見出し画像

「第9回 山本亜美 箏 二十五絃箏リサイタル ~手繰る、みちしるべ~」

昨年行きそびれてしまった山本亜美さんのリサイタル。
ようやく行くことが出来ました。
今年のテーマは「手繰る、みちしるべ」
様々なご縁が繋がり実現したという、貴重なプログラムを披露してくださいました。
 
まずは何と言っても、「太助箏」
江戸時代の名工、菊岡太助が作った箏が、100年以上の時を超えて、舞台に登場しました。
美術館のコレクションになってもおかしくない、骨董品のような楽器です。
それが、飾りではなく、ちゃんと音を奏でる場を与えられて、きっと箏も喜んでいるに違いありません。
 
舞台の上にぽつんと置かれた箏は、スポットライトを浴びて、輝いています。
遠目で見ても、磯(側面)の装飾が美しく、甲(本体)の深い焦げ茶色に、ほんのり黄色い絹糸が張られています。
山本さんが登場して、箏の前に座り、「六段の調」が始まりました。
今どき風のキラキラしない、ちょっと素朴な音色。
それが、とても柔らかく暖かく響きます。
山本さんの、箏を慈しむような演奏が、箏と対話をしているようで、聴いていてとても幸せな気持ちになりました。
 
2曲目以降は、二十五絃箏の演奏です。
井上鑑氏作曲の「Sound After The Silence」
ウェールズの詩人R.S.Thomasと井上さんの詩による歌が入ります。
ドラマチックでゴージャスだけど、美しい和音が重なる井上ワールドに、山本さんの歌声。
箏と歌が螺旋状に絡み合って、ここではないどこかへ誘われます。
その「どこか」は、ウェールズの荒野かもしれないし、西アジアの草原かもしれないし、私たちの心の中かもしれません。
 
高橋久美子氏作曲の「水面ニ駆ケル~二十五絃箏とトロンボーンのための~」
トロンボーンは、夏に「公園通りクラシックス」でも聴いた村田厚生さん。
https://note.com/kotonohawave/n/nc63b209bb521
どうも私は村田さんの演奏を聴くと、楽しくなってしまうらしいのです。
前回同様、妄想タイムが始まります。
 
私事で恐縮ですが、今秋、初めて遠野を訪れ、カッパ淵(カッパがいたという小川)に行ってきました。
せっかくなので、キュウリの付いた釣り竿で「カッパ釣り」もしてきました。
この曲「水面ニ駆ケル」は、文字通り、様々な水の表情が登場します。
聴いているうちに、私のアタマの中は、カッパ淵に飛んでいます。
小川のせせらぎ、水面に光が当たってきらめく様、周りの木々を通り抜ける風、そしてカッパ達が楽しげに潜ったり、水音を立てて遊んだりしている様子、、、。
あまりに楽しすぎて、自分が今いる場所を失念してしまいます。
制作意図と全く違うであろう勝手すぎるイメージで、申し訳ありません。
 
伊福部昭氏作曲の「琵琶行」
こちらは9月に佐藤亜美さんの演奏でも聴きました。
https://note.com/kotonohawave/n/n47b040e4c52f
「演奏者によって、全く別の曲に聞こえる」と教えていただいて、とても楽しみにしていた1曲です。
そして、本当に全然違いました。
山本さんの演奏は、とても柔らかくて優しい。
憂いも悲しみも、思いの粒を一つずつ丁寧に掬っていくかのようでした。
「琵琶行」ますます、いろんな方の演奏を聴いてみたくなりました。
 
最後のアンコールは、太助箏でムーンリバー。
江戸時代に生まれた箏も、まさかこんな曲が演奏されるとは思いもよらなかったことでしょう。
でも、その優しい柔らかい音色は、この曲にとてもよく合って、舞台の締めくくりに暖かい余韻を与えてくれました。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
 
*************
会場 杉並公会堂小ホール
日時 2023年12月14日(木) 19:00
箏・二十五絃箏 山本亜美
トロンボーン 村田厚生
1       六段の調 八橋検校作曲
2       Aoun After The Silence 井上鑑作曲 R.S. Thomasテキスト
Becoming
Insight-scape
Swift
Resounding
3       水面ニ駆ケル~二十五絃箏とトロンボーンのための~
高橋久美子作曲(委嘱初演)
4       琵琶行~白居易ノ興ニ倣フ~ 伊福部昭作曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?