Food Engineerという考え方。

今朝こんなツイートをしました。

D2Cブランドというワードがここ数年で完全に定着しました。その定義や内容は興味がないので割愛しますが、もはや概念として人気がある様な気がしています。これをやっているとイケているかの様な雰囲気です。

みんな表面上の手法(マーケティング)に興味が強そうな印象を受けますが、そこよりももっと大切なものがあると思います。実際に物作りをしてる人でも難しい管理の部分ですね。

D2Cでやろうと思っている人がどこまでの規模でやりたいかは分かりませんが、製造するにあたってボトルネックになる部分はいくつもあります。製造キャパ、必要な人員数、材料の供給、製造拠点、配送経路、製造と販売のサイクル、食なら賞味期限、ロス、商品開発、食材の知見、調理技術、衛生観念などなど。細分化するともっとあります。

僕は食の人間なので食の話をすると、レシピを作る、美味しさを作るというのはクリエイティブよりのアートの部分が強いです。これに必要なのは食材の知識や調理方法、美味しさをどうデザインするかという調理知識と技術。ビジュアルを整えるためのスタイリングやセンス、色彩感覚なんかも必要です。

これはあくまでもお皿の上をどう作り込むか?の能力ですね(ECなら商品)

基本的にはここを多くの人が求めているのでレシピ開発を外出ししたり、アドバイザーになってもらったりします。ここは普通の料理人ならある程度可能なはず。

僕はエンジニアではないのであくまでもイメージなのですがこの辺りはフロントエンドの仕事だと思います。(エンジニアさん教えてw)

ではバックエンドはどの様な能力なのか?これからお話しします。



食のバックエンドとは。


例えばAという料理を作る上で必要な食材はどこからどれくらい調達可能で、年間でどれくらい確保できるのか?その場合どのくらいの規模まで生産可能なのか?

Bという料理を作る工程で絶対に必要な機材は何で、そのコストはどれくらいかかるのか?それを導入する事で何がどれくらい効果があるのか?

Cという料理を作るにあたり、それくらいの人員が必要で1時間あたり何食作れるのか?これを改善するにあたりオペレーションをどう構築改善するのか?

Dという商品を配送する場合に気を付ける工程は調理工程なのか、その後の配送オペレーションなのか?届いた後の管理なのか?

まだまだ細かい事をあげるとキリがないのですが、この商品を作ると決めた時(決める前も)に実装するのに必要な事項は何なのか?という事を考えるのが食のバックエンドの能力です。


この能力は可視化があまりされておらず、表面上の美味しさでその商品の価値を測られる場合が多いです。だからこそ商品開発や美味しさのデザインが注目されます。

しかしD2Cという形で(もちろんそれ以外も)食のビジネスを構築していく場合、製造オペレーションと提供までの流れ(配送含む)を考慮した上で商品開発をするべきです。どんなに美味しくても商流に合わない、提供に時間がかかるとなれば、スケールさせる事は極めて難しい。(スケールさせたいという意思があれば)

美味しさをシームレスに届けようと思った時に、製造の問題と供給の問題を解決しなければならず、そのためにはバックエンドをどう構築するかが重要になります。

特に今回のコロナ禍の様に人の移動や行動が制限される状況になれば更にその重要度は上がり、美味しいだけで利便性(機能性とも言えるfeatureの方)がない料理は今後淘汰されやすい環境に陥ります。

当たり前に人が来てくれた時代から、人の移動コストが高まる事で集客が難しくなる未来は見えています。もちろんある程度元に戻る可能性もありますが、リスクヘッジは考えなければいけないと僕は思います。


製造オペレーションの大切さ。


僕がシェフ時代から意識していた事は簡略化と簡素化です。昔から美味しさにフォーカスしたいタイプだったので、過美な装飾や盛り付けが好きではなく、より味わいに必要なものだけを選ぶ様にしていました。そのため味に直接影響がないのにものすごく手間のかかる装飾は作らないと決めていたり、必要以上の華やかさは切り捨てていました。

この様な美しさが求められていた時代ももちろんありますし、今も求められている部分も少なくないと思います。でも僕はナンセンスだと思っています。それはただでさえ人が減っているキッチンで、ある種見栄の様な表現をする必要性を感じないからです。

見た目の為だけの仕事はしない。その代わり味に必要なものは突き詰める。そんなスタイルです。綺麗な料理を食べても人は感動もリピートもしません。美味しくないと人の心は動かないからです。

限られたリソースを使いどうやって最大の成果を出すのか?選択と集中をどんな時でも考えていました。人が少ないからできないではなく、最初から人が少ない前提に立った上で他よりも成果を出すために何ができるのか?ここを突き詰めるしかないのです。

僕の働いてきたレストランで人件費は固定費でした。何時間働こうが月給で決まっている。そしてそれが良しとなる業界。今は少しづつ変わってきていますが、僕はおかしいと思ってます。

10時間でも14時間でも給料は一緒。働けば働くほど時給換算すると下がるのです。こういう話をすると『良い料理を作るには時間がかかる。だから仕方ない』『自分で選んだ道なんだから当たり前だろ』という声が聞こえてきます。本気でこんな事を思っているのか???

体力的に大変とか、その職業ならではの大変さがあるのは理解できますが、それが労働時間の延長と直結するのはあまり意味がわからない。そうしなくて良い様にスタッフをシフト制にしたり、営業時間を短くしたりと店側でできる対応はいくらでもある。それも店の都合で当たり前にしてはいけない。

だからこそ決められた時間内でいかに良いものを効率的に生み出すか?を真剣に考えるべきだと僕は思います。それか働いた分しっかりと残業代を払う。至極当然の事が当たり前にされていないのはもう時代遅れです。

その仕事が本当の意味で働くスタッフのためになっているか?を考える必要がある。時代は変わっているのです。


時間の意識を変える。


会社として時間の意識を持つ事で、スタッフの意識も変わります。自分の業務にどれくらいの時間がかかっているかを理解する事は、1日にどれくらいの業務をできているかが把握しやすくなるからです。この辺りの認識の共有も食のバックエンドには必要です。

同じ美味しさであれば、少しでも早く作れて提供できる方が時間あたりの価値が上がります。美味しさを生み出す中でどこまで業務を簡略化できるかを考え抜く。必要以上に作業を増やしてないか、フローの中で削れる数秒はないか、キッチンの設計で負荷のかかるポジションはないか?

効率化というと簡素化と思う方がいますが、大前提先にやるべきは簡略化です。複雑になってしまっているオペレーションをどう簡略化してクオリティーを変えずに製造工程をスムーズにするか。これは自社でなくてもOEMでも知識があれば介入できる領域です。

根本的に人は怠ける生き物です。ほんの少しの違和感ならば見逃して変化を嫌います。しかしそのほんの少しの違和感を改善し続ける事で効率化が図れる。ここがまだまだテクノロジーが使われていない領域です。ここの改善だけで食の可能性が大きく広がります。

良い商品が無理なく効率的に製造できて無駄も出さずに提供できる。そしてお客様は喜び、スタッフも幸せになる。簡単な事ではありませんが、これを目指さなければいけないと僕は思っています。

感動する美味しさ生み出す技術と感性、そしてそれを社会に実装する理論。この両輪をどう磨いていくかがこれからの食の領域には大切です。

そして伝える技術、マーケティングやPR、SNSをどう活かすか。必要な能力は際限がありません。表面上の能力だけでD2Cは成り立ちません。

自分にはどの能力があるのか?無い能力をどうやって補うのか?1秒まで考え抜く意識が食の領域を変えていくと思います。今までの風習や慣例なんかは関係ありません。どんな未来を描きたいか?そのためにやるべき事をやる必要があると思います。

ちょっと話が飛び飛びですが、食のバックエンドをどう構築するかが今後の鍵になると僕は信じています。




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