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『さよならの神様』 〜また会う日まで

こんにちは、ことろです。
今回は神様シリーズ第三弾、『さよならの神様』という小説を紹介したいと思います。

『さよならの神様』は、著・鈴森丹子(すずもり あかね)、装画・梨々子の小説です。
全6章で構成されており、序章、同居の神様、洗濯の神様、絵画の神様、屋台の神様、再会の神様と、すべて"~の神様"というタイトルになっています。

登場人物は、
神尾祈里(かみお いのり)。23歳。女性。
十月十日の誕生日に、契約を切られ無職になる契約社員。ついでに両思いだと思っていた男性にも連絡を返してもらえず、振られた模様。子猫を3匹拾う。

福禄(ふくろく)。二七歳。男性。
福禄デンタルクリニックの歯科医をやっている。伯父が院長で、両親を亡くしている福禄は跡を継ぐことになっている。みんなからは福禄先生と呼ばれている。

参道レイラ(さんどう れいら)。二五歳。女性。
イギリス人とのハーフであり、美人。顔で寄ってきた男と付き合うのをやめて本気で恋がしたいと思っている。絵画教室に通う。

宮島大吉(みやじま だいき)。
みんなからはミヤダイと呼ばれている。
参道さんが通う絵画教室と同じビルの英会話教室に通っている。居酒屋の店主。
なお、神様シリーズの1巻、2巻にも登場しており、毎度失恋しているが今回は…?


神様はもちろんあの3匹。
山の神様である狸と、川の神様であるビーバーと、森の神様であるエゾリスです。
人の姿にも化けることができ、山の神様は二十歳前後のチャラいイケメン男性に、川の神様は原宿系の華奢な少女。森の神様は、白いワンピースに紺色ジャケット、黒髪ロングの清楚系です。
みな独特な喋り方と好みを持っており、山の神様は侍言葉で極度のマヨラー、川の神様は花魁言葉で極度のチョコレート好き、森の神様はチキチキの江戸っ子言葉に極度のコーヒー好きとなっています。
今回は、ミヤダイ君と屋台で会うのですが、山の神様は山神くん、川の神様は川神さん、森の神様は森神さんと名前も少しついています。まぁ、仮の名前ですが。

それと、舞台は福岡となっていて、作者の故郷なんだそうです。
ちなみに1巻は東京、2巻は名古屋が舞台となっています。

今回も章によって主人公が変わり、同居の神様では神尾が山の神様(狸)と出会い、洗濯の神様では福禄が川の神様(ビーバー)と出会い、絵画の神様では参道が森の神様(エゾリス)と出会い、屋台の神様ではミヤダイが3人の神様と出会い、再会の神様ではなんと1巻の主人公だった神谷千尋が結婚して天野千尋となり、その姿で3人の神様と出会います。
神様シリーズでは、前回出たキャラクターがさりげなく再登場することもあるので、ファンとしては嬉しい限りです。あの人とこの人にこんな繋がりがあったのか、その後こんな展開になったのね、と発見もあります。


仕事ができる契約社員だった神尾祈里は、突如部長からクビを言い渡されます。ついでに両思いだと思っていた奥宮さんからも返事が来なくなり振られた模様。
十月十日の誕生日に、こんな最悪なことが起こらなくてもいいじゃないとトボトボ歩いて帰宅していると、自然と涙が溢れてきます。一休みしようと橋の上で止まった祈里は、泣きながら遠くを見つめていたせいか見知らぬ男性に突き飛ばされ、早まるな!と言われます。なんのことだかさっぱりわからない祈里。まさか自殺しようとしていたと勘違いされたと気づいたときには、「この、ばかああああ!」と叫び走り去っていました。
最悪な日に最悪なことが起きている。走って走ってヒールが折れても走って、疲れ果てて止まったら今度は雨が降ってきて。
もう身も心も折れてしまった祈里は、誰か助けてぇと神頼みし、気がつくと側に捨ててあった子猫を拾い上げ、家に連れて帰ったのでした。

閑静な住宅街の一角に建つ古い木造の一軒家。父親の実家なのだけれど、祖父母が他界してからというもの家を壊すのはいやだと親戚一同が話し合い、なぜか祈里が住うことになりました。この家は嫌いではないけれど、どこか他人の家を間借りしているようで落ち着かない、自分の家と思えないでいた祈里。
しかし、猫を拾ってきてから少しずつ変わっていきます。

子猫3匹と親猫を拾ってきたと思っていた祈里でしたが、いざ家に帰ると親猫がいない。よくよく探してみると、なんとそこには狸が1匹紛れ込んでいるではありませんか!しかも喋る!自分のことを神様だとか言う!
混乱してわけがわからない祈里でしたが、拾ってきた手前捨てるわけにもいかず、渋々この子猫3匹と自称神様の狸と一緒に同居生活を始めることになりました。

会社をクビになったからには就職活動をしなければ、ということで職探しの旅に出る日々の祈里でしたが、ある日起きると歯が痛いことに気づきます。
近所の歯科医院「福禄デンタルクリニック」に足を運ぶと、なんと現れた歯科医はあの橋の上で飛び降りると勘違いして突き飛ばしてきたあの男性だったのです! 近所の人だろうとは思っていたものの、まさかこんなところで出会うとは……「生きていたんだな、良かった」と言われてしまったので、まだ勘違いは続いている模様。
なんとか治療をしてもらい、一回で終わらなかったため通い始めるも、福禄先生とはなんのご縁なのかよく会います。
バイト先である神社にも来るし、コンビニでも会うし、なんと家にも来た。福禄先生はジョギングをするので、そのときにも偶然会った。会うと家まで送ってくれたり、お土産をくれたり、いろいろ世話を焼いてくれる福禄先生ですが、それはきっと祈里が生きていてくれたから、また自殺しないように面倒を見ているのでしょう。それは勘違いなのですが。
祈里は、有難い反面ちょっと気まずくて先生には会いたくないとも思っていました。いい人なのはわかるけれども、先生の顔を見るたびに仕事も恋も無くした最悪なあの日を思い出してしまう。突き飛ばされて出来た怪我は綺麗に治っても、心に出来た傷には絆創膏は貼れない。
それを聞いた自称神様の狸が言います。
「福禄とやらはお嬢の消毒液でござるな」
無理に忘れようとしても、もう大丈夫だと偽っても、結局それらは応急処置でしかない。それでも何もしないよりはマシなはず。
しかし、祈里としてはもう福禄先生とは会いたくないのでした。

七日連続で福禄先生と会ったその日、虫歯の治療が終わったため、もう先生とも会うことはないだろうと思っていました。
何か胸騒ぎがする朝、ピンポンとチャイムが鳴る。これはまた福禄先生がお土産を持って会いに来たんじゃないか?といぶかしむも、出てきたのはなんと振られたと思っていた奥宮さん!
奥宮さんは、祈里に謝りに来たのでした。本当は部長にかけあって祈里を会社に残すように頼んだこと、それを断られて仕事を押し付けられたこと、忙しさと後ろめたさで連絡も出来なかったこと、本当は付き合ってほしいこと。
祈里は自分が勝手に思い込んで、奥宮さんを冷徹な人だと思って諦めたことを悔いていました。来ないメールを待ち続け、吹っ切れようと思って連絡先も消してしまった、そんな自分に謝られる資格はないのです。
何も言えずに突っ立っていると、後ろから自称神様が人間の姿で現れました。
それを見た奥宮さんが彼氏と勘違いして家を飛び出します。
早く追いかけて勘違いですって言わなきゃ!と思うものの、体が動かない祈里。何かが心のどこかに引っかかっています。
玄関を開けた瞬間、奥宮さんを見て驚く前、福禄先生じゃないと知ってガッカリしている自分がいた……
「福禄は良薬だったという事であろう。恋で負った傷を癒すのもまた恋でござる」
自称神様に言われて気づく祈里。
「まさか、私が福禄先生に恋してるって言いたいの?」
……否定できない。
家族も友達も誰もいないこの地で誰かと繋がっている事に安心して、誰かが気にかけてくれる事が嬉しくて。福禄先生が本気で私を心配してくれているのが分かると、なんだか胸のあたりがくすぐったくて。心の片隅ではきっと福禄先生を求めていたことに気づきはじめていた祈里は、奥宮さんを追いかけるのをやめて、その恋に終止符を打ったのでした。

翌日、意を決して福禄先生に会いに行く祈里。
「今度、うちの子猫を見に来ませんか。いろいろお世話になったお礼もしたいので、ご馳走させてください」と誘います。
神様には「恋」だと言われたけれど、福禄先生のことが好きなのかと問われると、それは難しい。好きと言えるまでにはまだ足りない。
本当の気持ちは、福禄先生の事をもっと知りたいということ。
福禄先生は、快諾してくれました。
こうして約束を取り付けた祈里は、新しい恋に一歩踏み出すのでした。

……と、こんな風に神様と人間の縁結びの物語がつづられていきます。

各話ごとに主人公が変わり、その主人公といずれかの神様と交流があり、縁が結ばれていきます。

どれも縁結びの手助けをしているので、カップル成立になっていくのですが、そこに至るまでの葛藤とか悩みの解決などを神様がしてくれるのです。

ミヤダイ君が3人の神様と出会うのがラーメン屋の屋台なのですが、私も福岡出身なのでこういう描写があると嬉しくなります。
ラーメンの麺の硬さを選ぶシーンなどもあり、「やわ」「かた」「ばりかた」「普通」などなど見ているだけで食べたくなる場面が多くありますので、そこも見どころです。

素直になれない自分と向き合うのは難しいし、勇気が要ります。
しかし自称神様と話していくうちに心がほぐれ、本当の自分と向き合うことができ、恋の相手とも向き合うことができるようになっていきます。
神様は何か特別なことをするわけではありません。神通力を使うわけでもありません。
でも、ただそこに居てくれるだけでホッとする。心がほぐれ、あるべき姿に戻してくれる。そういう役割を果たし、いつかは去っていくものだとしても、主人公たちはそれに感謝して自分の人生を生きていきます。

ぜひ、あなたもこの小説を読んで心を素直に大切な人と向き合っていきませんか。


さて、長くなってしまいました。
いかがでしたでしょうか?
このシリーズも第三弾。5巻まではあるようなので、読み進めたいと思います。

それでは、また
次の本でお会いしましょう~!


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