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3行小説まとめ⑩

第451回

いつの間にか、隣にいた。気がつけば、それがあたり前になっていた。
いつだって、ふたりなら楽しくて。どんなときも、一緒に笑っていた。
だからずっと、変わらないと信じていた。それなのに…。


第452回

カラリと晴れた夏空とはうらはらに、どんよりと鈍色の心。
大きな声で叫んだら、少しはスッキリするのかな。
「キミが好きだぁぁぁ」なんて、言えるわけないじゃないか。


第453回

「バカだなぁ」って目元をゆるめてやさしくささやく。
あぁ、愛されているんだなぁと思って苦しくなる。
その言葉も、その視線も、私には向けてくれないもの。


第454回

心に空いた穴は、誰と出逢っても、恋をしても埋められなかった。
ぽっかりと空いたまま、ただひとりの存在を待ち続けている。
無駄なことと、叶わないこととわかっていてもなお、心はあの人を求め続ける。


第455回

そんなのズルい。だって、逆らえるわけないじゃない。
あなたのお願いに私がすこぶる弱いって知ってるでしょ?
なのにそれを願うの? 私の気持ちを知らないふりで…。


第456回

心の中で何度も唱える。「好きになんてならない」
私の中の誰かがつぶやく。「もう手遅れだと思うけど」
わかってる。けど、認めたくない。実らない恋をしたなんて。


第457回

雨上がりの街は、汚れを洗い流したように清々しくて、
街路樹の葉に残った雨露が太陽の陽を受けてきらめく。
いっそ、この心のモヤモヤも一緒に洗い流してくれればいいのに。


第458回

キミが笑えば、梅雨空もほら、清々しい青空になる。
太陽もうれしそうに顔をのぞかせて、キミに笑いかける。
きっとキミの笑顔は世界を救う。だってボクは幸せになったもの。


第459回

めずらしく東京の空に星が瞬いて、それを見上げてキミが笑う。
「織姫と彦星、もう逢えたかな」そう言って僕を見て、また笑った。
あれは、いつかの七夕の夜。今は静かに降る雨の音だけが僕に寄り添う。


第460回

懐かしい人に会った。気づいて、ちょっと驚いて、少し笑って。
あぁ、変わらないな。やさしい瞳も、やわらかな声も、何もかも。
けれど、時間は巻き戻らない。もう、ふたりの道は交わらない。 


第461回

おねだりは苦手。願うことも望むこともしなかった。
だから、ほしいものをほしいと言える素直さを羨んだ。
望みを叶えて「ありがとう」と笑う無邪気さが疎ましかった。


第462回

「そのままのキミが好きだ」と、あなたは言った。うそつき。
「キミがいれば他には何もいらない」と、言って笑った。うそつき。
「ずっとそばにいるよ」と言ったのに。本当にうそつきだね、あなたは。


第463回

「下を向いても、後ろを振り返っても、何も見つからないよ」
とあなたは言った。立ち止まるな。顔を上げて前に進めと。
でも、ここから動けないのは…他でもない、あなたのせいなのに。


第464回

夜も更けて、しーんと静まり返った部屋の中、ポツリとつぶやく。
「サミシイ、な」誰にも届かない言葉は、スーッと暗い部屋に溶けて
すぐに跡形もなくなった。あの日、私に背を向けたあなたみたいに。


第465回

もしもこの声が届くなら、伝えたい言葉があるの。
そう言った彼女の瞳には、強い意志が灯っていた。
けれど、それを叶えてあげるほど優しくないのさ、と神様は嘯く。


第466回

扉を開けるとその先には、誰も知らない世界が広がっている…
な~んておとぎ話にワクワクするほど子どもじゃない。むしろ、怖い。
だから、私は今、開け放たれた扉の前で立ちすくんでいる。


第467回

ジメジメと、ただでさえうっとおしい季節なのに
ベタベタとくっつかないで。離れてよ、もぉ、ウザいなぁ。
そう言いながら、自分からは動かないキミ。素直じゃないねぇ。


第468回

いちばん好きな人がいちばん大切な人になるとは限らない。
どれほど想っても、追いかけても、寄り添ってくれない人。
傷ついた心を癒してくれるのは、いつも別の人だった。


第469回

音楽がふと途切れて、ふたりの間の空気が少し重くなる。
言葉を探して、何かを言いかけて、結局、黙り込んで。
「さよなら」を言いたいのは誰? 言いたくないのは、誰?


第470回

「空って、こんなに青かったっけ…」そんなことをふと思った。
「下ばっかり向いてるから気づかないんだよ」とキミの声が耳をかすめる。
どんなに心が痛くても、見上げれば青く澄み渡る空が、そこにあったんだ。


第471回

「いつか一緒に行こう」と約束した場所にひとり佇む。
「この景色、キミにも見せたいなぁ…」とつぶやけば、
風がフワリ、と僕の身体を包み込み、静かに離れていった。


第472回

華やかな歓声があがる。色とりどりの花が舞う。
あなたは輝くような笑顔を隣にいる人へ贈った。
完璧な幸せ。そのシーンの中に私は、いない。


第473回

「僕がいなくても、きっとキミは大丈夫だよ」とあなたは言った。
そしてあの日、突然消えてしまった。笑顔だけを残して。
うそつき。あなたを失くした私は、もう笑えなくなったよ。


第474回

閉じ込められた、と気づいたのはいつだっただろう。
あるとき目覚めたら、狭くはないけれど窮屈な空間にいた。
たぶん、出ることはかなわないだろう。 ここは、見えない檻の中。


第475回

髪の色を少し明るくした。新しいピアスを買った。
お気に入りのワンピースを着て、スキップを踏んだ。
けれど、楽しくない。あなたが隣にいないから。


第476回

気まぐれな風に吹かれて心が揺れる。ゆらゆらゆらと。
あなたの気持ちがつかめない。自分の気持がわからない。
好きとキライの間を、 振り子みたいに行ったり来たり。


第477回

どうしようもなく痛む心など、失くなってしまえばいいのに。
そうすれば苦しむこともない。悲しむこともない。あなたを想うこともない。
けれど、ぽっかり空いた隙間は、何で埋めればいいんだろう。


第478回

キミが笑えば、ボクもうれしくて、楽しくて、心がポカポカする。
キミが泣けば、ボクも悲しくて、しょんぼりして、心がズキズキする。
ボクには心なんてないはずなのに。どうしてかな…?


第479回

「どうか幸せに」と願う心に嘘はない…はずだ。
それでも、どうしても、モヤモヤとする胸の内。
だから「行かないで!」という代わりに、小さく鳴いた。


第480回

ぼんやりと窓の外を眺めていた。気持ちよく晴れた空には白い雲。
何ひとつ変わらない。 昨日と今日と。今日と明日と。
変わったのは、 もう私自身の肉体がここにはないということだけ。


第481回

「おかえりなさい」とあなたに言えば、ニコリと微笑む。
久しぶりのその笑顔に、私の頬も思わず緩んだ。
年に一度の再会。忘れずにいてくれてありがとう。


第482回

私が今いる場所は、あなたからはとてもとても遠いところ。
逢いたくても逢えない、この手も声も届かない距離にいる。
だからね、あなたが私を忘れてしまっても、それでいいんだよ。


第483回

今、目の前で笑っている人が、 明日もそうだとは限らない。
だって、別れは突然やってくる。大切なものを奪っていく。
失くしたくない。だから、言葉を惜しまず言うよ。「大好きだ」ってね。


第484回

いつもとは反対行きの電車に乗った。それはほんの気まぐれ。
見える景色も、車内の様子も、いつもと違う。それが少しうれしい。
行ったこともない駅で降りたら、さて、何をしようか。


第485回

雨が降ったら諦める。もしも晴れたら会いに行く。
そう決めたはずなのに、青く晴れ渡る空を見てため息をひとつ。
こんな時に図ったように外れる天気予報なんて、キライだー!!


第486回

たとえば、空が青いとか、ランチが美味しかったとか。
幸せってすごくささやかで、他愛もないことだったりする。
たとえば、キミが笑ったとか。手が届かなくなってから知るなんてね。


第487回

息が苦しくなって、懸命に空気を求めてあえいだ。けれど、
心に空いた穴からすべてが漏れ出し、この身体を出ていってしまう。
あなたの声も、ふたりの想い出も、あなたに恋した記憶さえも、何もかも。


第488回

いつものカフェのいつもの席。オーダーはいつものカフェオレ。
あぁ、今日もまた会えた、とこっそりとその横顔を盗み見る。
中学生じゃあるまいし。見つめるだけでときめくなんて…ね。


第489回

一緒におでかけ、とやたらとはしゃいでいたのも今は昔。
最近は無反応。 仕方がないなぁって顔でのんびりと付いてくる。
それでもね、一緒にいてくれるキミが大好きだよ!


第490回

流れ星に願いをかける。そんなの子どもだましだよってあなたは笑う。
夢なんて見ない。奇跡なんて信じない。現実主義を気取っていたくせに
「来世でまた逢おうね」と最期に言ったあなたに、私は笑えばいいのかな?


第491回

ふらりと立ち寄った公園。人影はない。まあ、深夜だからね。
ブランコをこいでみれば、キィキィと錆びた音だけが響いた。
閉鎖されたこの場所で、ゆらゆらと揺れるブランコに、人影はない。


第492回

何を聞いても素っ気ない返事。もちろん、視線も合わせない。
一方通行なのは会話だけじゃなくて、 心もそうなのかもしれない。
届かない言葉なら、サヨナラもいらないね、きっと。


第493回

全然、好みのタイプじゃなくて、カッコよくもなくて、
逢えばケンカばっかりだし、やさしい言葉なんてもらったこともない。
なのに…なんで好きになっちゃったんだろうなぁ。


第494回

お気に入りのラテを飲みながら、文庫本のページをめくる。
ゆったりと穏やかな午後の時間。隣には、キミの気配。
幸せだなぁと思って伸ばした指先は、キミには届かない。


第495回

よく晴れた週末。計画も立てずにクルマを走らせた。
自由に気ままに進んでいけば、たどり着いたのは小さな湖。
水面を覗き込んで気づく。あぁ、ここはいつか、私の魂が沈んだ場所だ。


第496回

何を言えばよかったんだろう。他の人を映すその瞳に。
どうすればよかったんだろう。私をいないように扱うあなたに。
彼女の嘆きは彼には届かず。ただ、部屋の中に消えていくだけ。


第497回

「あぁ、今日も疲れたなぁ」と、ついひとりごと。
一緒にこぼれ落ちそうになったため息は、かろうじて飲み込んだ。
いつかキミに、胸を張って会いに行けるまで、もう少し頑張るさ。


第498回

どんなに想っても届かない。ちゃんと言葉にしないとね。
いつまでたっても伝わらない。 意地っ張りをやめなきゃね。
にっこり笑ってごらんよ。それだけで世界はきっと変わるから。


第499回

それは、幼い頃の小さな約束。「ずっとずっと、一緒にいようね」
うれしいことも、楽しいことも、悲しいことも、何でも話したくれたね。
けれど、その笑顔ももう、明日からはボクのものではないんだね。 


第500回

ずっとずっと、あなたは特別な人だった。
逢えなくても、遠く離れても、いつも心の真ん中にいる人。
何年経っても、いくつになっても、一番好きな人だった。

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眠れない夜に

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