見出し画像

優しさの香りをまとって

一年前、友達から香水をもらった。
私が欲しかった、YSLのモンパリ。
誕生日にはまだ早くて、なんでもない日だった。

+++

友達がコスメを買いに行きたいと言うので付いて行き、その時に見つけて買うか迷っていたのがサンローランのモンパリだった。砂糖菓子のような甘い香りと、アンダーで香るムスク。試しにつけさせてもらい、その日はずっと良い香りだねと2人で惚れ惚れしていた。


それからしばらくして、私は失恋をした。

自分でも驚くほど哀しくて、辛くて、沈んでいた。


それから数日後、私を元気づけようと、友達がパンケーキに誘ってくれた。美味しいものを食べて元気出して、という気遣いが、とても嬉しかった。

渋谷のカフェの、角の少し小部屋になっているような居心地の良い席。

パンケーキとおいしいコーヒーを堪能し、話をして、そんなやつ早く忘れて幸せになりな、と励ましてくれた。

ありがとう、ありがとう、と何度もお礼を言った。


すると急に、大きなカバンの中から紙袋を取り出して私に渡す。
黒地にゴールドでYSLと書かれた、あの紙袋を。


え…これってもしかして…。


言わなくたって、中身はわかる。

溢れる涙がこぼれないよう、目を力一杯見開いて、シックなボックスを開ける。そこには、私の欲しがっていた、モンパリが入っていた。


「欲しいって言ってたから。良い香りでしょ?ほら、元気出して。」


嬉しくって、嬉しくって、笑った瞬間涙がこぼれた。


+++


あの日から1年が過ぎ、香水は使い切っていた。

香水を使い切ったのは初めてかもしれない。

友達からもらった優しさの香りは私を包んで癒し、元気の香りで包んで心を豊かにし、素敵な香りの鎧を纏わせてくれた。


もう鎧はなくても大丈夫。


きっと、あの瞬間からもうとっくに大丈夫だったんだよ。



#エッセイ #思い出 #香水 #失恋 #友達 #励まし #プレゼント #ショートストーリー #もっと金曜ビター倶楽部 #小さな物語

サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。