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失って、軽やかに揺れる髪

腰まで伸ばした髪を、20センチ切った。
理由は簡単。失恋したからだ。いまどき失恋で髪を切る人なんているのかな?と思いながら、大好きな美容室へ向かう。失恋したんだな、と思い出しては涙目になりながら、寒さの厳しい2月の街を足早に歩く。


そのお店は東京に来て知り合いに紹介してもらった、少し風変わりな美容室。詳しくは内緒。一つ言うなら、友達の家に行くような気軽さがあるお店。

私が担当してもらっている美容師さんは、スヌーピーみたいに優しい見た目に反して、とにかく美容に対して熱い人。お客さんのことを大事に思っているのも伝わってくるし、後輩のためにも美容業界を良くしようと取り組む人。お金のために美容師してるんじゃないって、まっすぐに言い切れる人。"髪型ひとつでその人の人生変えられちゃうくらい素敵な職業なんだから大事にしたい"と言える人。

そんな美容師さんに切ってもらえることが誇らしいくらいだ。

東京に来て今の美容室に行くようになって、小学生ぶりのスーパーロングまで伸ばすことができた。昔のSuperflyを思い浮かべていただけると、多分そんな感じ。

毛先を少し切りに行くたびに、コウちゃんどこまで伸ばすの?と聞かれた。私はいつも、ここまでくると切るタイミングがありませんねぇと答える。


来た。来たよタイミング。


「失恋したから切ろうと思うんです。」


私がそう言うと、「うん、切ろう。」と優しく微笑んでくれた。


丁寧に、パツン、パツン、とハサミを入れる。


パツン、パツン、サク、サク。。。


そうして私は、約2年分の髪とさよならした。


腰まであった髪を20センチ切ったって、まだロング。周りからしたら気づかないくらい。けれど自分では、大変身だった。何より、心が軽やかで、清々しい思いだったから。


美容室の帰り道、まだ少し涙は出たけど、よし、と微笑んで前を向ける強さを取り戻していた。

古い髪と思い出に別れを告げたサラサラの髪が、寒さの厳しい2月の街に、揺れるようになびいていた。


#エッセイ #日記 #美しい髪 #小さな物語 #ショートストーリー

サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。