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011「最果ての季節」特に乱れてもいない半券の束を整理し直した。

 わたしは、路地裏のあまり流行らない映画館で半券売りのアルバイトをしていた。薄暗い明りのもとで、うつむき加減に文庫本を読み、気が向けばデッサンをしたり、次の絵の構想を下描きしたり、自由なところが気に入っていた。
 上映中にはほとんどやることのないこの仕事は、時給が安いものの、ただ座っていてくれればいいよ、と人づきあいの苦手なわたしに大学の教授があてがってくれたものだった。

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学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。 まさかのデータを紛失してしまい、Kindle用に一言一句打ち直している……

❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏…

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