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恋はジャイアン、ガキ大将。

好きという気持ちは、投げ付けるもの。
それが私だった。

「好き!好きだから付き合って!」「大好き!結婚して!してくれないなら別れる!」

それが私だ。

「ゴリラは糞を投げつけるもの」という概念とイコールで「好きという気持ちは投げつけるもの」という、野性的な感覚で29年間生きてきた。落ち着いて考えてみればひどい話である。恋愛というストーリーの中に、主観しか持っていない。

好きだから付き合う、嫌いだから別れる。そんな当たり前を世間に押し付けて相手を困らせる訳だから、恋愛ヤクザといってもいいのかもしれない。現に昔の恋人とは、「もう嫌いだから別れて!」と言って別れることが多かった。若さもあって、相手が泣こうとストーカーになろうとお構い無しに、私はそれらを振り切った。

そんな事が当たり前だと、心から思っていた。


正直に言うと、今もその気持ちが全く無くなった訳ではない。
自分の人生なのだから、自分の感覚で物事を決める以外、一体何で決めろというのだ。
タロット占いででも決めるのか。花びらでもちぎって人生を決めろというのか。バカらしい。誰が責任を取ってくれるっていうんだ。【主観があって何が悪い!!】と思う気持ちも、もちろんある。

ゴリラというのは、そう簡単に人間に進化出来ない。
間に類人猿とかホモサピエンスとか、いろいろ過程がある。進化には時間と過程が必要なのだ。ポケモンのようにボタン1つでキラキラと煌めいたりしない。ゴリラの進化する過程は、泥臭くて汗くさくて時間がかかって、結構大変なものなのだ。

そして私は今、その進化の中にいる。


先日、ゴリラである私は「私が30になったら娘の養育費を払い終わるから、そしたら結婚しよう」と、昔、彼氏に言われたことを思いだしました。
今年30になるのだけれど、その話覚えてる?と尋ねた所、「あー、数え間違えてるねー!笑」と彼は笑って答えました。

その不誠実さと軽いノリに怒りを覚えたゴリラは、「明後日までに数を数え直してほしい」と伝えたものの、当然明後日になってもその返答はありません。

ゴリラは自尊心を大いにぶち壊されたと感じ、引っ越しを決意。3年近く一緒に住んだ家を勝手に出ていく計画をたてたものの、それを上手く伝えられず、もやもやとして手紙を書きました。
ゴリラは頭が悪いので5枚も書いてしまい、「長いよ、クオカード貯めてたのかと思った。せめて一枚に要約してほしい……。」と彼に言われてしまいます。


翌日ゴリラは簡潔にまとめてみたものの、その語学力たるやさすが文系。

「結婚する気がないなら別れる、家出る、ふざけるな。」と、

なんともコンパクトな投げ糞を作ってしまい、それをソフトなフォームで投げつけた所、彼はこう言いました。

「去年会社が潰れてるんだよ、そんな簡単になんでも上手くいわけないよ、ちょっとは考えてよ。」


実にまっとうな人間の言葉でした。


自分が30になる、そろそろ結婚したい。
自分はお前の誠意のなさに傷ついている、ふざけるな。
自分は結婚して子供生んで幸せな家庭に憧れてたのに、なんで出来ないの。
自分はこんなに頑張って生きている、一緒に遊んでほしい。自分は幸せになりたい。自分は幸せになる資格がある。
自分は、自分は、自分が、自分が、自分、自分、自分、自分。


ゴリラは、この時初めて、自身の言葉や感情に、一人称しか持っていない自分に気がつきました。


ああ、なんて子供なのだろう。

どうして感情も、言葉も、投げつけることしか出来なかったのだろう。


ここで、ゴリラは【自分がゴリラなのだ】と気が付いたのです。


私はアラサーのメスゴリラ。
求愛の行動は糞を投げ付けるだけ。
相手の感情も状態も言葉も汲み取れない、自分達の回りには群れという社会があり、仕事の群れとか昔の群れとか、コミュニティーが多数存在していて、その数だけ【都合】というものが存在しているのだ。

そんな事も理解せずに、なにが結婚だ。出産だ。幸せな家庭だ。

手には入るわけがない。
戸籍の上でも生物的にも、私は人間の女だというのに。


怒らずに、怒ってたかもしれないけど、きちんと人間の言葉で話してくれた彼に感謝をした。

上手く伝えられているかはわからない。だけど、もう糞を投げつけるのは辞めよう。


結婚を諦めた訳ではない。
ただ、もう少しお互いの都合を、希望を、確かめあって話し合いたい。
これから先になにがあっても、私は人間になりたい。進化したい。大人になりたい。

年齢だけじゃなくて、頭も、心も、言葉も、伝え方も、ちゃんと人間の大人になりたい。

ゴリラはもう卒業。
せめてジャイアンくらいになりたい。
自分の意見を真っ直ぐ伝えて、へりくだることなく、卑下することなく、胸を張って生きていたい。


諦めること以外に、大人になる術を学んでいきたいと、今は本気で思う。

今までずっと、私が大人だねと言われてきたのは「諦めることに慣れている」からだったのだ、と今ならわかる。

それに気が付けた事が、大きな収穫だったと思う。


ゴリラを辞めて、進化すべき時がきた。

投げ付ける以外に初めて交わす【人間の言葉】として、こういう風に考えさせてくれた彼氏に「ありがとう」と「ごめんね」を、ちゃんと伝えたいと思った。

無茶苦茶なこと言って、本当にごめんね。ちゃんと向き合ってくれて、ありがとう。

このお金で一緒に焼肉行こ〜