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『怪物はささやく』を読んで

こんにちは、ことろです。
今回は『怪物はささやく』という本について感想を書いていきたいと思います。

まずはじめに、『怪物はささやく』は原案がシヴォーン・ダウド、書いたのはパトリック・ネスです。どうして二人なのかというと、闘病していたシヴォーン・ダウドが亡くなってしまうからなんですね。
パトリック・ネスはシヴォーン・ダウドの草案をもとに、未完の遺作を仕上げてみないかと頼まれました。はじめは戸惑ったみたいですが、あまりの良い草案に次々とアイデアが浮かび、これを書きたいと思うようになります。
そうして出来上がったのが、この『怪物はささやく』。シヴォーン・ダウドが気に入ってくれることを願って書きました。
翻訳は、池田真紀子さんです。


シヴォーン・ダウドが闘病生活を送っていたからか、この物語の母親も闘病生活を送っています。
物語の主人公は、コナー・オマリー。
13歳の少年です。
コナーはお母さんと二人暮らし。
お父さんは6年前離婚して家を出ています。

コナーは、おばあちゃんが大嫌い。
全然優しくないし、ゲームはさせてくれないし、おばあちゃんの家の中で触っていいものはほとんどありません。この歳でまだ仕事をしているし、とにかく馬が合わず、厳しすぎるのです。

けれど、お母さんの病気が悪化して、コナーの面倒をおばあちゃんが見なくてはいけなくなり、家にやってきます。
ほどなくしてお父さんもアメリカから駆けつけてくれます。
コナーは、お父さんと一緒に居たいと思いますが、お父さんは家庭があるので長くはいられません。

家庭のなかが大変になっている頃、学校でも大変なことになっていきます。
コナーは新学年に上がった時からいじめにあっていますが、それはお母さんのことで傷ついている今でも続きます。
しかし、コナーはいじめを受け入れています。
助けに入ってくれる1人の女の子がいますが、かえって問題になるので助けないでほしいとさえ思っています。


さて、実はこれはコナーの表向きの物語。
いわゆる、現実の時間としての物語です。

もう一つ、大事な物語があるのですが、それは夢なのか現実なのか曖昧でわからない、けれど確かにコナーとその周りに影響を与えていき、最後はコナーを助けてくれる物語です。

コナーが住んでいる家の近くには小高い丘があり、教会とイチイの木があります。
実はこのイチイの木、夜になると動くんです。
なぜかいつも同じ時間12:07になると、イチイの木は歩いてコナーのもとにやってきます。

それはそれは恐ろしい怪物です。
木の枝やトゲトゲした葉が折り重なって、二足歩行の怪物が出来上がっているのですが、意外や意外コナーは全く怖がる素振りを見せません。
本当に怖くないのです。
それは、なぜか。
この怪物よりも恐ろしいものを知っているからです。

コナーはお母さんが病気になった頃から悪夢を見るようになります。
漆黒の闇に、転落と悲鳴──
手を握って離さないつもりが、ズルズルとすべっていき、最後には手が離れてしまう……
そして落ちていくのです。
お母さんが。

コナーは毎日のように悪夢を見てはうなされ、悲鳴をあげて起きます。
この日々を何とかしたいと思っていたところ、イチイの木の怪物がやってきました。

彼はこう言います。
「わたしが三つ物語を話すから、四つ目の物語はおまえが話せ」
「おまえにとっての真実を、話せ」

コナーは混乱します。
しかし、問答無用で話は進んでいきます。


反りが合わないおばあちゃんとの関係、
複雑になったお父さんとの関係、
大好きだけれど死にかけているお母さんとの関係、
いじめっ子との関係、
イチイの木の怪物との関係……

なぜ怪物はいつも12:07にやってくるのか。
なぜコナーに三つの物語を話し、四つ目の物語、真実を話させようとしているのか。
お母さんは、コナーは、どうなってしまうのか。
ぜひ読んで確かめてください。


最後はとても意外な結末です。
そして、とても残酷な悲しい結末です。
読んでいると、どうしても涙が出てきます。
何度読んでも涙が出てきます。
けれど、つらいだけではなく、怪物がいてくれたおかげで、コナーは強くなり、乗り越えることができます。

ネタバレになるので肝心なところは言えないのですが、ガンか何かで投薬治療をしていてボロボロになっていくお母さんをずっと見ているコナーは、精神的に追い詰められていきます。
なぜコナーはいじめを受け入れているのか、それは罰を受けたいと思っているからです。
おばあちゃんの家をめちゃくちゃにしてしまったときも、学校で問題を起こしたときも、コナーは大変な状況にあるからと不問とされました。罰は与えられなかったのです。

それが、どれだけコナーを苦しめるか。
けれど、そもそもなぜ罰を受けたいと思っているのか、そこが結末のところで明かされるのですが、13歳の子がこれほど重たいものを抱えて生きているということ自体が私にとっては耐えられませんし、解放してあげたいと思ってしまいます。
しかし、解放されるということはどういうことか、物語を読んでいくと道は一つしかないんですね。

なので、コナーが隠し持っている秘密、真実を話してしまうことで助けようと怪物は動くのです。
怪物はコナーを癒すために来ています。

ヤングケアラーや介護をしている方なら、コナーの気持ちはわかるのかもしれません。
愛が故の二律背反のような想いがわかったとき、胸を締めつけられる思いがしました。
そして、闘病生活を送っていたシヴォーン・ダウドがこの物語の草案を考えていたということが、なんとも胸を打ちます。


さてさて、長くなりましたが、いかがだったでしょうか?
愛や命を見つめること、どれだけ現実が残酷だとしても自分の心に正直になること、それらを学べるこの本は児童文学にぴったりだと思います。
私は映画も観に行きました(笑)
ここから、シヴォーン・ダウドとパトリック・ネスの作品も読んでいくようになるのですが、それはまたいつかの機会に。

それでは、また!
次の本でお会いしましょう~!


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