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自己紹介11。

10年という歳月は人を成長させる。どんなことでもそうだろう。

ただ、その10年をどう過ごすかは、その人次第だ。

僕は東京で料理人として10年を過ごし、多くのモノを見ることが出来た。

とりわけ師と仰ぐ下村シェフとの出会いは、僕の人生を語る上で欠かせない。

人生で師と呼べる人がいる事は、とても貴重で尊い事だと思う。

僕には師が3人いる。高校時代の野球部の監督でもあった井出宏さん。先生に出会わなければ、僕は努力というものを知らなかったかもしれない。野球部の理念『為せば成る』この言葉を体現できた高校3年間は僕に成功体験と自信をくれた。

もう1人は、田村正道。自分の理想の男性であり、器の大きい偉大な父だ。野球を教わり、人として、男として、大切なことは全て父の背中から学んだ。昨年この世を去ってしまったが、きっといつも見守ってくれていると思う。父のような大きな男になるのが僕の人生の目標だ。

そして料理界の父、下村シェフだ。以前にも書いたが、新卒当時は本当につらく厳しい日々だった。それでもこうして10年間料理人として続けていられるのは、下村シェフと働いたからだろう。今再び一緒に働いていることに、何か特別なご縁を感じている。

下村シェフと再び働いた3ヶ月の期間の中で多くのイベントがあった。フラワーアーティストのニコライバーグマン氏とのコラボ、名古屋『グランターブルキタムラ』でのイベント。

そして、『東京先端ダイニング』の撮影だ。この番組の中の『次世代に伝える事』という場面に僕も出演させていただいている。新卒当時から撮影部隊だった僕は、このテレビの撮影がある種、下村シェフとの集大成だと思えた。

初めの3年間よりも学びが多くあり、濃い時間だった。それは10年が経ち、僕が少し大人になったことで、見える世界が広がったからかもしれない。

若い時は、自分の事で精一杯になり、どうしても視野が狭くなってしまう。ただその時の悩みなんてものは、10年も経てば良い思い出であり、笑い話だ。その事を、今頑張っている若者たちに伝えたい。今は理解出来ないだろう。それでも伝えてくれる人がいるだけで人生は大きく変わるはずだ。

自分の価値観を押し付けるのではなく、人生には沢山の選択肢があり、価値観があることを伝えることが、これから僕のしていくことだと思っている。


無事にビザを取得することが出来、準備も着々と進んだ。

8年住んだ家に別れを告げ、2015年6月30日フランスへ。

フランスへ行く事で、何かが変わるわけではない。そんな魔法は存在しない。

ただ、行かなければ分からない、感じられない『何か』は沢山ある。

その『何か』を探しに僕は日本を離れ、フランスへと旅に出る。




2015年7月1日、16時間の長旅を終えフランスの地に足を踏み入れた。8年前に初めて訪れた時より、空気も風のにおいも鮮明に感じられた。これから1年間をどう過ごすのか、期待と不安が混じった気持ちを忘れることはないだろう。

モスクワ経由で来た飛行機でスーツケースが来るのを待っていたが一向に来ない。

どうやら僕1人ではなく、5人の日本人がロストバゲージにあったようだ。空港に着いた瞬間のトラブル、係員に聞いても「どこにあるか分からない、着いたら知らせるから連絡先と送り先をかけ」と言われるだけで、それ以外は分からないまま。包丁や調理器具、替えの服まですべてを失い、僕はタクシーでこれから住む家へと向かった。

パリ5区にあるレストランSORA、その近くに家はある。RED35でもお世話になった吉武シェフに挨拶に行き、到着と現状を伝え、「荷物が見つかればSORAに届きますのでお願いします」と言いその日は終わった。

今となっては笑い話だが、当時は本当に笑えなかった。荷物が見つからなければ何しにフランスへ来たかも分からない。インターネットも使えない中でどうすることも出来ない気持ちの中眠りにつけたのは、長旅の疲労のお陰だろう。

次の日は朝から着替えと携帯を探しに街を散策し、あまりにも早口なフランス人の言葉についていけず心を折られたが、何とか手に入れることが出来、最低限の環境だけは整えた。1年間必死にやったフランス語でこれなら、勉強しなかったらどうなっていたのか。真面目に勉強した自分を少しだけ褒めた。

家に着くと荷物が届いたと連絡があり、やっとフランス生活が始まるんだなと少しだけ胸をなでおろし、穏やかな気持ちで眠りにつく。明日からはもう少しフランスを楽しめそうだ。

働き口はまだ決まっていない。ただ、どうしても働きたいお店はノルマンディーにある。

『Sa.Qua.Na』というレストランだ。2週間後に予約をしているこのお店で働けるかどうかが分かるまでは、他のレストランを探す気にはならなかった。

海の近くで働きたい。その想いを胸にノルマンディーまで僕は行く。



皆様の優しさに救われてます泣