KOTARO ANZAI

ADX CEO, Wood Creator 1977年福島県二本松市にて、祖父の代か…

KOTARO ANZAI

ADX CEO, Wood Creator 1977年福島県二本松市にて、祖父の代から続く安斎建設工業の3代目として生まれる。 自然と共生するサスティナブルな建築を目指し、2006年にADXを創業。登山がライフワーク。 https://adx.jp/ #森と生きる

最近の記事

自然と音

都心に住むと、さまざまな音が耳に入る。 クルマが走る音、工事現場の音、赤ちゃんの泣き声など、 自然の中の風の音や鳥の声とは異なる多様な音が存在する。 建築の分野では残響音の計画や設計を行うが、都市の音にはノイズがかかる。 やはり、自然の音は心地よい。 ある日、泣く息子を連れて近くのカフェに行ったとき、都心には音を吸収する場所が少ないと感じた。 吸音できる土や樹木がもっと多ければ、都市の居心地はもっと良くなる。 周囲の音について考えると、自然とのつながりが見え

    • 「虫のことはなんでも聞いてください」

      最近、山で出会ったおじいちゃんと話していたら、 うつむきながら小さな声で、「虫のことはなんでも聞いてください」と話し始めた。 少し間をおいて、「蝶が好きで、気付いたら50年間も追っかけていました」と続いて、 「特に好きなのがチョウセンシジミ蝶で、今、彼らが生息できる場所をつくっています」と。 森林保安の仕事を定年まで続け、今は、蝶が生息するトネリコの植樹をしているそうだ。 岩手、山形、秋田に生息するチョウセンシジミ蝶は年々減っており、絶滅危惧種らしい。 蝶が生息しやすい川辺

      • 理想の森

        この仕事をしていると、「一番好きな森はどこ?」と聞かれるが、実は困ってしまう。 釜石の森も奄美大島の森も、安達太良山の森も大好きだが、それぞれ個性があるからだ。 釜石には60年間も継続的に手入れをされた立派なスギの森があるし、 奄美にはモコモコと力強い生命力を放つシイノキの森、 安達太良山には天然ヒノキの北限と言われる森がある。 森ごとに異なる景色がある。 森に入った時の雰囲気でいえば、ブナやコナラ、クヌギ、ケヤキなどの広葉樹をメインに、スギやヒノキといった針葉樹がバラン

        • ジャン・プルーヴェの言葉

          学生のころ、野山に出かけては建物のデザインを描きまくった。 目の前のなめらかな葉っぱの形や、風の流れをうまくかわす鳥の巣をモチーフにする。 今も、デザインのインスピレーションのほとんどは自然の中にある。 社会に出ると、構造力学やコストを考えなければならなくなった。 自然の美しさを建物として実現させることができるようになった。 ADXには、さまざまな専門分野を持つメンバーがいる。 デザイナーや構造や機能、コストを担うメンバーがホワイトボードを前に議論を重ねる。 異なる専門性

          都市に必要なものは?

          都市は、人がつくったものでできている。 建築や道路、車など、目に見えるもののほとんどは誰かがつくり出したものだ。 これからも、人はさらに豊かな生活を求めて、様々なものをつくり続けるだろう。 ところが都市には、深く深呼吸するのに適した場所や、太陽を見て時刻を予測することなど、人が本当に必要とする要素、つまり、自然との関わりが抜け落ちているように思う。 機能としては、空気清浄機やiPhone、時計といったツールで置き換えることが可能だが、深呼吸は、酸素を肺に取り入れるだけでは

          都市に必要なものは?

          時々、原寸大のモックアップをつくる意味

          建築の世界では、実際に建物を施工する前に、「パース」と呼ばれるCGや、机の上に乗るくらいのサイズの模型をつくるプロセスがある。 建築の図面が読めない一般の人に、建ったときのイメージを共有することが主な目的だ。 社内でも、このパースや模型を用いて、「コンセプトを表現できているか?」「周りの自然環境と馴染むか?」など、デザイン面を検証する。 改めて立体で見ることで、平面では気が付かなかった細かな修正項目を発見できることも多く、パースや模型での検証はとても大切だ。 パースや模型

          時々、原寸大のモックアップをつくる意味

          ひみつ道具

          ドラえもんはいつも、のび太が困っていることを解決したり、やりたいことを実現したりするための、最適な道具を出してくれる。 子供のころ、「ひみつ道具の中で1番欲しいものは?」と聞かれて、迷わず、「4次元ポケット!」と答えたことがある(反則だろうけれど)。 不可能を可能にする道具が出てくるあのポケットが欲しいと、本気で思っていたのだ。 今でも仕事をしていると、ドラえもんの4次元ポケットを思い出す。 目の前の課題を解決し、不可能を可能にするために、どの道具を使おうかと考える。 そ

          森が教えてくれること

          数年前から始めた森の調査は、私にとって特別な時間です。 歩きながら、木の形や高さを見たり、木の種類を調べたりしています。 「LiDAR」という最新のセンシング技術を使って、時々、土や水のことも調べています。 森を好きになったのは、地図もなしに森を歩き、キノコや山菜を竹籠に集めていた祖父のおかげです。 祖父は、必要なものを自分でつくることが多く、家具やおもちゃ、時には薬も、森で見つけた材料でつくっていました。 自然のことをとてもよく知っていて、私にもそれを教えてくれました。

          森が教えてくれること

          泳げないので4800メートルのモンブランに登る

          2024年は、大きなチャレンジが待っている。 仕事でもプライベートでもチャレンジはあるが、今回はプライベートの挑戦について。 プライベートの1つ目は、500メートル泳げるようになること。 「おい、それが挑戦かよ」と思われるかもしれないが、金槌の僕にとっては無謀ともいえるほど壮大な挑戦だ。 どのくらい泳げないかというと、正月早々、手始めに近所のプールに行ってみた。 25メートルプールで泳いでみた結果、身体はまったく前に進まず、ただバタバタして沈むだけだった。 昔から負けず嫌

          泳げないので4800メートルのモンブランに登る

          ずっと続く連載小説

          季節が移ろうのと同じように、僕の興味も変わっていく。 読む本も、森の本や山の本、虫の本に始まり、最近では、ビジネスやゲノム解析、歴史やエネルギー、ロボット工学、宗教まで幅広い。 毎年、新しいジャンルが追加されている。 もちろん、本だけではない。 ここ最近は衛星に興味があって、日々、JAXAを含めていろんな人に会いに行っては、衛星の歴史や機能、つくり方など、まるで子供のように質問し続けている。 建築の仕事をきっかけに木材に興味を持ち、そこから森に興味を持ち、次に森の歴史に

          ずっと続く連載小説

          石や土を建築に使うきっかけ

          石や土、木といった身近な素材に着目したのは、最初は、コストを下げるためだった。 建築は予算との戦いだ。 昔は、クライアントの要望や自分たちが挑戦したいことを図面に落としこみ、いざ見積もりを取ってみると、予算が大幅にオーバーしてしまうことも多かった。 今は予算管理の仕組みがあるので、予算のズレを誤差程度に抑えられるようになったが、当時はその調整に非常にエネルギーを費やしていた(その分、鍛えられた)。 2017年、福島にある磐梯山のふもとに完成した別荘、「one year p

          石や土を建築に使うきっかけ

          クマムシ先生

          新しいことを学ぶことは、僕にとって至福の時間だ。 それは幼少のころから変わってなく、むしろ年々、学びたい欲が増している。 知らなかった世界を知る感覚は、山に登る時、図鑑片手に山野草を探す感覚に少し似ている。 もし遭難したらこの野草を食べようと、目の前の新しい情報を元に想像を膨らませて歩く。 毎日が、学ぶ世界が、僕をワクワクさせてくれる。 最近のお気に入りはクマムシだ。 先日はクマムシの研究者に会いに行き、いろいろ教えてもらった。 こいつはやばい。 超高温や超低温、人の

          クマムシ先生

          2030年までに週休3日を実現する

          ADXの社内にはカタログが少なく、部材表や材料表、木材産地マップが多くある。 自分たちでメニューを考え、部材の生産者を訪ね、めちゃくちゃイケてる建築をつくる。 そんな、シェフのような建築集団を、ADXは目指している。 そう言うと、こだわり強めのヒゲ親父が弟子を引き連れて黙々とつくる。 古風でブラックな、昔ながらの建築事務所のイメージが湧いてくるが、そうではない。 ADXは、2030年までに週休3日を実現すると宣言しているし、 僕らのスタイルはもう少しユニークだ(頑固親父も好

          2030年までに週休3日を実現する

          本棚ジャズセッション

          夫婦そろって本好きなこともあり、「欲しい本は我慢せずに買ってよい」という暗黙の了解がある。 その結果、家には大量の本があり、さらに毎月数冊ずつ増えていく(当然だが)。 数年前に買った大きな本棚はすでにいっぱいで、本棚に入りきらない本たちが、リビングや階段、食品置き場、洗面所の棚、家のあちらこちらに増殖している。 年末の気配が漂い出した先週末、思い切って本の整理をしてみることにした。 世の中のお決まりのパターン同様に、2、3冊目で手が止まり、本を読み出してしまった。 久しぶ

          本棚ジャズセッション

          100年続く働き方

          設計や施工の仕事は、クライアントからの依頼がほとんどだ。 クライアントから要望を受けて、デザインを考えたり、建物を建てたりを代行する。 建物のデザインや図面は、建物ごとに、その都度オーダーメイドで用意する。 カフェやレストラン、オフィスやホテルなど、用途によって要望や制約は大きく異なる。 施工では常に新しい課題に直面するため、施工方法や工程は現場ごとに見直し、調整する必要がある。 プロジェクトがひとつ終わるたびにホッとする一方で、こうした仕事の進め方やクライアントだよ

          100年続く働き方

          講演会は「伝える」のトレーニング

          最近、講演会に招かれて、ADXや森での活動について話す機会がある。 数百人に向けて話すこともあるし、建築業界や林業関係の方々に向けて。 ときには、一般の方々や、子供たちに向けて話すこともあった。 誰が聞き手であろうと、僕が伝えたいことは基本的には変わらない。 だけど、同じ業界のプロに向けて話すほうが圧倒的に話やすい。 建築や森を取り巻く環境や課題をある程度把握しているし、専門用語もそのまま通じる。 反対に、一般の方々や子供に話そうとすると、誰にでも分かる言葉に変換して

          講演会は「伝える」のトレーニング