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私が動物園取材を通して勉強していること 【プロ資格マニアの軌跡】

私がライフワークとしての動物園取材、ビジネスモデルとしての動物園を取材することをなぜ続けているのか、そこから何を学んでいるのかについて書く。この記事は論文ではないので、論理の飛躍や独特の思考が紛れ込んでいるかもしれないが、お許しください。


あるとき赤ちゃん熊と写真を撮った

家族で奥飛騨クマ牧場に旅行し、赤ちゃん熊を膝にのせて写真を撮ってもらった。まだ2頭身と言っていい赤ちゃん熊はかわいかったが、大きな爪を見ると猛獣なんだなぁと感じた。

正直言って私は「知らない人に何度も抱き上げられたりして、赤ちゃん熊は面倒くさいとか思ってるんだろうな」と決めつけていた。今は違っているかもしれないが、その当時は、被写体となる私の手のひらに餌をのせて与えることで、赤ちゃん熊にカメラのほうを向いてもらうようになっていた。その餌を食べ終わったら、赤ちゃん熊はすぐ膝から降りるんだろうと思っていた。

写真撮影がすむと、予想に反して赤ちゃん熊が私に抱き着こうとしてきた。爪の大きさ、鋭さに驚いたのは、このときのことだ。飼育員さんが、少し慌てて離そうとしてくれた。別にケガもなかった。

ただ、赤ちゃん熊の気持ちを勝手に決めつけていた私には、驚きだった。

もし、赤ちゃん熊が人の膝に乗せられるたびに「この人、遊んでくれるんじゃないの?」と期待しては、すぐに離されているのだとしたら、それはそれで気の毒だ。

クマ牧場を維持していくためには、一定の収入を上げなければならない。餌代や施設の管理費、クマたちの医療費などが必要だからだ。多くの人に興味を持ってもらい、足を運んでもらうためには、赤ちゃん熊との記念撮影とか、グッズ販売、餌の販売などで、お金を使ってもらわなければならないだろう。赤ちゃん熊の負担はあると思うけれど、健康管理を行った上で、負担をしてもらわなければいけない部分も、あるのかもしれない。

「熊かわいい」「熊は人を好きになることがあるのか?」「熊の生態を知りたい」のほかに、「経営ということ」を意識したきっかけはこのときにあった。

当時「ホームサロン」についての記事を書いていた

少し話は飛ぶが、自宅の一室をネイルサロンやエステティックサロン、マナー講座やティーインストラクター養成講座を行うカフェとして起業する人のための記事を、書いていた時期がある。

そのような形で起業した人の中にも、残念ながらうまくいかない人もいた。そして、うまくいかなかった理由として「内装などに、やみくもにお金をかけすぎた」ということを挙げた先生がいた。

「ん? でも、あまりにも何もない空間で、ネイルとかマッサージをを受けるのも、お客さんは緊張するのでは?」

と思ったのだが、先生によると

「もちろん、不快感を与えない、リラックスできるような部屋づくりは大切。問題なのは『自分の作りたい空間』にこだわるあまり、お客様がその空間をどう感じるのか、そして投資したお金をいつごろ回収できるのかの計画性がなかった」

という点が問題だったのだと。高価な設備、内装などを導入すれば、メンテナンス費用もかかることを忘れてはならない。

そして、サロンを開いたばかりのころは、新規のお客様を獲得することが大事だが、息長く続けていくためには「お客様が繰り返し利用してくれる環境を作る」ということが重要になる。サロンオーナーが作りたい空間と、お客様が繰り返し利用したい空間のイメージが一致していなかったり、技術的、料金的に折り合わないということがあると、リピーターがつかず、サロン経営は先細りになるのだ。

サロンオーナーの中には、どんどん斬新な技術を取り入れ、時代の最先端をいくサロンを作りたいと思う人もいる。でも、お客様の中には「これまでと同じように、これからも施術してほしい」という希望があることも。

たとえば美容院で「斬新な髪形をどんどん進められるのがうれしい」というお客様もいるかもしれないが、それよりも「同じヘアスタイルをキープしたい」「いつ行っても、同じように施術してほしい」と思う人もいる。そのようなニーズを無視し「あれやってみましょう、これやってみましょう」と進められると、居心地が悪いと感じるお客様もいることだろう。

そういう取材を続けていたことで、動物園に行くと、ぼんやりではあるが「経営、運営」の面に目が向くようになった。

錆びた手すりや通路の雑草がそのままになっている園は減った

私が子どもだったころ、遠足で出かけた動物園では、錆びた手すりがそのままだったり、道端に雑草が生えていたりすることもあった。でも最近、そのような園は少なくなっている。

天王寺動物園の改革に関する下記の資料の15ページにも「今やるべきは大規模投資ではなく、美化、修繕、顧客目線でのサービス改善」という指摘が、平成24年11月に上山特別顧問からなされたとの記述がある。

動物園を派手に、見栄えよく建て替えれば、瞬間的には人が集まるかもしれない。

でも、錆びついた手すりがそのままだったり、雑草やゴミが散らばっていたりする園には、施設がどんなに立派でも人が来なくなる。

動物園はリピーター獲得がしやすいはず

動物園は本来、公園や遊園地に比べてリピーター獲得がしやすいのではと思う。なぜなら公園や遊園地の設備は、いったん導入すれば撤去されるまで同じ動作を繰り返すだけだが、動物には「成長し、家族を増やす」というライフイベントが起こるからだ。

そのような楽しみがあるのに、リピーターがつかず入園者がへってしまうとしたら

・楽しみがあることをアピールできていない
・施設が管理されておらず不安や危険を感じる
・バリアフリー化が進んでいない

などの、楽しみを打ち消すほどの何かが、動物園側にあるのかもしれない。

このような点を改善すれば、入園者数が回復、増加する可能性は十分あるのではないか?

実際、天王寺動物園の資料でも、上山特別顧問の指摘を受けて改革を進め、入園者数が回復していることが示されている。

動物の幸せや健康も考慮しなければならない

他の施設と違い、動物園では経営の都合だけを考えればいいのではなく、動物たちの幸せや健康も考慮しなければならない。動物園は博物館の一種であり、教育施設としての面もあることを考えると、動物たちが幸せに過ごせるよう配慮してこそ、動物園としての意味があるだろう。

各動物園にある「ふれあいコーナー」とか、この記事の初めに書いた子熊を抱っこしての写真撮影とかは、人間にとって楽しいことだが、動物の負担も見極めながら進めなければいけない。

利益の最大化だけを追求できないという事情が、動物園の運営には生まれてくる。そして、動物園ごとに「何を目指し、何を捨てるか」の選択が異なっている。実際に現地に出向いて、じっくり滞在していると「この動物園は何を目指しているのかな?」ということが、なんとなく見えてくる。その方向性を、後に動物園が公表する資料などで確認することが、私にとっては勉強になる。

そして現在の私は

動物園でこのようなことを続けているうちに、カフェや洋服屋さんに行ったときにも、「この店はどんな経営を目指しているのか?」と考えるようになった。現地で見たもの、感じたことをもとに自分なりの考えを整理した後で、各企業やブランドのWebサイトなどで確認する習慣がついた。

コンサルティングを行うとき、お客様の情報はできるだけ事前に調べるのだが(ライターとしてインタビュー取材をするときも同じ)、Webサイトで確認できる情報だけでなく、お客様の言葉や雰囲気から読み取れることもたくさんある。言葉になっていない何かを読み取るためには、地道に訓練を続けていくしかない。

これからも、多くのお店、そして動物園を訪ねて、感覚を磨いていきたい。

河野陽炎の本とコンサルティング


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