答で「うん!こた君の好きなことやりな!」と言ってくださりました。
 僕は「本当に何のコンセプトもなくて、ただでかい都市の絵を描きたいというテーマなのですが大丈夫ですか?」と聞き返すと、「こた君はそう思うかもしれないけど、自分は単純に見ていて楽しいし、ただの絵って言ったけれど建物や乗り物の形をひとつひとつデザインして描いているじゃん。それは大学4年間で培った技術の成果だと思うよ。あと、幼い頃から今まで続けてきたことで過去最大の作品をつくるっていうのも面白いと思うし、凄く良いテーマなんじゃないかな。」と言ってくださりました。
 卒業制作をイラストレーションで選択して本当に良かったなと思いました。

制作開始 〜 KOTA CITYの紹介 〜

 制作がスタートしたのは昨年の6月です。実際にはユメノシティの制作が9月まで続いたため、本格的にスタートしたのは9月半ばでした。
 まず紙とペンを買いに世界堂(画材屋さん)へ行きました。ペンと紙はユメノシティの制作で使用していたものと同じものを使用しました。昔から愛用しているステッドラーさんのピグメントライナー。細かい都市を描いていくのにピッタリな描き心地で、線の精度を上げることが出来ます。卒業制作では全部で54本のピグメントライナーを使用しました。戦友です。
 紙は世界堂で見本を見せてもらい、実際に質感を確認して選びました。画用紙だと滲みすぎて、ケント紙だとツルツルすぎて弾いてしまうのでその中間の紙を購入しました。ペンも紙も、何度も買いに来る手間を省くために一気に購入。レシートを見てビックリ、画材はやはり高級品です。アナログで描くのは楽しいけれど、お金がかからない点で言うとデジタルもやはり良いなと思いました。

9月までは絵本「ユメノシティ」の制作をしていました。
大学4年生はペン画の一年でした。
世界堂で紙とペンを購入。


 画材が揃ったのでいざ紙にペンを。何も完成図を決めずに空想都市を描くのは中学生以来8年ぶりくらいなのでワクワクが止まりません。
 まずは100番線まである巨大ターミナル駅「KOTA STATION (コタ ステーション)」を作ります。空想都市なのでいくらでもホームを増やし放題なのだ。
 幼い頃から空想都市を描き続けていますが、僕の描く都市には必ず鉄道が走っていて、駅が存在します。それは僕が鉄道好きで、空想都市のルーツである「空想路線図」を作っていた延長線だから、というのもありますが、僕の中で「街は駅を中心に発展していく」という印象があるからです。まずは中心に駅を作って、そこから各方面へ鉄道を伸ばし、それに沿って街をどんどん描いていきます。
 KOTA STATIONはホームを沢山作ることに夢中になりすぎて乗り換えのことを一切考えずに描いたので、迷子になってしまうかもです...(笑)

記念すべき1枚目。
卒業制作は繋げた状態で描けるスペースが自宅にないので、
1枚76.5cm × 54.5cmの紙に分割して描いています。
1枚目は6月に描き始めましたが、ユメノシティの原画制作を優先していたため一度中断し、9月半ばから再開しました。
中心にあるのが「KOTA STATION」です。
よく見ると、駅の中心から天に向かって「宇宙エレベーター」が伸びています。ふらっと宇宙旅行へ行けちゃいます。


 街の名前は「KOTA CITY (コタシティ)」です(そのままやん)。ユメノシティにABCity、ひらがな都市にフォン都市にsea town、都市ばっかり作っていますね...。
 完全フリースタイルで描いていくので描く施設など全く決めていませんでしたが、「未来都市」というのは決めていました。近未来ではなく、何百年も先の超未来都市を描きたいなと。空想都市を描くときはだいたい未来都市を描いています。せっかく空想なので、現在の都市をもとに描くのは少し物足りないなと。建物や乗り物の形など、こんなのがあったらワクワクするな〜と考えながら描いていきます。
 巨大なタワーやビル、象徴的な駅や高速道路ジャンクションなどは下書きをある程度した上で描いていますが、細かい建物や乗り物は下書きをせずに描いています。なので、どんな形が生まれるのか描き終わるまで分からないのでゾクゾクします。ちょっとミスをしてしまったり線が歪んでいる場所がありますが、それもアナログならではの味かな〜と思っています(ゆるしてね)。

 実験的なことをいくつかしました。ひとつは曲線を多く取り入れたことです。
 僕の今までの空想都市は、建物の形は角ばったものばかり、街の形態もビルが綺麗に平行で並んだ状態のものが多かったです。小学生の頃から大学3年生の頃までは基本そうでした。
 卒業制作に取り掛かる前、ユメノシティに登場する「ミライシティ」の制作をしている時に実験的に建物に曲線を沢山取り入れ、街の形態を平行ではなく無秩序にしてみました。すると以前の並行で描いていた時と比べ、描いている線の量は同じなのに不思議と高密度に見えることが分かりました。そして何より「未来的」で見ていて楽しいなと。このミライシティの制作をきっかけに卒業制作でも曲線を沢山取り入れて描くことを意識しました。

大学2年生のポスター課題で描いた空想都市。
建物が角ばっていて、平行に続く街並み。
一方、卒業制作はというと。
建物が曲線で描かれ、無秩序な街並みが多い。
ミライシティ

 建物だけでなく乗り物も沢山描きました。まず列車は何本描いたか分からないくらい描きました。300本くらいあるんじゃないでしょうか...もっとかな。(余談ですが、列車の数え方は「台」じゃなく「本」だそうです。恥ずかしながら最近まで知りませんでした...。)
 未来なので架線はありません。なので列車にもパンタグラフがありません。線路は複線(上下1本ずつ)か複々線(上下2本ずつ)がほとんどです。大都会にしたいので。
 モノレールも沢山描きました。モノレールって生活にだいぶ身近な乗り物ですが、よく見ると凄く未来的なデザインをしていますよね。

 高速道路も沢山描きました。ジャンクション大好き人間なので、ジャンクションだらけです。立体交差っていいですよね〜。インターチェンジやジャンクション手前にある看板にも注目して頂けたら嬉しいです。ちゃんと付近の駅名や地名とリンクしています。少しマニアックな話をすると「〇〇△△IC」みたいなのが好きです。〇〇市と△△市の間にあって、両方の地名を合体させた名前のインターです。だいたい語呂がいいので声に出して読みたくなります。
 高速道路に走っている小さな米粒みたいなのは自動車です。これは我ながら発明なのでは?と思いました。手抜きって言ってしまえばそれで終わりなのですが、遠目で見るとしっかり無数の自動車に見えます。ちなみに絵の中には空飛ぶ車も何台か描かれています(じゃあ道路がある意味って...)。空飛ぶ車は圧倒的に台数が少ないので未来でもまだ高級品みたいです。
 列車や車以外にも様々な乗り物を描きました。特に空飛ぶ乗り物はこだわっていて、UFOをはじめ都市を担いだ飛行船や生き物のような乗り物を描きました。ひとつひとつの乗り物をデザインするのが楽しかったです。ヘンテコな乗り物が沢山なのでじっくり見てほしいです。

モノレールや新幹線、そして上空には謎の飛行乗り物が。
ヘンテコな乗り物が沢山飛んでいます。
UFOの空港「UFO港」もあります。
右上にあるのは「UFO港第1ターミナル駅」です。


 街は途中、未来都市から古い和風都市へと姿を変えました。えぇ、そんなのアリ!?空想なのでアリよりのアリです。KOTA CITYの左側のエリアは古い街並みが続いています。これは別に意図があるという訳ではなく、単純に「和風都市描きて〜」という気持ちになったからです。完成図を決めてないからこそ出来たことだなと思います。
 少し前に曲線を増やすことを意識した、と言いましたがもう一つ実験的なこととして定規の使用頻度を減らしました。未来都市エリアはだいぶ定規を使って描いたのですが、和風都市エリアはほぼフリーハンドで描きました。未来都市と変化をつけたかったのと、フリーハンドの方が温かみが出るのでは?と思ったからです。

 僕の空想都市を見てこんな事を言ってくださる方が沢山います。
 「都市なのになんか可愛い!」
 これは自分では気づかなかったことで、新しい視点だなと思いました。都市の絵の他に生き物や人物の絵も普段描いていて、その時は可愛らしさを意識して描いています。しかし都市を描くときは可愛さを意識して描いたことはありませんでした。確かに言われてみれば可愛く見えてくる...。これは自分の魅力なのかなと思い、嬉しくなりました。
 そんなこともあり、フリーハンドで描くことによってより柔らかく温かみがあり、可愛い街が出来上がるのではと思い挑戦してみました。可愛くなったでしょうか?

 実験的に挑戦してみたことをアレコレ描きましたが、最後に昔から変わらないことをいくつか。
 まずは街に「城」が登場することです。過去の作品にもほとんど全てに城が描かれています。これも単純に城が大好きだからです。
 和風都市エリアにはシンボル的な存在「鼓太城(こたじょう)」があります。城の中は駅になっていたりと、かなり破茶滅茶な設定です。
 城が好きな理由は形の美しさです。海外の城も素敵だな〜と思うのですが、僕はやっぱり日本古来のドッシリとした佇まいの城が好きです。鼓太城は今まで描いてきた城の中で最も大きな城になりました。
 城と同じくらい五重塔も好きで、街のあちこちに描かれていますが、五重どころじゃない塔もちらほら。これも同じ理由で形の美しさからです。描いているうちに久しぶりに京都へ行きたいな...と思いました。

 もうひとつ昔から変わっていないこと、それは遊びごころです。なんだかんだでこれが一番大事だと思うし、僕の魅力のひとつかなと思っています。
 例えば、街をよく見ると建物の中に色々なモチーフが隠れています。だるまやこけし、まねきねこ。おむすびなんかもあります。
 街の至る所にある看板にも注目してほしいです。結構ふざけています。普段は割と真面目な作品ばかり作っていますが、実はちょっとバカっぽいものが好きです。地名や駅名、お店や商品の名前などぜひ見てみてください。

 僕はお笑いが好きなのですが、空想都市もお笑いと一緒で緊張と緩和があると盛り上がる気がします。カッチリとした街が続いていく中にちょっとした遊びごころを隠すようにしています。絵を見てくれた人が、ふふっと笑えるような要素を隠すのが昔から大好きです。

街の左側は和風都市、右側が未来都市になっています。
左上にあるのが「鼓太城」です。
街に隠されたモチーフたち。かわいいでしょ!
緩川古墳(ゆるかわこふん)
鄙田温泉(ひなびたおんせん)
繁華街もあります。
お店の名前考えるの楽しかったです。

最後に

 長々〜と書いてしまいましたが、はじめにも書いたとおり、僕の卒業制作は説明して見てもらうような作品ではないので、純粋に絵を見て楽しんで頂けたら嬉しいです。

 卒業制作を通して伝えたいメッセージは特にないのですが、強いて言うならひとつだけ。"人の手"によって生み出される芸術の"狂気的な部分"を感じて欲しい、という気持ちがあります。

 僕自身としては"0から1を生み出す"という創作の根本的な楽しさを存分に味わうことが出来ました。幼い頃からずっと空想の都市を描き続けていますが、この行為をやめられない理由はこれに尽きます。

 この卒業制作は完全に僕の自己満足であり、何かの目的を想定したり誰かの役に立てるような作品ではありません。
 時間の無駄と言ってしまえばそれでおしまいなのですが、無駄なことに時間や熱量を使えるのが一番幸せなことなんじゃないかな、と思います。

 3月には卒業制作展があるので、もしお時間ありましたら見に来て頂けると嬉しいです。

 「ただひたすらに描いていたい。」
大学生活最後にそう思えるような制作が出来て良かったです。今後も制作を頑張って参ります。
引き続きこたをどうぞよろしくお願い致します。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

中学1年生、13歳のときの僕です。
今も空想都市の絵描いてるよ、そのまま描き続けてね。


P.S.
インドネシア語で「kota」は「街」という意味だそうです。たまたまだけど、何か縁があるのかなって思ってしまう。

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