日本アート普及プロジェクトPicaresqueを主宰する松岡詩美(まつおかうたみ)。東京芸大卒業ながら、なんだか日本のアート市場おかしくないか？というか日本にアート市場はあるのか？なんてことに気がついてしまった、AKBが好きなNY生まれ鹿児島育ちの帰国子女、インタビュー（2014.12.22 22:00~12.23 8:00）当時26歳。どうしたら作り手と鑑賞者の幸福な関係が生まれるのか？アーティストを支えるには、まず鑑賞者を育てることから！と考え中目黒を拠点に七転八倒中！！！

そんな松岡詩美と私（伊達文）が出会ったのは2013年5月。以来常連客としてお茶飲みながらアートを共に味わったり、イベントをしたり、Picaresqueのカタログ的小冊子Zineを一緒に作ったり。そしてなにより、この圧倒的情熱と知力と体力の塊を、もっと知りたい、伝えたい。誰にも頼まれてないけど、10時間インタビュー、やりました。この回より、文字上には表れていませんが、ちょっとずつ松岡詩美の滑舌が鈍っていきます。

就職するやつ負け組っていう芸大の裏スローガン

伊達　ここまで過去や現在の好きなことなどを聞いてきたので、このあとは人生全部に関して聞いていきます。これまでの20数年の人生で、これを乗り越えた、と思うことは何ですか？
松岡　大学卒業ですか？
伊達　え！できなさそうだったの？
松岡　卒論のテーマ「アートでビジネスをする」というのがそもそも受け入れられなかったですね。いろいろあって、最後は何のために芸大きたの？電通にでも行けば、ご自由に。というような感じでした。講評で、論文の内容に関する言及、あったかな？(笑)

伊達　芸大ってそういう感じなんだ！
松岡　そうです。 私は面識ないですが、実際、電通に就職が決まったある学生は就職を報告してからずっと教授から無視し続けられたとかという話を聞きましたし、就職するやつ負け組っていう裏スローガンを聞いたこともあって。就職ではないですが、アートでビジネスをどうすればいいかの論文を書いて卒業してから、芸大とは何もないですよね。

伊達　こないだ芸大の就職率の低さのことも書いてたもんね…
松岡　そうですね…
伊達　どうしてそこ乗り越えれたの？

松岡　私は間違ってないはず、と思ったのと、論文を書くということが初めてだったので、芸大の外に何人かいる、その人たちの価値判断に信頼をおいている人たちに見てもらったら、間違ってないと思う、って、何人かがおっしゃってくださって。この人たちが間違ってないって思って、私も間違ってないって思うんだったら、たぶん間違ってないだろうと思って。最後あたりは、こんなに敵対心をもたれるんだって思ったんですけど、展示会場でアート業界でプロとしてお仕事されている方から、すごく面白いと思う、すごく大変だと思うけれど、すごく面白いと思うから、またいつか会えるといいねって言われて、すごく感動しました。 そのあと、その方から一回、アシスタントにならないかという話もあったんですけど、たぶんアシスタントだとダメだろうなと思って。

伊達　なぜ？
松岡　その方はやりたいものがすごくある方だから、ほんとに100％全時間をその方の プロジェクトに投じる人じゃないとだめだと思うので。でもすごく尊敬してるので、最後の最後に、頑張ってよかったと思いました。
伊達　土俵が違っても、また対等に出会えたらいいね。

（芸大合格のためにしたことは）精神統一です

伊達　では、過去目標にしていたことで、もうかなったことがあれば教えてください。
松岡　芸大合格です。それに関しては、ちゃんと考えてましたね。
伊達　おお、これも芸大。芸大合格に対して、どういう頑張り方をしたの？
松岡　（小声になってほほえみながら）なんか、精神統一。
伊達　（笑）

松岡　精神統一って変な言葉ですよね。受験科目が、センター試験と、一次が小論で、二次がポートフォリオと面接だったんです。ポートフォリオと面接は大丈夫だと思ったんですよ。しゃべればいいので。いける、と思って。小論も、読んでそれに対する考えを述べよというものだったので、あせらなければいける。センター試験も問題ない。あとは体調を崩さないかってとこで。体調がときどきぽきってなる瞬間があるんです。さっきまで平気だったのに頭が痛くて立てなくなるとか。

伊達　それで精神統一？
松岡　そうですね。ご飯をおなかいっぱい食べて、早寝早起きして（笑）
伊達　それは精神統一というか普通に健康管理じゃないの？（笑）
松岡　でもなにか統一してました。心の乱れは体の乱れなので。でもやっぱり思春期って心乱れやすいじゃないですか。乱れないように、学校に行くときもバスから自転車に変えて、すごい崖みたいな山道を登って行ってましたね。

自転車は水泳よりも手軽に自分の世界に浸りつつもいろいろ見れる

伊達　お、4時間が経過してますよ。
松岡　いや～いいですねえ、まだ半分も経過してないという現実！
伊達　あはははは！
松岡　いいっすねえ～オフレコ話はまだまだ続きますよ現実に！

伊達　ではうたちゃんの人生についてさらに聞いていきたいと思います。人生で継続していることはありますか？
松岡　サイクリングですね。サイクリングというか、自転車。どこに行っても、自転車は必ず買います、乗ります。

伊達　好きなんだよね？
松岡　好きです好きです！
伊達　どういうところが好きなの？
松岡　水泳みたいな感じで、水泳よりも手軽に自分の世界に浸りつつもいろいろ見れる、ほどよい運動になる。一時期足が悪くて自転車に乗れなかったときはだいぶへこみました。

後悔したからといって日々の生活のサイクルを変える余裕もない

伊達　今までで後悔していることってありますか？
松岡　いっぱいありますね…話し出したらきりがない…
伊達　残り6時間が…
松岡　全部消えますよ！消える自信がある！

伊達　では一番大きな後悔を。
松岡　ほんとですか？一番ライトなのにしようかと思ったのに（笑）
伊達　あははははは！ではライトなのは？
松岡　一番ライトなのは…とりかえしのつかないことですよね？一番ライトな後悔は…最近で言うと…ギャラリーに複数のお客さんがいらっしゃって、久しぶりに会えて嬉しい方がいらっしゃって、私会えて嬉しくて声が大きくなったんですよね。でもあの声量だと他の人は話しにくかったと思うんですよ。もっと普通に話せばよかったっていう後悔…

伊達　なるほどね～では、ヘビーな方を。
松岡　ヘビーな後悔か…意外と後悔してないんですかねえ、してるふりだけして。
伊達　後悔したあとはどうするの？
松岡　いやなんもしないです。後悔したからといって日々の生活のサイクルを変える余裕もないので。

ずっと頑張ってるので、あえて一番頑張った瞬間っていうのはない

伊達　人生で一番頑張ったことは？
松岡　…変な言い方ですけど、ずっと頑張ってるので、あえてこの瞬間っていうのはないです。変な感じだと思いますけど、そうなんだと思います。
伊達　常に頑張ってるからあえて頑張ってるとき言えない人って珍しいと思うよ。
松岡　そうかな…いやあ、ユウコオオシマ（元AKB48の大島優子）とかもそうだと思いますよ。

一番時間をつぎ込んできたものは、睡眠です

伊達　人は生きてきて、何に時間をかけたかで人生が決まると思うんだけど、これに一番時間つぎ込んできたというのは何ですか？
松岡　…睡眠ですか？
伊達　（笑）

松岡　あってますよね？
伊達　あってますよ！でもこの質問にその答えをするっていうのが（笑）
松岡　でも寝るの好きなんですよ。最上ですよね。寝るときにすべてが解放されるというか。いろんなことがあって、もうわかんないってなって、寝て、起きたら、全部整ってるんです。すっきり、なるほどね、わかったよーって。私寝てる時間に整理してると思うんですよね。時間があって特に興味のあるイベントがなかったら、ずっと寝てますね。

伊達　時間を何に使ったかと、誰といたかも人生を決めると思うので、どんな人と何をしてきたというか、自分が、こんな人と一緒にいることが多いみたいな、周りにいる人の傾向ってある？
松岡　Picaresqueを始める前は、リーダーのそばにいました。リーダーの人って、顔じゃないですか。その人を裏方でサポートする、みたいな方が好きだったので。

伊達　人生全体で見ると、トップよりもその下が多かったってこと？
松岡　ずっとそれでした。ときにはいろいろな事情により自分が主催兼企画になるときもあったんですけど、そういうときもやっぱり、「私が一応言いだしっぺだけど、みんな対等に頑張ろうね…！」みたいな、ザ・ブラック、って感じでやっていました。「みんなが納得いくものを作るのが本当だよね」みたいな。ほんと、悪いやつですよ。

家族ということでくくってしまう方が危険なんじゃないかなと思っていて。責任の範囲がそこで限定されてしまって。

伊達　ここから将来のことを聞いていきます。うたちゃんは子供を産みたいと前から言っているけれども、どういう子育てをしたいですか？
松岡　私自身が子育てをするつもりはあまりなくて、誰かにしてもらいます。
伊達　なるほどね。それは、だんなさんにかぎらず、いろんな人？
松岡　そうですね。

伊達　そのときに、こんなふうに育ったらいいな、というのはある？
松岡　私の幻影を追い求めてほしいです（笑）
伊達　（笑）
松岡　いや～ひどい！ひどい親ですよ…

伊達　どんな家族を作りたいとかありますか？
松岡　家族を作るつもりはあまりないんですよね。家族ということでくくってしまう方が危険なんじゃないかなと思っていて。責任の範囲がそこで限定されてしまって。だからあんまり家族ってことは考えないです。

伊達　少し戻って、自分の幻影を追いかけてほしいのはなぜ？
松岡　Picaresqueのあとを継いでほしいので、母が命をかけて守ったPicaresqueとは何なんだみたいなところから、やってほしいですね…

そもそも社会に期待とかしてない

伊達　将来こんな暮らしがしたいというあこがれの暮らしはありますか？
松岡　仕事にだけ集中できる環境ですね。今はいろんな制約があって、これをやらなきゃいけないあれをやらなきゃいけないあれ我慢しないといけないっていうのがあるんですけど、純粋に作業できる時間と環境を確保したいんです。起きて、パソコンの前に座って、夜も寝る直前までパソコンの前にいるんですけど、その時間をもっと確保したい。線引きが難しいけど、これは別に自分でなくてもできるよっていう作業あるわけじゃないですか。そういうのが全部クリアになって、私にしかできないことだけをできる状態に早くしたいなって思います。

伊達　将来の社会保障とか不安になったりする？
松岡　ないです。そもそも社会に期待とかしてないので。
伊達　（保障に関して）具体的にどうやってやっていこうというのはあるの？
松岡　ないですね。何にもないです。だから逆に言うと、一回転んだら終わりなんです。

最終的に人は肉体以外の物質をメディアとして自由に意識がいろんなところに行けるようにならないといけない

伊達　どういうおばあちゃんになりたいですか？
松岡　そうですよね…
伊達　そうですよねって（笑）
松岡　長生きするわけですからね…
伊達　そもそも長生きしたいの？
松岡　私死にたくないんですよ。ほんっとに死にたくないんです。意味わかんなくないですか？なんで死なないといけないのみたいな。ちょっと待ってよ！！！みたいな。私中学生くらいのときにびっくりしましたもん。みんな死ぬんだっていうのに。
伊達　そんなに生きてたいんだね…

松岡　2214年に公開される映画とかって、絶対面白いの何本かあるのに見れないなんて、しんどいわって…
伊達　（笑）
松岡　私サグラダ・ファミリアが生きてる間に完成するってなってすごく安堵してるんですけど、あれも見れるか見れないかぎりぎりで、やだな～って思ってるんですよね。あれ見れないの、まじでえ？って。

伊達　でもうたちゃんは代わりにさあ、何百年か前の人が見れなかったAKBが見れるわけじゃない？
松岡　でも先が見たいんですよ。最終的に人は肉体以外の物質をメディアとして自由に意識がいろんなところに行けるようにならないといけないと思っていて、そこまで生きていたいんですよね。
伊達　超壮大なことを聞いたよ。

松岡　いや、私、人の寿命は延びると思っているし、人の自我というものは肉体以外のところでも移動できるようになると思っているし、移動できるようになったら、違うところに宿ることもできると思うんですよね。でも子どもの頃はたまにほんとに夜泣きながら映画館の地縛霊になりたいとも思ってました。せめて映画館でずっと映画見てたいと思って。毎年毎年なんだかんだ新人のアーティストだったりミュージシャンだったり映画もそうですし、出てくるので、それが見れなくなっちゃうっていうのは、やだなって思いますね。

伊達　貪欲だね…
松岡　いい意味で鹿児島を経て、ものすごく抑圧されてたので、そこで一回頭のねじがはずれたというか。

伊達　では長生きしたいことを確かめた上で、どんなおばあちゃんになりたい？
松岡　本当にそのときは、肉体から自我が移動可能になってるといいですよね。
伊達　松岡詩美の生きてる間に、そうなればいいなと。
松岡　私の体はベッドに横たわってるんですよ。でもそのとき私の自我は、ギリシャのカフェにあるハブのハードディスクで、アメリカにいる友人と待ち合わせてそこでデータの共有をしているといいと思います。ちょっと意味わかんないですよね、どうしよう。

伊達　ほんとに普段、びっくりすること考えてるんだなと思って。
松岡　でもそういうことをしたいです。ただそこで問題なのが、ハードディスクの触覚ですよね。あるじゃないですか、空気感とか、音の感知の仕方とか。伊達さんの目に写っているブラウンと私の目に写っているブラウンは違って、自我が自分の肉体から離れて、極めて客観的なカメラのレンズでデータが入ってきたときに、私の精神はどこまで揺るがないのか。自分がずっとブラウンだと思っていたものが自分の肉体から離れて違うメディアから見たときに全然違う色だったりとか。たとえば私はルソーの「夢」っていう絵が好きなんですけど、やっぱり私が見たときと客観的に見たときで色が違ってこんなつもりじゃなかったってなったら、怖いなと思います。さっき言ったみたいにギリシャでやりたいとは思うんですけど、そういう不安もあります。信じていたものが違ったときに、どこまで耐えられるか。

♪♪♪（眠くなってきた松岡詩美を起こすためにAKBを大音量にする）♪♪♪

伊達　ではAKBの子たちのように、松岡詩美のキャッチフレーズを考えましょう。
松岡　これインタビューですよね…？
伊達　ままま、完璧でなくてもいいから、キャッチフレーズを作ろうとするところに、その人が出るじゃない？
松岡　あってもなくてもよくなんかないよ～現代美術…あ、だめだ。すっごいの放り込んできましたね…
伊達　これで目ぱっちり。
松岡　え、そういうこと？でも私見る側だからな…いや、でも甘えずに考えますよ。でもこれで尺をとるのもなんだから、考えながら次の質問に入りましょう。

伊達　では２問目…秋元康から学んだことは何ですか？
松岡　面の皮の厚さですね。
伊達　あ、すばらしいですね。
松岡　秋元さんいろいろやってるじゃないですか。料理屋で「うんこや」って名前を付けてけっこうすぐ閉店してるんですよ。でも、ひょうひょうとしてるんですよ。その料理屋もきっといろんな反対を押し切ってやって失敗して、それ見たことかみたいなことたぶんいろんなところから言われてるんじゃないかと思うんですけど、また別の店を出したりしてるわけじゃないですか。そういうことか、と思いました。いろんな成功失敗をやっているからこそ、大きい成功もあるんだなって。


＞＞＞Vol.4へつづく
Vol.1　松岡詩美の過去と現在
Vol.2　なにがなんでも生産性を上げたい
松岡詩美＆鍵盤弾き久保奈津美の【トーキョーアートビジネスラボ】～アートでビジネスするということ女子会ノリトーク～

#インタビュー #アート #現代アート

＊information＊
Picaresqueは2015年3月より、中目黒駅付近にさらにアクセスしやすくなってリニューアルオープン。ギャラリー、コワーキングスペース、サロン、マイクロライブラリーの4機能を備えて、新たなスタートを切りました。
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