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おしゃれじゃない

大学に入学したばかりの僕にとって、その人はとても眩しく見えた。

なんだかいつも友達と笑っていて、その笑顔は抜群に可愛かった。

構内で見かけると、名前を呼んで声をかけてくれた。

僕より年上のその人は、車も軽やかに運転していて、たまに友達や僕のことを順番に送ってくれたりした。
まだ免許さえ取っていなかった僕には、ずいぶん大人に見えた。

だけど、よく「しまった。またうっかりしてた」といってエヘヘとしている姿も見ていて、たまに子どものようにも見えたりした。

そんな僕の印象を知ってか知らずか、ちょっとお姉さんぶっていろいろと僕に話しかけたり、僕の話を聴いてくれた。

そんなところも素敵だし、可愛かった。


どうやら彼氏がいるらしいと知って少しガッカリしたけれど、その人はいつも楽しそうでその笑顔が見られるのが何より嬉しかった。

なんだか僕まで笑顔になって、元気が出るんだよね。


ある時、彼氏と別れたという話をどこからか聞いた。

でもその人はいつものように楽しそうに笑っていた。

その夜、もう終バスがなくなっていた僕を見かけて「乗っけてくよ」と言ってくれたので、僕は助手席に乗り込んで家までの間たわいないことを話していた。

まだまだ話は尽きそうになく、途中の河原で車を止め僕たちはおしゃべりを続けていた。

「どんな人が好きなの?」
ふと聞かれ、つい答えてしまった。

目の前の人の名前を言ってしまった。

しまったー!と思った時にはもう遅かった。
いつものようにその人の名前を思い浮かべていたら、つい口から出てしまっていた。

あー、全然告白なんてするつもりなかったし。
こうやって楽しく話す時間を大切にしたかったんだ。

そして、もしこの先気持ちを伝えたくなったとしても、ちゃんと自分から場を設定して言いたかった。
会話の途中でふと呟いただけのような告白。

もう何やってんだろ…
恥ずかしくて顔をあげられなかった僕に、その人は優しく名前を呼んでくれた。

そして今まで見た中で一番の、極上の笑顔で言った。
「ありがとう」

よく見ると、灯りに照らされてうっすら浮かんでいた涙があった。

そっか。
「ありがとう」なのか。

予定外だったし、全然かっこよくなかったけど、なんだか少しだけ気持ちが軽くなった。

僕も背伸びしてたし、きっとその人も背伸びしてたところがあったんだろう、って後からぼんやり思った。


それから数年後、偶然街であったその人は僕に言った。
「あの時、本当に嬉しかった。気持ちには応えられなかったけど、ものすごく勇気づけられた。ありがとう。」と。

そっか、僕の一言はこの人を勇気づけたのか。
なら、かっこ悪かったけどそれでもよかったな。

その人は、相変わらず素敵な笑顔だった。



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