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平凡な私がホストになった話③~初回・シャンパンコール~

私は大学4年の夏の間だけ、歌舞伎町のホストクラブで働いていた。この経験から多くのことを学んだので、忘れないうちに文字として残そうと思う。5回くらいに分けようかな。今回はその3回目、初回とシャンパンコールのことを書こうと思う。


初回

ここで言う「初回」とは、初めてお店に来たお客様のことを指す。初回のお客様には、ホスト全員がひとりずつ数分間席に着き、最終的に誰かを指名してもらう。

初めての初回・初めての指名

一週間の研修を終えた私は、めでたく初回のお客様に着くことが許可された。

初回に着く直前、先輩にアドバイスを求めると、
「とにかくがっつけ、何かあっても責任は俺がとる」
と言われた。そんなこと言われても難しすぎる。一旦アドバイスは無視して、とにかくテンション高くいることと、相手を褒めることを意識した。
テンションは普段の20倍が私の目安だ。

緊張で何を話したかよく覚えていないが、なぜか指名がもらえた。嬉しかったが、このとき指名がもらえた理由は分からない。再現性は0だ。

初回の強さ

なぜか私は初回に強かった。第一印象を良く思ってもらえるのか、顔がホストの世界でウケがいいのかは分からないが、初回の指名率は店で一番だった。

色々と試行錯誤はしたが、大事なのは他のホストとの差別化だと思う。私の店舗はお酒に強いホストが少なかったため、とにかく飲むようにした。私は初回の席ではグラス一杯の鏡月をストレートでよく一気飲みしていた。

先輩に一度
「○○(私の源氏名)は会話をするときに自然体だから良い。だから指名がもらえる」
と言われたことがある。この言葉は嬉しかったが、テンションを20倍にしてようやく自然体なんて、普段どれだけ棒読みの無愛想人間なんだ。

二度目は無い

初回の指名は比較的もらえるが、もう一度お店に来てくれるお客様は少なかった。
今思うと、この原因は明確である。お店以外でもお客様に時間を使わないといけなかったのだ。

当時、私は大学やプログラマーとしての仕事もしていたので、ホストだけに時間を充てられなかった。二足の草鞋どころか、三足も草鞋を履いていたのだ。ただでさえ体力が無い方なのに、三足も草鞋を履くなんて無謀過ぎた。

そんな訳で、初回の指名はもらえるが売り上げは少なかった。これは完全な逆ギレだが、お店以外でも沢山時間を使ってようやく需要ができるホストっていう職業なんなんだ。

シャンパンコール

シャンパンは2万~数百万とピンキリである。私にとってはピンから超ピンだが、このシャンパンが入ると、店内の大量のホスト達がシャンパンが入ったテーブルを囲い、マイクや振り、合いの手を使って大盛上げを演出する。これをシャンパンコールといい、縮めてシャンコという。

初めてのシャンパンコール

営業中にいきなり「DJブース。DJブース」というマイクが店内に響き渡った。これは、ホスト全員がDJブース前に集合することを意味する。
DJブースは店内の真ん中に設置されており、私はお客様に挨拶をしてから席を立ち、DJブースの方に向けて歩き出した。その瞬間、先輩から「走れよ!!」と怒鳴られた。どうやら走る場面だったらしい。先に教えてくれ。

DJブース前に着くと、そこには大量のホストが集合しており、ベテランホスト達がどのシャンパンコールをするのか確認しあっていた。
一人のホストがマイクを持ち、DJブースに立っているホストに合図を送ったあと。「DJよろしく!!」と叫んだ。それに呼応するように、他のホスト全員が「よろしく!!」と叫んだ。この「よろしく」は、まさしく「夜露死苦」の言い方だった。

音楽が流れだし、それに合わせてホスト全員でシャンパンが注文されたテーブルに向かって駆け足で向かい、マイクパフォーマンスが始まった。
私は右も左も分からず、あたふたしていたら、お客様の目に入らないようにと4人ほどの先輩が私を囲ってくれた。その中にはさっき「走れよ!!」と怒鳴ってきた先輩もいて、そのギャップに軽率に好きになってしまいそうだった。

シャンパンコールは音が大きすぎて、内容はほぼ聞こえなかった。

シャンパンコール習得

シャンパンコールの練習は、営業終わりに毎日行われた。
ホスト達のLINEグループでシャンパンコールの歌詞が共有され、それを見ながら練習する。

初めて歌詞を見たときは、あまりの歌詞の品の無さに絶句した。慣れるまではシャンパンコールをするのが恥ずかしすぎて、営業中に「DJブース。DJブース」というマイクを聞くのが苦痛だったほどだ。

しかし、一週間もシャンパンコールをやり続ければ、恥ずかしさは消えた。営業中はお酒も入っているので、むしろ楽しかった。下品かどうかなんてどうでもいい。

王子として見るシャンパンコール

あるとき、私のお客様(姫)がシャンパンを入れてくれた。
姫がシャンパンを入れると、指名されているホストはシャンパンコールに参加せず、姫の隣で一緒にシャンパンコールを見る。

初めて王子として見るシャンパンコールの感想は「苦楽を共にしている仲間が全力で自分たちに向けてシャンパンコールをしているのは、なんて良い光景なんだ」だった。本当に楽しかった。

想像してみてほしい、部活のメンバーや会社の同期達が、自分一人に向けて超至近距離で完成度の高い宴会芸を披露しているという場面を。最高の景色だと思う。

さいごに

ある程度ホストという仕事にも慣れてきて、ちょっとずつできることも増えてきた。売上が伸びないことに少し悩みはしたが、「楽しい会話ができるようになりたい」という目標には少しずつ近づいていけてる気がして嬉しかった。

次はマッチングアプリとナンパでの客引きの話を書こうかな。

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