見出し画像

ちょっと立ち止まって、今を見つめて/ほしおさなえ「言葉の園のお菓子番 見えない花」

いまここにある言葉の向こうに、見えない花のようにここにはない言葉がある。年を経るごとにそれが重なりあってゆく。

「言葉の園のお菓子番 見えない花」は、ほしおさなえさんの新シリーズ第1作目です。ほしおさなえさんと言えば、「活版印刷三日月堂」を、以前こうさぎも紹介させていただきました。優しく丁寧な文章が印象的な作家さんです。

主人公の一葉は、勤めていた書店が閉店してしまい、現在失業中。そんな時に出会ったのは、亡き祖母が生前やっていた「連句」でした。
祖母に倣って、毎月季節のお菓子を持って連句の会に行くうちに、徐々にその奥深い世界に魅了されていきます。
連句を通して出会った人たちから、書店員の経験を活かせる思わぬ依頼が舞い込むこともあり……。
未来に一歩踏み出し、新たな世界を見ることの素晴らしさと感動を描く物語です。

この本はこんな人におすすめ

①俳句が好き
②お菓子が好き、甘党だ
③優しい世界観に浸りたい

それでは、この作品の魅力をご紹介していこうと思います、ぴょん!

*連句がテーマの小説

連句とは、前の人が作った五七五に七七を付け、その七七にまた五七五を付けて、その場にいる人たちで言葉を繋げて様々な世界観を作り上げる遊びです。
多くのルールがあって少し堅苦しい印象もありますが、端的に言えば「言葉遊び」です。
本作では、連句に参加している人どうし、雑談や、作られた句への考察を挟みながら和気あいあいと連句をたしなむ様子が生き生きと綴られています。
私もその仲間に入って連句をやってみたい!と思えるような、素敵な描写です。個人的に、「捌き」と呼ばれる役を行う航人さんの言葉が、どれも胸に迫るものがあり好きでした。

*季節の移り変わり、見えてくる未来

一葉の祖母は、自身のことを「お菓子番」と称し、連句の会がある度に決まった季節のお菓子を持って来ていました。一葉もそれに倣い、毎月、祖母のリストにあったお菓子を持って会を訪れます。
その度に、淡々とした日常を送っているだけでは気づかない季節の移り変わりを感じます。そして、失業していた一葉にもたらされる縁と、繋がる人々の関係性。劇的な展開も事件も起こらないけれど、じんわりと心に沁みる言葉が連なっています。
早く続きが読みたくて、続きが気になって仕方ないのに、いつまでもこの世界観に浸っていたい、と思う作品です。

ちなみに、こうさぎは少しですが俳句に造詣がありまして、連句の場面には、「分かる!」と共感してしまう部分がたくさんありました。
自分の言いたいことや想いが、17音の中にぴたりとハマった時の感動と言ったらありません。この小説を読んで「俳句」や「連句」に興味をもった方は、是非、歳時記などもチェックしてみてください。
その奥深さに、一葉のように魅了されるはずです。

連句とお菓子がテーマの物語。その優しい世界観に、是非、浸ってみてください、ぴょん!


(2021年10月2日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?