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<ネタにできる古典(7)>琵琶湖の氷

  今夜は最後の勅撰集『新続古今和歌集』春歌上から、琵琶湖の氷のイメージを探ります。

志賀の浦やよせて帰らぬ波の間に氷うちとけ春は来にけり

ここが志賀の浦だ
真冬には岸に打ち寄せて沖には帰らない
そんな波がいつしか
凍りついたその身を溶かしている
春が来たのだ

新続古今和歌集 2 後小松院

 琵琶湖の春。波の解氷を歌うこの一首は「あしたづの立てる河辺を吹く風によせて返らぬ波かとぞ見る」(古今和歌集・雑上・919・紀貫之)の言葉を借りています。
 鶴の白を波の白さに見立てた古今集歌。
 氷の白を古今集歌の白を想起させる言葉で飾った新続古今集歌。
 新続古今集歌で想起される古今集歌の白とは、波打ち際に凛と立つ鶴の白さであったでしょう。

 一方「志賀の浦」と氷と言えば、次の新古今集歌が思い起こされます。

志賀の浦や遠ざかりゆく浪間よりこほりて出づる有明の月

新古今和歌集・冬歌・639・藤原家隆

 ここでは新続古今集歌はこの新古今集歌と関係があると見ておきたいと思います。あるいは新古今集歌の本歌だった「小夜ふくるままに汀や凍るらん遠ざかりゆく志賀の浦波」(後拾遺集・冬・419・快覚)との関係かもしれません。いずれにしろ新続古今集歌で凍りついた湖面は見渡す限りの広大さを獲得するでしょう。

 遥か遠くまで凍りついた水面が春の到来ともにじわりじわりと溶けて行く。新続古今集の歌はそんな大きな景色を詠んだものであったのではないでしょうか。


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