『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十九回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第4部 脚本の執筆
17 登場人物
【心の虫】
【登場人物は人間ではない】
「登場人物」について考察するにあたって、著者はまず、「実在の人間」がいかに複雑な存在であるかを強調しています。
私も含め、多くの人はつい周囲の人物に対して「あの人は、○○な人」と雑なレッテルを貼って理解した気になりがちだと思うのですが、実際には、著者の言うように「相手をわかっているつもりのときにかぎって、わかっていない」のでしょう。
この意識を持つことが、人間という複雑な存在を深く理解し、「その本質の隠喩」である「登場人物」を描くための第一歩なのではないかと思います。
登場人物設計のふたつの要素「性格描写」「実像」のうち、「実像」について、著者は次のように述べています。
「登場人物の実像の鍵となるのは欲求」「欲求の裏には動機がある」と述べた上で、著者は「人間の言動の動機は、一つの説明で完結できることよりも、いくつもの力がからみ合っていることの方が多い」と言っています。
「観客が、各々の捉え方で登場人物の動機を推測し、その中には、脚本家である自分がまったく想定していなかったものも含まれている」という経験は、私にもあります。
これは、観客の経験や、その時々に置かれている状況が投影されるからなのだろうと私は考えています。
クリシェという言葉は、これまでの章でも度々使われていますが、「ありきたりな表現」といった意味です。
【登場人物の立体感】
日本のドラマ制作、映画制作の場でも登場人物について「紋切型でない」「平面的でない」といった意味で、「立体的」という言葉が用いられることがあります。
ですが、その言葉を使う人たちが皆、明確な定義を持っているのかと言えば、大いに疑問です。
「立体感とは、矛盾を抱えていること」という著者の定義に、私は非常に納得が行くのですが、初心者レベルの書き手は「登場人物が矛盾を抱えていること」と、「キャラクターがブレている」ということを混同しがちだとも感じます。
「主人公は野心を抱いて大胆な行動を取っているのだが、そのことに罪悪感も覚えている」というのは「立体的な登場人物が抱える矛盾」だと著者は述べていますが、初心者レベルの人はこのような人物像を「キャラクターがブレている」と勘違いする場合があるようです。
著者は、「矛盾を抱えているのが人間の本質」であり、「その矛盾に一貫性がなくてはならない」と述べています。
「キャラクターのブレ」というのは、この「登場人物が抱えている矛盾」に一貫性がないことや、「矛盾を持たない、一面的な人間として描かれてきた登場人物が、作者都合で突然違った面を見せる」といったことを表しているのだと私は認識しています。
【登場人物の設計】
主人公と、その他の登場人物の関係について、著者は次のように述べています。
例えば三十代半ばの男性会社員がいるとして、彼が「家族といるとき」「会社で仕事をしているとき」「学生時代の友だちといるとき」には、それぞれ違った面が現れるはずです。
これを利用して、「主人公が抱える矛盾」「複雑な人物像」を描いていく、ということですね。
【コメディの登場人物】
これまでの章でも著者は度々、「コメディ」には他のジャンルとは違ったルールやセオリーが存在すると述べており、「登場人物」においても以下のように言っています。
【登場人物を書くための三つの秘訣】
1 俳優のためにじゅうぶんな余地を残す
著者は「悪い具体例」として、以下のような描写を挙げています。
「では、どの程度の描写ならば許容範囲なのか?」と疑問に思った方は、プロが書いた脚本をお読みになることをお勧めします。
例えば、『月刊ドラマ』『月刊シナリオ』には、毎号多くの脚本が掲載されています。
2 すべての登場人物に愛情を注ぐ
著者は、「愛着を持って描かれている悪者」の例として『ターミネーター』を挙げています。
書き手がマーヴィンと同様の視点を持つことができれば、”立体的な悪役”が生まれ、作品の質は何段階も上がることでしょう。
3 登場人物は自己認識である
観察によって集めたパーツをいくつも組み合わせることで、登場人物の複雑さが増すので、非常に有効な方法だと思います。
ですが、著者は以下のようにも述べています。
アントン・チェーホフも、以下のように述べているそうです。
☆「第4部脚本の執筆 18 ことばの選択」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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