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3行小説まとめ⑪

第501回

夜も更けて街も眠りにつく頃、僕は夢の中で目覚める。
キミがいて、僕に微笑んでいて、「あぁ、幸せだ」と思う。
もう夢の中でしか逢えないキミと過ごす時間は短すぎるな。


第502回

まっすぐに歩こうとして、あちらにフラリ、こちらにフラリ。
どうにも定まらない足取りは、寄り道ばかりしてしまう。
目指す小さな光は、いつまで待っていてくれるだろうか。


第503回

余裕なんてなかった。いつだって必死で、どんな時も背伸びして。
けれど、そうとは悟られないようについてきた。あなたのあとを。
冷たく放たれた「サヨナラ」に、どこかホッとしてる自分がいる。


第504回

口の中にポイッと放り込んだミルクチョコがゆっくりととろけていくのを味わう。
広がっていく甘さの中、なぜかふと、あの人の眼差しを思い出した。
途端に苦さがこみ上げてきて、ザラリとした余韻だけが残った。


第505回

「雨が降ると憂鬱になる」と言った私に 「なぜ?」と首を傾げたあなた。
「雨の日はまるでスローモーションみたいに時間がゆったり流れる気がする」
とても静かな雨の午後。私は、長すぎる時間を持て余している。


第506回

あなたは言った。「永遠なんてない」と。 「心は移ろうものだ」と。
あれは言い訳だったのか、ごまかしだったのか。それとも本音だった?
今、見知らぬ人と永遠を誓うあなたに、心の中で問いかけた。


第507回

「帰ってくる?」と買い物に行く母にいつも問いかけた。
「あたり前でしょ」と呆れたように、困ったように母は笑う。
フラリと出ていったまま帰ってこない人を、母はきっと待っていた。


第508回

いいことも悪いことも、いつか全部、想い出になるから。
ツライことも悲しいことも、楽しいこともうれしいことも、みんなね。
ねえ、いつかってどのくらい先? 想い出になんて、できないよ。


第509回

ずっと目をつぶってきた。認めたくない現実がそこにあったから。
私にとっては特別な人。逢えなくなっても、遠くにいても。
けれど、あなたにとって私は取るに足らない存在でしかなかった。


第510回

ダメだと言われれば言われるほど、やめられなくなる。
自分でも悪いことだとわかってる。けれど、もう止まらない。
どんなに悔やんでも時は戻せない。 あぁ…板チョコって罪深い。


第511回

朝起きて「う~ん」と背伸びをすれば、「おはよう」と声がする。
「おはよう。いい天気だね」そう返せば、キミはニコニコと笑った。
っていう夢を見たんだけど、これ、いつか現実になるのかな。


第512回

ふと足を止めて振り返る。見えたのは、 去っていくあなたの背中。
そう、いつもそうだった。あなたは後ろを振り返らない。前に進むだけ。
立ち止まってしまった私は、進むことも戻ることもできずにいる。今もまだ…。


第513回

ぐったりと疲れて帰る道。ついこぼれてしまう大きなため息。
すると、見えないはずのため息がふわふわふわと舞い上がっていく。
それを目で追えば、夜空に浮かぶ小さな星が励ますように瞬いた。


第514回

どんなに叫んでも届かない。何もかもかき消す雨に邪魔されて。
いや、違う。心の中でどれほど叫んでも、誰にも聞こえるはずがないのだ。
声にならない叫びは青白い炎となって、ただこの身体を駆け巡るだけ。


第515回

私が消えた。身体中どこを探しても、私はいない。
ならば、今こうして私を探している私は誰なんだろう?
「キミはキミだよ」と誰かが言う。そしてまた、別の私が消えた。


第516回

空がゆっくりとグラデーションを描いていく。その色が好き。
そう言ったキミは、いつも遠くを見つめていたね。
すぐ隣にいる僕の悲しみに気づきもせずに。


第517回

もう何もないガランとした部屋をゆっくりと見回してみる。
あそこにテーブルがあって、いつもキミが笑っていて、幸せだった日々。
何もかも失くしてしまったけれど、想い出だけはこの心に今もある。


第518回

その鏡は、人の心を映すという。包み隠さず、真実の想いを。
「覗いてみる勇気はあるかい?」と聞かれてたじろいだ。
知りたい。けれど、知ってしまったら、きっともう戻れない。


第519回

お互いの手が触れそうで触れない距離で歩くふたり。
何だかじれったくて、でも、笑ってしまうくらい微笑ましくて。
だからほら、まあるい月もニコニコと、彼と彼女を見守っている。


第520回

何気なく視線を上げると、あなたがじっと見つめていた。
「なぁに?」と聞けば、「いや、別に。何でもないよ」と目をそらす。
あなたが言いたいこと、本当は知ってるよ。でも、言わせてなんてあげない。


第521回

あなたは「くだらない」と言って歯牙にもかけない。
でも、ちょっと目が泳いでる。ほら、やっぱり図星なんだ。
素直になればいいのに。ねぇ「好きだよ」って早く言って!


第522回

フロアの真ん中で踊るあなたを見ていた。壁に背を預けて。
今夜のお相手はどなた? その人に向ける微笑みをほんの少し私にちょうだい。
そうしたら私はおとなしくここにいるから。あなたの邪魔はしないから。


第523回

ひとつの季節が終わり、次の季節が巡ってくる。
そうして月日は過ぎていくけれど、あたり前のように流れていくけれど、
新しい日々を受け入れられない僕は、取り残されていくのかな。


第524回

「心の声に従えばいい」と誰かが言ってた。あれはいつのことだったか。
だから、そっと心に聞いてみる。「あなたはどうしたいの?」
答えは返ってこない。あぁそうか。心はとっくに壊れてしまっていたんだ。


第525回

その存在に気づいたのは、いつのことだったか。
ポチリと小さくて、どこかあいまいで、でも温かくて。
心の隅にずっといたもの…それが、恋だとようやく私は知った。


第526回

今日届いた真っ白な封筒を見つめ、苦笑いをこぼす。
出席に丸をつけて送り返したら、二人揃って驚くの? それとも嗤うの?
それなら私はとびきりの笑顔で「お幸せに」と言ってあげよう。


第527回

ことん、と湯呑を置く音がして、「お疲れさま」とキミが微笑む。
それがあたり前の日常で、僕は「ありがとう」すら言わなかった。
キミが淹れるお茶は美味しかったな、と今さら思い返している。


第528回

風が少し涼しくなった。太陽の陽が少しやさしくなった。
何となく人恋しくなって、 久しぶりにあなたの名前を呼んでみる。
早足で移ろっていく季節の中で、変わらないものがこの胸にある。


第529回

遠くに行きたい、とふと思い立ち、宛てもなくクルマを走らせた。
必要なものは小さなボストンバッグに収まった。何と身軽なことか。
踏み出してしまえば、サヨナラなんて驚くほどあっけない。


第530回

「お茶飲む?」と聞けば 「ん」とひとこと。ほんと、そっけない。
「もう秋だね」 「ん」 「どこか行きたいね」「ん」「ねぇ、聞いてる?」 「ん」
何を聞いても一文字しか返ってこない答えに、ちょっとため息…。


第531回

早く目覚めた朝、ひとり散歩に出かければ、すぐ近くで鳥の声。
少し湿った空気を吸い込み、朝露をきらめかせる緑の葉に目をやれば、
あぁ、もう新しい暮らしになったんだな、と思い知る。


第532回

「いいお天気」青空を見るのは、何だか久しぶりな気がした。
あぁ、そうか。ずっと下ばかり向いていたから空の色もわからなかったんだ。
「散歩でもしようか」とあなたがいたら言うんだろうなぁ。


第533回

笑うのは少し苦手。だから、あなたの笑顔に惹かれた。
涙や怒りは人には見せない。だから、あの子の素直さが羨ましかった。
「楽しいね」って一緒にはしゃげたら、何かが変わったのかな。


第534回

「キミはどうしたいの?」前に進めなくなった私に彼が寄り添う。
「休みたいなら休めばいいさ」がんじがらめの私に彼が笑う。
「キミは自由だよ」もふもふの彼を抱きしめれば、少し心が軽くなった。


第535回

ずっと夢の中にいた。ふわふわとやさしくて、あたたかい腕の中に。
急に現実に引き戻されて心細くなる。守ってくれる腕はもうない。
鳥かごから放たれても、飛べない私は、どうすればいいんだろう。


第536回

静かな夜。ひとりの部屋にカタカタとキーボードを打つ音だけが響く。
「夜ふかしはいけないよ」と叱ってくれた人はもういない。
ふと手を止めて耳をすます。聞こえるはずのないあなたの声を探して。


第537回

「ごめんなさい」と言った私に、あなたはちょっと苦笑いをして
何かを言いかけて、結局言わずに、くるりと背を向けてから手を振った。
もう一度小さく「ごめんなさい」とつぶやけば、雫がポツリとこぼれて落ちた。


第538回

どんよりと曇った空に少しホッとする。青空なんて見たくない。
すべてを暴いてしまう太陽より、覆い隠してくれる鈍色がいい。
いつかは晴れるのだろう。けれどまだ今は、まだ今は、曇り空に守られていたい。


第539回

いつの間にか風が涼しくなって、季節が変わったことを知る。
気がつけば、隣りにあったぬくもりも消えていて、なるほど寒いわけだ。
思わず両手で自分を抱きしめる。けれど、凍えた心は癒せない。


第540回

書いては消し、書いてはまた消し、何度も書き直した手紙。
結局、出す勇気はなく、捨てる潔さもなく、机の奥に仕舞い込んだ。
あぁ、懐かしいな。甘くほろ苦いビターチョコみたいな想い出。


第541回

キライだよ、あなたのことなんて。嘘つきでいい加減なあなたなんて。
彼女はまるで自分に言い聞かせるように、そう繰り返した。
言葉とはうらはらに、彼のそばを離れらずにいたけれど。


第542回

好みが違う。ゆで卵は半熟が好きなキミと、固茹で派のボク。
キミは音楽に癒やされて、ボクは本がそばにあれば満足だった。
ぜんぜん違うのに、どうしてかな…ボクの隣はキミじゃなきゃダメなんだ。


第543回

目的もなく、ぶらりと歩いていたら懐かしい場所を見つけた。
あの頃、一緒によく行った小さな古い喫茶店。
ドアを開けようとしてハッとする。あるはずがないと気づいて…。


第544回

遠いところで声がする。懐かしいような、いつもそばにあるような不思議な声。
まるで歌うように楽しげで、こちらまでうれしくなって笑みがこぼれる。
あぁ、キミの声だ。そうだ。そうだった。キミの声が、聞こえた。


第545回

「大事なものはなんですか?」 と問われて、はて…と首をひねる。
とても大切なものがあった… はず。何よりも大切にしていた…はず。
けれど、それな何なのか思い出せない。僕は何を失くしたのだろう?


第546回

あの日、キミが見ていたのは、ゆっくりと暮れていく空の色。
「キレイだね」と何度も繰り返しながら、静かに泣いていた。
終わっていく一日に僕たちの恋を重ね、最後にキミは「ありがとう」と言った。


第547回

「また明日」と言って手を振った、あなたの笑顔を覚えている。
私も、あなたも、明日が来ないなんて知りもしなかった無邪気な頃。
世界は呆気なく壊れ、今日から先の未来は消え去った。


第548回

彼は寡黙である。静かな闘志を内に秘め、一瞬で解き放つ。
そのまばゆさに、その鋭さに、どれほど多くの人が歓喜しただろう。
彼は多くを語らない。けれど、あれほど雄弁な背中を私は知らない。


第549回

目が合った。まるで縫い付けられたように視線がはずせない。
瞬きもできずにじっと相手を見ている。相手もこちらを見ている。
小さく息を飲めば、それを合図に止まっていた時間が動き出した。


第550回

くもりガラスに、あなたの名前を指で書く。後から好きと付け加えて苦笑い。
もう遠い人なのに。ずっと昔のことなのに。想い出は今も鮮やかで。
キュキュ…とあなたを消してみるけれど、心に灯った小さな火は消えなかった。

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眠れない夜に

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