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1 地域への恩返しで「まちの小さな本屋」を開くまで

先月、1月26日。小鳥書房の本屋は2周年を迎えることができた。

「50年は続く店にしたい!」と口ぐせのように言っているので、実現させるにはあと48年…。途方もなく長い道程に感じるけれど、今日1日を積み重ねればかならず届くことを知っている。そして、48年後もこのまちにこの店が存在するであろうことを、笑うことなく信じてくれている人たちがいることも知っている。

これまで私(店主=落合加依子)は、小鳥書房のことを自分自身で綴ることを極力避けてきた。それは、持ち前の極端な裏方気質によるところが大きい(シャイなんです)。さらに、この店のことを私が言葉にしてしまったら、必要以上に「意味」に縛られてしまいそうな気がしていたから。意味を定義しないことで得られるユルさが、場づくり、店づくりには必要だと思っている。

にも関わらず、いまは書きたい気持ちに駆られている。この店のことを。この店で日々起こる奇跡のような出会いのことを。この店に新たな火が灯る瞬間のことを。2周年の感謝を込めて、小さな本屋の記録を少しずつ綴っていこうと思う。

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誰かの思いを形にできる、「たったひとりのため」の出版社

小鳥書房とは、2015年に私が「ひとり出版社」を立ち上げた際につけた名前だ。当時の私は、セブン&アイ出版という出版社に書籍編集者として勤めながら、国立市谷保のダイヤ街商店街で、コミュニティ型シェアハウス「コトナハウス」を仲間たちとつくり、地域とともにある暮らしを楽しんでいた。新たな出会いがあたりまえにあり、心が熱くなる出来事が数珠つなぎに起こる、かけがえのない家で毎日を過ごした。

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そこで出会う幾人かから「いつか自分の人生を本にしたいな」「こんな素敵な人たちがいるんだけど、本にならない?」といった相談を受けたけれど、マスに売れる企画でなければ、勤め先の出版社からは出版できるはずもない。でも私が首を横に振ってしまったら、その人たちの夢は終わってしまう…。そこで、私がほんとうに魅力的だと感じる本を「たったひとりのため」につくるべく、小鳥書房という出版社は生まれた。

すぐに仕事は軌道に乗った。出版できる枠組みをつくったことで、これまで築いてきた地域の縁に対して、私が恩返しできることが増えたのだ。コトナハウスの仲間が手伝ってくれはしたものの、基本的にはひとり出版社。それゆえ、増えゆく作業に集中せざるを得なくなり、3年間勤めたセブン&アイ出版を泣く泣く退社した。会社が大好きで、とれと言われて有給休暇をとった日にまで会社に行っていたほどの私の退社に、周囲は少なからず驚いたかもしれない。

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もともと私はマスに向けた本づくりが得意ではなく、会社では落ちこぼれ編集者だったと思う。いいと感じる人やものが、ことごとくニッチなのだ。売れる著者の売れる本をつくることが求められる世界は刺激的であるいっぽう、私には荷が重く、ふがいない自分に葛藤し続ける日々に少々疲れてもいた(ニッチな企画を堂々と連発する私に、「好きな本をつくったらいい」と言って見守ってくれた上司には心から感謝している)。私が全身全霊をかけて編集できる本は、マスではなくニッチなもの。そう確信していたことも、退社を決めた理由のひとつだった。

旅先での出会いと、高松の圧倒的な本屋さん

退社の翌日には、巨大なスーツケースに一眼レフ、三脚、レコーダー、パソコン、ノートなどを詰め、まだ見ぬものを求めて高松(香川県)に飛んだ。旅の行き先を高松にしたことは偶然だったけれど、「たぶんなにかある!」という漠然とした予感はあった。

ゲストハウス「まどか」にヘルパーとして2週間滞在させてもらう間、高松の魅力的な人たちと出会った。「なタ書」「本屋ルヌガンガ」など、個性豊かな素晴らしい独立書店がいくつもあることも知った。駅前の大型書店でもなく、歴史ある古書店でもない。店主の個性が大爆発する独立書店があることなんて知らなかった私は圧倒された。その空間にいるだけで胸が苦しくて、書棚を眺めているだけでアイデアが湧いて止まらなくなって、店主さんとおしゃべりしたら楽しくて時間を忘れた。なかでもなタ書の店主・藤井佳之さんは不思議な人で、頼んでもいないのに高松市内をあちこち連れまわしてくれた。独特な店の雰囲気と、テンポのゆったりとした口調の藤井さんになんだかとても癒され、つい何度もなタ書に足を運んでしまった(ちょうどバレンタインの時期だったので、商店街でチョコを買って渡したりもしたっけ)。それ以来、なタ書は私にとって特別な古本屋だ。

まどかのオーナーである小笠原哲也さんが運営する海沿いの本屋「BOOK MARÜTE」でトークイベントも企画した。それまで東京で登壇したり、地元の名古屋でテレビに出たりする機会はあったが、離れた地で、初めて会う人たちを前に話すのはドキドキした(そこにお客さんとして訪れてくれていた畠田大地さんと、のちに小鳥書房で本づくりをご一緒することになる)。旅先での新たな出会いと、素晴らしい独立書店。その圧倒的な魅力に取り憑かれ、中毒になった。

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「いつか自分も、こんな出会いが生まれる本屋をできたらいいなぁ」

ぼんやりとそう感じつつ、そこから私は、羽が生えたように各地を飛びまわることになる。

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(つづく)

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